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米の新海洋戦略に対する中国の反応 - 岡崎研究所

ハドソン研究所米海軍力センターのマグラス副所長が、National Interest誌ウェブサイトに4月10日付で掲載された論説にて、3月に公表された米の新海洋戦略について、今回報告は中国を名指ししており、中国は強い反応を示すかもしれず、米中の海軍力競争は今や双方が公然と認める競争となっている、と論評しています。

 すなわち、2015年海洋戦略は、具体性に富み、また、作戦志向的になっていることで、専門家からは前向きの評価を受けている。他方で、中国の反応はどうだろうか。

 前回の2007年海洋戦略は中国を名指しすることを避けた。当時のマレン海軍作戦部長は、行間を読めば中国もわかるだろうと名指しをしないことに決めた。マレンの予想は正しかった。米国がその世界防衛システムを一層強化し世界での主導者としての役割を維持していくことを婉曲的ながら鮮明にしたことを、中国関係者は決して好ましいものとは受け止めなかった。

 今回の海洋戦略には、そのような婉曲さは全くない。新海洋戦略は、海軍、海兵隊、沿岸警備隊が共同行動を行うことができるように、アクセスを確保し維持するために必要な作戦能力の戦略に焦点を置いている。アクセス確保の戦略は、中国が(それほどではないがイランも)取っている接近阻止・領域拒否戦略(A2/AD)に対抗するためのものである。中国は米国の圧倒的に有利な投射能力に対抗するため、海洋の自由な使用を拒否する必要があることを認識している。前回と違って、今回報告は中国を名指ししている。

 また、新戦略は、米国の強みである同盟国等のネットワークの重要性を強調している。豪、日、NZ、比、韓国、タイとの協力強化とともに、インド等との協力関係の推進を強調している。これを見て、中国は包囲網の構築を感じるだろう。2007年戦略でさえ中国封じ込めの文書だと考える中国関係者もいたので、今回の戦略には一層強い反応があろう。

 中国は、中国包囲網が作られているとして、海軍の増強・近代化や介入対抗戦略の強化を正当化しようとするだろう。更に、中国は南西アジアやアフリカばかりでなく米本土に近い南米やカリブ海地域に中国の基地などのネットワークを拡大することを試みるかもしれない。また、米戦略の中心的な狙いが中国にあるとして、中国関係者は、大国としての自尊心を一層強固にするかもしれない。最後に、中国はこれまで静かに海軍力強化を推進していたかもしれぬが、そういう時代は終わった。これから米中の競争が始まる。今や双方がそれを公然と認めている、と論じています。

出典:Bryan McGrath,‘America's New Maritime Strategy: How Will China Respond?’(National Interest, April 10, 2015)
http://www.nationalinterest.org/blog/americas-new-maritime-strategy-how-will-china-respond-12592

* * *

 2015年海洋戦略は、マグラスの言う通り、(1)中国の介入拒否戦略(A2AD)に対抗するための米海軍力の強化の必要性と、(2)日本等同盟国・友邦との協力ネットワークの推進の重要性の二点を強調しています。今回の戦略で中国が名指しされたことには大きな意味があり、同時に米が日本等同盟国との協力をいかに重要視しているかを示しています。

 マグラスは、今後あり得べき中国の反応につき四点を指摘していますが、その中で最も目を引くのは、中国が今後南米やカリブ海地域で基地などのネットワークを構築してくるのではないかとの指摘です。これは、冷戦時代のソ連の動きを想起させます。中国は、2014年7月の習近平主席の中南米訪問や今年1月の中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム(CELAC)の北京開催など中南米との関係強化を図っているほか、中南米諸国との軍事交流も活発に進めています。

 マグラスが言うように米中海軍競争の公然化により、中国は海軍力増強の一層の口実を得ることになるかもしれません。しかし、A2AD戦略の強化や沖縄の海峡を通じる太平洋進出の常態化等に見られるように、中国は既に海軍力強化に乗り出しており、今回報告が中国の政策に特段の影響を与えるというより、むしろ、中国は米国の決意を再認識したのではないでしょうか。その意味で、今回報告は、明示的な戦略宣言の効果により、米の対中抑止力と信頼性の向上に貢献したとみるべきしょう。その点、今回報告は前向きに評価すべきと思われます。

 今回報告では、「インド・アジア・太平洋地域Indo-Asia-Pacific」という新しい地域概念を打ち出し、この地域での中国の海軍力拡大に言及、これは「機会」でもある(ソマリア沖の海賊作戦参加など)が、「挑戦」でもある(中国の威嚇的行動、透明性の欠如、A2AD推進など)としています。中国を念頭に置けば、インド・アジア・太平洋という概念は合理的でしょう。

 また、報告は、A2AD対抗能力について、抑止力、海域支配、投射能力、海洋安全保障に加え、今回、新たに「全域アクセスAll Domain Access」という考え方を提示し、これは陸海空軍、宇宙、サイバー空間等を含め米軍の自由な行動を確保するためのものと説明しています。宇宙、サイバーについては、今般合意された日米新ガイドラインでも強調されています。こうした面での日米の協力の進展が加速することが期待されます。

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