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エアギター化する老後の保証 富の再分配装置の肥大化をリセットするには?

【言論アリーナ】立ち上がれ! 団塊ジュニア!!という動画が、結構面白かったです。



これは4月25日に幕張メッセで開催されたニコニコ超会議を録画したもので、登壇者はアゴラ研究所所長池田信夫、ソーシャルアナリスト新田哲史、千葉県議会議員水野ゆうき、政策コンサルタント宇佐美典也の各氏です。

みんなしっかりした意見を展開していて傾聴に値するのですが、とりわけ個人的には宇佐美典也氏のファンなので、動画の41分頃から激しくメルトダウンする宇佐美氏が見どころだと思います。その壊れ方に、他の登壇者がドン引きする様子が白眉デス。

まあそれはともかく、宇佐美氏の言う「どう頑張っても年金破たんは避けられない」という主張は、データ分析を商売にしている僕みたいな人間からしても納得の行く主張です。

有り体に言えば、日本の社会保障制度は、数字的には「終わっている」ということ。

だけど寅さん風に「それを言っちゃ、おしまいよ」的な雰囲気があり、「年金や健康保険は、いつまでも、そこにいてくれる」式のファンタジーの中で、みんなぬくぬくと生きているわけで。

最近は(それが幸せなのかもしれないな)と思い始めている私です。ものがたりの結末が悲惨なのであれば、せめて「今は、言わないで!」みたいな。

実際、今の日本は暮らしやすいです。なぜなら、日本経済の実力以上の公的補助があるから。でも日本の財政の実態は三流国と同等です。だからギリシャで起こったような急激な生活水準の訂正が、日本で起こる可能性も無いとは言えないと思います。

僕はアルマゲドン論者じゃないけれど、日本人は政府の役割に期待し過ぎだと思います。国に税金を納めて、その代り社会保障制度の恩恵に浴するというGIVE & TAKEは、突き詰めて言えば富の再分配のメカニズムに過ぎません。

しかし、その再分配装置が、とても非効率になってしまえば、再分配装置が存在する方が、それが無いときよりも国民全体として不利益をこうむる場合もあります。

日本は他国に比べて「結果の平等」を重んずる社会であり、そこには「みんなと同じにやっていれば、みんなと同じ暮らしぶりを享受できるに違いない」という強い思い込みがあります。

経済格差という結果を補正する制御装置にインプットするものが不足してくると、装置ばかりがカネを浪費し、全ての人にとって不満足なアウトプットしか出せなくなる日が来るかもしれません。

その日が来たら、再分配装置そのものを放棄しなければいけなくなります。

でも、これには逆のやり方もあります。

それは、再分配装置そのものは政治的な理由からタッチできないので温存しておいて、それ以外の条件をドラマチックに変えてやることで、つじつま合わせをするというやり方です。

実際に、第一次大戦後のドイツで、それが起きました。当時、戦争から帰ってきた軍人さんへの恩給を払い続けなければいけないという事情があり、しかもドイツは賠償金の支払い義務がありました。それらのもろもろの支払い義務に応じる方便として、輪転機をフル回転で回し、紙幣を刷ったわけです。これがハイパー・インフレになった原因です。

ハイパー・インフレでは年金のような、毎月の給付額が固定している公的扶助を受けている人たちだけが、「一人負け」します。

言い換えれば、政治の手続きを経由して持続不可能な政策を改変することが出来なくなってしまったので、経済運営上の奇策を繰り出すことで「逆転勝ち」に持ち込んだというわけ。

もちろん、日本の社会福祉の予算を立て、運営している人たちは、一生懸命頑張っていると思います。でも知らず知らずのうちに富の再分配の機構が肥大化し、官僚化する病理についてはミルトン・フリードマンが「選択の自由」の中で下のような図をつかって解説しています。

リンク先を見る

おカネを使う際、我々は自分のおカネか、若しくは他人のおカネを使います。またその際、自分自身のためにそれを使っているかもしれないし、他人の利益のためにそれを使っているのかも知れません。

①は自分のおカネを自分のために使うケースです。スーパーで買い物するとき、なるべく賢いおカネの使い方を心掛ける……それがこのケースに相当します。

②は自分のおカネを他人のために使う場合です。クリスマス・プレゼントなどがこのケースに相当します。

③は誰かのおカネを自分のために使うケースです。社用費で食事する場合がこれに相当します。この場合、どうせ会社が払うのだから、安く上げようという誘因は弱いです。その一方で(なるべく美味しいものをたべたいな)と考えるのが人情です。

④は他人のおカネを他人のために使う場合です。たとえば会社の接待費でお客さんを接待する場合です。もし自分もそこへ居合わせるのであれば、安く上げようとする動機付けは薄くなります。HOOTERSのような店が繁盛する理由がここにあります。

さて、福祉政策はフリードマンによると全て例外なく③に属するそうです。また福祉プログラムのうち公共住宅プログラムなどは④に属します。

これが再分配装置が非効率化、肥大化するメカニズムです。

社会福祉プログラムは、それが始められたときは小さなプログラムで、国民ひとりひとりの負担も小さかったです。その事情はアメリカでも日本でも同じです。しかしそれがだんだん大きくなり、しかも人口動態的にサステイナブルでなくなると、ある時点で約束が果たせなくなります。つまり老後の保証のエアギター化です。

老後の保証が「絵に描いた餅」になったとき、政治的過程を通じて「あなたの取り分は小さくなりますけど、ヨロシク」という約束の下方修正をすることが必要になります。

それがイヤならハイパー・インフレに代表される、ウルトラC的な奇策で乗り切る方法もあります。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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