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子どもNISAは子どもの未来を拓くのか?

5日、子どもの日の日経新聞オンラインに『1.2兆円流入も 子どもNISA が未来開く』という記事が掲載されていました。2016年から始まる子どもNISA(投資金額年間80万円までキャピタルゲイン非課税)により、多くの子どもが自分で投資できるようになるという趣旨の記事ですが、非常に違和感を覚えました。

記事によると、子どもNISAによって投資に関心をもつ子供が増え、その結果1.2兆円が投資市場に流入するということで、母親に薦められて10歳から株式投資を始めたお子さんや、8歳で投信セミナーに父親と参加するお子さんなどが紹介されています。セミナーの講師は「お金を増やすには自分が働く、お金に働いてもらうという2つの方法があります。後者が投資です」と語っていますが、まだ前者の「自分が働く」こともよくわかっていない子供に投資教育をすることに疑問を感じるのは私だけでしょうか?

断っておきますが、私は大人が金融市場で投資をすることに決して反対ではありません。世界的な低金利が続く中、私自身も老後に備え、いくばくかの蓄えを株や投資信託で運用していますし、投資の神様バフェットが言うように、効果的なリターンを得ようと思うのならばなるべく早いうちから投資を始めるというのは理に適っています。

しかし、自分自身が働いて得るお金の大切さを知る前から「お金に働いてもらう」教育をするのは少し違うと思うのです。

■「お金に働いてもらう」教育で起こったバブル経済

1987年、NTT株の一次放出がありました。1株119万7千円だった取引価格が2か月で300万円以上にもなった現象は、今もバブル経済のあだ花として語り継がれています。

この頃私は社会人として働き始めたばかりでしたが、世の中には「投資をしない奴はバカだ」という声が吹き荒れていました。新聞や雑誌、テレビには毎日のように当時まだ珍しかったファイナンシャルプランナーが次々と登場し、どの株式銘柄を買うべきか、どのように手元資金を増やすかを熱心に指南していました。当時、大学1年生だった私の妹は、そんな声に背中を押されるように、なけなしの貯金をはたいてNTT株を1株買ったのです。

彼女がどのタイミングでこの株を売ったのか、今もまだ持っているのか、聞いたことはありません。しかし、まだ社会のことが何かもわかっていない妹までがこの株を買ったことで、私はバブル経済の崩壊を直感し、その後、いっさい投資には手を出しませんでした。

そして予想通りバブルは崩壊し、投資に失敗して全財産を失った人や、倒産した会社などが私の周囲にもあふれました。短期的に儲けるための投資はギャンブルであることがこれほど明らかになったときはなかったと思います。

■実業の教育が子どもの職業観を作る。

私が子どもの頃、「はたらくおじさん」というNHK教育テレビの番組がありました。

農場、工場、工事現場、商店などさまざまな職場で働く人々を紹介する番組で、家で観る以外にも学校の社会科の授業でもときどき視聴していました。私はこの番組が大好きで、自分も早くおじさんたちのように働きたいといつも思っていました(この嗜好は現在も続いていて、いまだに工場見学が大好きです)。

確かに金融業界はさまざまな実業の世界を支える、なくてはならない産業です。しかし、間接金融の役割はあくまでサポートであり、まず実業の世界があって初めて存在意義がある産業ではないでしょうか。

金融はあくまで「働いてお金を稼ぐ」を助けるためにあるものであって、助けてもらったお礼として投資家はお金をもらえるはずです。ですから、お金自身が働くのではなく、実際に働いた人たちからお裾分けとして投資した人に与えられるものがキャピタルゲインなのです。

子どもたちがこうしたことをよくわかってから始めるのが、本当の投資ではないかと私は思います。

■金融市場に資金を流入させたいなら、まず大人のNISA枠拡大を。

記事によると、NISA枠を子どもにまで拡大する理由は、現在、60歳以上が7割を所有する有価証券市場の主役を、下の世代に裾野を広げていきたい、という思惑のようです。

しかし、戦後世代から団塊世代の60歳以上がもつ資産のほとんどは、「お金が働いてきた」お金ではありません。70年前の敗戦からこの世代の方々が必死に働き、こつこつと貯蓄や投資してきたお金が現代の日本に存在する金融資産なのです。このことをまだ年端もいかない、働くことも知らない子供たちが理解できるとはとても思えません。

もしも若い世代に本当に金融市場に入ってもらいたいのなら、子供枠ではなく、現在の大人のNISA枠を広げて1人200万円にしたらどうでしょうか? 最近の経済政策では「孫になら祖父母も喜んで貯金を差し出すだろう」という目論見があちこちで透けてみえますが、大人が責任をもって金融市場に投資をするのであれば私も大賛成ですし、わざわざ子供をだしに使う必要はありません。

■信託財産は子供が成人するまでプロが運用していた。

欧米の近代小説を読むとときどき「信託財産」というものが出てきます。これは、お金持ちの子どもが成人するまで、信頼できる信託会社に財産を預け、一定の年齢になったら子どもがその後の生活に困らないように財産を渡す、それまで信託会社がしっかりと投資をして預託された財産を守る、というシステムです。まだ社会経験のない子どもに大金を渡したら見境なく使ってしまうので、一定の年齢までは渡さないようにする、という前提で考案されたものであったのだと思います。

信託会社には投資をする会社を選び、数十年という長いスパンでクライアントの期待に応えられるよう、プロとして財産を管理することが求められました。

翻って現代では「ミセス・ワタナベ」に象徴されるように個人投資家があふれていますが、投資の世界で全員が勝つことはありえません。長期的にみれば少しずつ蓄えを増やしていく人もいるでしょうが、そのときは物価も上がっていきますから、ほんの一部のセミプロたちを除けば大多数の人々は物価上昇に対してトントンか多少増やせれば良しとする程度でしょう。

一番良いのは、インフレに対して応分の金利が払われ、少しずつでもしっかりと貯蓄をしていく、余裕があれば少しずつでも投資市場で長期的視野にたった投資をすることだと私は思います。

そして個人の短期投資はあくまでもギャンブル性が高いことを忘れず、子どもたちにも良識ある大人がしっかりと教えてほしいと思うのです。

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