- 2015年05月04日 10:00
時代の最先端は子供たちに学べ - 茂木 健一郎
最近、いくつかの中学校、高校でお話をさせていただいて、学生たちと対話をした。
こちらから、脳の話をするだけでなく、彼らの話も聞く。「君たちの中で、一番のオタクは出てきて!」と言うと、喜んで出てくるやつらがいる。
それで、何のオタクなの? と聞くと、好きなアニメや漫画、ゲームのタイトルを言う。「へえ、それ、どんな作品なの?」と尋ねると、本当にイキイキと、その世界観や、キャラクター造形、ストーリーについて解説してくれる。
一方、学校の講堂や体育館に来ている保護者たちや先生は、子供たちが夢中になっている作品を、ほとんど知らないことが多い。
たとえば、最近ある中学校で聞いた作品は、『弱虫ペダル』という漫画。子供たちは、かなりの割合で知っていたが、保護者や先生たちは、ほとんど知らなかった。私も実は、恥ずかしながら教えられるまで知らなかった。
『弱虫ペダル』は、学校の自転車競技部の話らしく、さまざまな性格の登場人物が出てくる、感動的なストーリーのようだ。私の世代にとってはなじみの深い『巨人の星』や『あしたのジョー』のように、スポーツ漫画だが、時代が流れて、やはり現代的なテイストになっているらしい。
ここには、ビジネスをやるうえでも役に立つ、一つの発想のヒントがあるように思う。現代のことを知りたければ、子供たちに聞くのがいい。彼らは時代の最先端の感覚を、ごく自然に身につけていて、「次に来るもの」に興味を持ち、一心に向き合っている。
考えてみれば、私たちが子供の頃も、いろいろな漫画やアニメに夢中になっていたけれども、周囲の大人たちは、必ずしもそれを把握していなかった。そして、当時私たち子供が夢中になっていた作品のいくつかは、今や「古典」となっている。
時代は繰り返す。今の時代もまた、子供たちの心をとらえている作品こそが、「次の時代」につながる動きなのだろう。その熱い潮流を知るためにも、時には子供たちに、「今何が流行っているの?」と尋ねるのがいい。
『妖怪ウォッチ』のような、社会現象になるほどの大ヒットになれば、自然に大人たちの目にも入ってくる。問題は、そこまでの大ヒットにならなくても、子供たちが夢中になっているもの。それらの作品群について、大人たちが謙虚に子供に聞くことで、新しい発想へのヒントが得られるのではないか。
ところで、対話を重ねる中で、日本の子供たちの強さと、その逆の課題も見えてきたように思う。
日本の子供たちが夢中になっている作品は、そのまま、日本の強さの象徴でもある。漫画やアニメ、ゲームにおける「コンテンツ」の制作力は、日本は世界の中でもおそらく際だって強い。このような作品群たちは、これからも「クール・ジャパン」を支え、日本経済の一つの鍵となろう。
それに対して、気になるのが、日本ではコンピュータのプログラムを中学校あたりからばりばり書くオタクが、比較的少ないことである。
アニメや漫画のオタクの数に比べて、プログラムのオタクが少ない。このような子供の世界の現状は、そのまま、日本の競争力の実状に反映されているように思う。
日本の可能性も、課題も、子供たちとの対話から見えてくる。だからこそ、身近な子供の声に、耳を傾けたい。
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