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ソーシャルメディアSnapchatがCNNのスター記者を釣り上げた

ニューヨークタイムズ(NYT)のMike Isaac記者によると、若手政治記者にとって、テレビジャーナリズムの頂点はCNNのワシントン駐在になることだそうです。

その憧れの職場に、ジョージ・ワシントン大ジャーナリズムスクールを終えて即、配属され、期待に違わぬ活躍をし続け、エリート街道まっしぐら、という感じのPeter Hamby記者(34)が、先日、当ブログでも紹介した躍進中のソーシャルメディアSnapchatへ転身ということで、米国メディアは大騒ぎです。

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ちなみに<peter hamby cnn snapchat>と入力し、グーグルでニュース検索したらNYTのこの記事はじめ51件がヒットしました。私には初耳の人物ですが、若いのにとても評判のいい政治記者のようです。例えば、ワシントン政治に大きな影響力を持つPOLITICOは「米政界関係者の間では、CNNのベスト政治記者として広く認識されている」と紹介しています。

おまけにテレビ向けにハンサム。彼は、なぜ自らテレビの政治記者の頂点から降りたのでしょう。

Snapchatはスマホ用のアプリで、日本ではまだ馴染みが薄いですが、米国の若者に大人気で1億人が利用しているといいます。メッセージや画像、動画がとても簡単に送信できるのですが、最大の特徴は、受信者が見終わってから10秒以内に自然消滅することです。このなにかお手軽な機能にHamby記者が入れ込んだわけではないようです。

当ブログの記事で紹介しましたが、Snapchatは、今年1月から「Discover」というニュース配信の新機能を加えました。メッセージ交換とは別の画面で、契約した11のメディア(パートナー)がそれぞれチャンネルを持ち、画像、ビデオ、効果音、テキストを効果的に交えたまさにマルチメディア的構成の斬新なスタイルのニュースを毎日、最低5本以上を配信するのです。

これが、新聞離れどころかテレビ離れまで起きている、いわゆるミレニアル世代(幼い頃からインターネットに馴染んできた現在18歳から35歳までの世代)に受けたようで、Fortuneの記事では、個々の記事を何人が読み、どのくらい時間を費やしたかという<engagement numbers >について、あるチャンネルの関係者は<mind-boggling:気の遠くなる>ほど巨大だと述べたそうです。そして、今や、その資産価値は150億ドル(1兆7,800億円)以上とされます。

さて、Hamby氏です。彼は先のPoliticoの記事によれば、インタビューにこう答えたそうです。「Snapchatは世界で最もエキサイティングな若い会社の一つだ」「彼らは巨大かつ成長する視聴者を有している」「Discoverは大成功だと見ている」「彼らの生き生きした記事は視聴者を新たな場所に連れて行く潜在力がある」

Discoverに入れ込んでいるようです。実はHamby氏はデジタルにも詳しい政治記者なのです。駆け出し政治記者の登竜門とも言われる大統領選の全米同行取材中にTwitterで発信することで注目されたようで、先日亡くなったメディア記者として有名なNYTのDavid Carr記者の2013年の記事では、「Hamby氏は現代ジャーナリズムのデジタル・フロンティアにどっぷり漬かっている−−ツイッター上での幾分、挑発的な存在感を持って」と紹介されているほどです。そのツイッターのフォロワーは5万人以上です。

そうしたことから、彼は1年前にCNN Digitalの政治担当にもテレビ兼務で指名され、9月から毎週、国内政治状況を軽快に切り取るビデオ番組<HambyCast>を制作してきました。専門家の間でも評判は上々のようです。

何が、最後に転身を決断させたかは知る由もありませんが、こうしたデジタルとも深く関わってきたことが、SnapchatのDiscoverの斬新なニュース作りと成果に関心を持つことになったのは間違いないでしょう。

で、Snapchatでの肩書は正式には明らかになっていませんが、<Head of News>的な存在だろうと多くのメディアが書いています。そして、2016年の大統領選まではCNNにcontributerの形で出演するとのことです。これについてCNNの上席副社長でワシントン支局長のSam Feist氏は支局員にこんな内容のメモを流したそうです。

「我々がSnapchatと提携する最初のニュース機関の一つであることを誇りに思っている。そして今、我々の最高の人材(best and brightest=Hamby氏)をSnapchatと共有することになった。彼の新たな冒険を祝ってやろうじゃないか」

なんだかメデタシメデタシという雰囲気も感じないでもないですが、これに異論を唱えるメディアもあります。<Snapchat shows the power of its platform, hires star CNN reporter>と題するFortuneの記事です。

とても興味深いので、詳しくは参照して頂きたいのですが、Snapchatのようにメディアから記事を提供させて膨大なページビューをもたらす有力なプラットフォームとの関係構築は「ファウスト的取引」−−つまり、当面は儲かるかもしれないがジャーナリズムの魂を失うことにならないか、という疑念を提示しているのです。

記事では、Hamby氏のように伝統メディアからソーシャルメディアにスカウトされた例として、FacebookがTimeの元編集長Dan Fletcher氏を、TwitterがNBC幹部のVivian Schiller氏を挙げ、二人とも1年ほどで転職先を去ったと指摘します。

そして、「二人の経験が示すことは、ソーシャルメディアにおいてはジャーナリスティックな関心は、しばしば第二の関心事になるということだ」とし、Hamby氏の場合も、そうなりかねないと示唆するのです。

「SnapchatはHamby氏に求めるのは、(ジャーナリスティックなことより)おそらく、他の有力メディアに対して、Snapchatに乗っかれば、潜在的な読者を沢山勝ち取れると確信させること」、つまりはファウスト的取引の片棒を担ぐことになりそうだからと。

かなり辛辣ですが、ジャーナリズムがページビューを追うだけになれば変質しかねないという点で本質を突いている議論かも知れません。

そういえば、今日はベトナム戦争終結40周年なんですね。そこでふと思い出したのがデビッド・ハルバースタム氏の有名な著作「ベスト アンド ブライテスト」。

ケネディ・ジョンソン両大統領時代にベトナム戦争を推進したのは、best and brightestと呼ばれ、米国で最高の能力を持つと言われた人々でしたが、結果は米国を泥沼に引きずり込んだだけだったという内容でした。いや、単にHamby氏がCNNの上司にbest and brightestと呼ばれたこととの連想に過ぎませんが。

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