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「教える」ではダメ──日本のおもてなしを海外で根付かせた宅麺の秘訣

今旬のラーメンを自宅でも食べられると評判のラーメン通販「宅麺.com」を運営するグルメイノベーションが、2014年11月に実店舗「TAKUMEN(宅麺)」としてシンガポールに進出。1、2号店を立て続けにオープンし、評判です。現地のラーメン屋とは一線を画し、 ”日本の本物の味” を再現することに成功している宅麺。日本流の商品やサービスを輸出するチームワークを作り上げる秘訣はどこにあるのか、1号店店長の市来洋さんにお話を聞きました。

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宅麺一号店店長の市来洋さん(左)とスタッフのみなさん

「日本流のラーメン」を譲れない部分・譲れる部分

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私はシンガポールに住んでいます。先日、宅麺で ”二郎系”のラーメンをいただきました。あの味を海外で楽しめることにとても感動したのですが、海外で再現するのは簡単ではありませんよね。

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日本の店舗に職人を派遣し数日かけてレシピを起こし、シンガポールの素材を使いレシピを再構築します。味の決め手である醤油や味噌をベースにしたタレは日本から輸入していますが、調理する際には気温と水質に注意を払わなくてはいけませんし、食材はこちらで調達せざるを得ません。

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日本とは環境が異なりますから大変そうです。


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シンガポールは資源が限定的で、食材は輸入に頼るしかありません。よってほかの店と同じ食材で勝負せざるを得ないという難しさがあります。日本では地鶏の鶏油を使用するところが、ブロイラーの脂で精製しなくてはならないなど。ただ、この国は世界貿易の中継地点で、ある程度の品質の食材が入ってきます。国内の低温物流網も整っていますので、アジアの他国に比べて、欠品や遅延が少なく、発生した場合でもすぐにリカバリーできます。

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各店直伝のレシピを使って、本物の日本のラーメンの味を提供することにこだわっていますね。メニューやレシピはローカライズしていないのでしょうか。

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実は各店の了承を得て、”Japanese Taste(ジャパニーズ・テイスト)” とは別に、”Singaporean Taste(シンガポーリアン・テイスト)” を用意しています。入れるタレの量を減らして、塩味を弱くしているのです。


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どんな違いがあるのか、今度自分の舌で確かめてみたいと思います。


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日本で提供されるラーメンと同じジャパニーズ・テイストの塩味は、現地の一部の方にとってはやや濃いようなのです。日本人にも発酵食品やトムヤムクンが苦手という方がいるように、文化が異なるために味覚も異なるからです。ラーメンは ”大衆食” です。本物の味に慣れ親しんでいる方だけでなく、いろんな方に普段から食べてほしいと考えていますので、ローカライズを行っています。最近では嬉しいことに、ジャパニーズ・テイストを選ぶ人が増えてきました。

おもてなし精神を根付かせるには?

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サービス面のローカライズはいかがでしょうか。”おもてなし” の接客を根付かせるために、チームではどんなことをしていますか。

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スタッフには日本流の接客の仕方だけではなく、その根底に流れている日本流の ”思想” を伝えるようにしています。たとえば、”お客さんに喜んでもらいたい”といった、私たちにとっては普遍的なことです。

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その思想はどうやって伝えてますか?


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思想を理解してもらうために有効なのは、目的やケーススタディを共有することです。たとえば、宅麺ではサービスチャージとして10%をいただきますので、15ドルの注文を受けたら1.5ドル分のサービスとしてお客様に評価を頂いているかを意識させます。シンガポール人には特にお金や価値に敏感な方が多い。スタッフにも「価値が無い企業は社会に必要とされず、売り上げが無くなり、廃業してしまう。だから常に絶対的、相対的な価値を磨かなくてはいけない」と教えています。

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日本流の思想を教えた時の、スタッフの反応は?


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日系の飲食店に従事しているだけあって、お客様に良いサービスを提供したいという思いがあります。また、スタッフに多い中華系のひとたちは礼儀や上司との関係を重んじる傾向にありますので、きちんと理解してくれます。



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意外とすんなり、なのですね。


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ただ、日本流のサービスを、客としても身を持って経験したことがないひとがほとんどですので、ていねいに教える必要があります。テーブルに水を置くときには一声掛ける。お客様に呼ばれたら返事をしてからテーブルに出向くなど。お客様の中にも日本流のサービスを受けたことがない方はいらっしゃいますが、実践するとやはり喜ばれるんですね。そのことをスタッフも感じ取っているようです。徐々に良いサイクルができ始めています。

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良いサービスは日本もシンガポールも同じと。


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基本的には同じと考えています。ただし、気をつけなければいけないことも。シンガポールは労使関係がフラットで日本以上に売り手市場です。彼らにルールを守ってもらうには、店舗運営に貢献すれば給与を上げるなど、会社側もスタッフとのルールにコミットする必要があります。

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宅麺を運営するグルメイノベーションの井上琢磨社長(左)と市来さん。井上社長は「市来は日本人と現地の人の違いを分かっている」と言います。その真意は……

多様性の中にある普遍性を見つけられるか

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市来さんの努力があってこそ今の宅麺があるのですが、「言うは易し、行うは難し」だと思います。

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正直、私も多くの失敗をしてきました。人に遅刻をするなと言っておきながら自分が遅刻したり、正社員ではないパートタイムのスタッフにも売り上げを上げろと指示して反感を買ったり……。そんな失敗もしてきましたが、もしうまくやれているとしたら、シンガポールで生まれ育った自分の幼少期、特に日本人学校に通っていたころの経験が生きているのだと思います。

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どのような経験ですか?


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私は学校で、自分たちはこの国に住まわせてもらっている立場であると教わってきました。その国は多国籍国家で、華僑が多いにもかかわらず公用語に英語を選んだ国。多様であることが当たり前の国です。一方で、そんな多様性の中にも、国籍を超えた普遍的な部分があるということを知りました。ですから今も、彼らの普遍性にも通じる、日本流の思想や文化を浸透させようとしているのです。

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どのようにしてでしょうか?


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普遍的な価値観であり、現地のスタッフに仕事に対するモチベーションを上げてもらうためには、この仕事を好きになってもらうことが大切です。そのためには、最低限のルールを守る必要があり、責任者はルールに責任を持つことが大事です。リーダーシップではないですが、スタッフとリーダーの関係や能力が、組織の力を左右します。金銭に対してシビアな人が金銭以外で動くのは、基本的に信頼関係です。その信頼関係は、仕事を通じて積み重ねていくしかありません。

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たしかに。


ルールだけでモチベーションは上がらない

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責任者が誰よりも働き、ルールを守り、仕事に打ち込まなければ、従業員のモチベーションは維持できません。一方で、非常に難しいのが、この方法ではモチベーションは維持されますが、上がらないと感じてるところです。彼らに仕事を好きになるきっかけを与えることについては、まだ勉強不足だと感じています。スタッフの良いところを見つけてほめなくてはと思いつつも、照れてしまいます(笑)。今後カウンセリング時にトライしてみたいと思います。

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まだまだやるべきことはありますね。


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そうですね。これは宅麺でもまだ実施していないことですが、彼らの社会的な承認欲求を刺激し、自己実現にもつながるリーダー制度などを設け、中長期的な仕事の目標を彼らと一緒に設定することも有効かと思っています。

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リーダー制度を実施すれば、これからは現地のスタッフの方々がチームワークを率先して構築する立場にもなることもあり得ますね。


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そうですね。ただ、現時点ではまだまだです。私も休みの日なのに店が気になってしまい、特に混雑する時間帯はついついお店に出てしまったり……(笑)

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「たとえ従業員が宅麺を去ったとしても、たまに思い出してもらって、そういえば店長があんなこと言ってたなぁと思ってもらえればいい」と仰っていた市来さんの想いが、きっと皆さんにも伝わっていると思います。

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取材時には新メニューの餃子の具材について皆さんで話し合っていました。市来さん、また食べに来ます!

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