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介護保険の夫負担 世帯所得500万「1%」なのに380万「2%」の不可解事例 - 介護の常識・非常識【3】 - 相沢光一

介護サービスの自己負担率 8月から「年収280万円以上」は負担“2倍”

介護の問題は、身内が要介護になる事態に遭遇しないと、なかなか真剣に受け止めることはないものだと思います。

私自身がそうでした。

高齢社会を迎え、要介護者や認知症の人が急増していることや、そうした人たちが介護保険によって少ない自己負担額で介護サービスを受けているといった基本的な知識はありました。しかし、具体的にどのようなサービスがあって、どの程度の負担をするのかは、ほとんど知りませんでした。

ですから、父親が突然寝たきりになり介護が始まった時は、直面した事態への対応とともに、経済面の不安を感じたものです。

そして実際に介護サービスを受けるようになって、「介護保険とはありがたいものだな」としみじみ思いました。なにしろ自己負担が1割で済むのですから。

父の介護では訪問介護、訪問看護、訪問入浴、訪問マッサージのサービスを利用しましたが、介護ドキュメントの項でも書いたとおり、運よく良いケアマネージャーに担当してもらったおかげで、どの事業者も満足のいくサービスを提供してくれました。

▼介護期間が長引けば負担感ずしり

たとえば、訪問看護師さんです。毎回ふたりでやってきて、連携を取りながら手際よくケアをしてくれました。体温、血圧を測ることから始まり、顔色を見、気分を聞いて症状を探り、床ずれのチェックをし、その兆候があれば座布団を当てて苦痛の軽減を図る。排泄の処理も手際よく、肛門の痛みに対する処置もしてくれました。それも常に笑顔で元気づける言葉をかけながらです。

また、介護する私に対しても、父の状態を少しでも良くする方法、生活のサイクルを規則正しくすることや薬の服用法などを教えてくれました。行うべきケアだけでなく、持っている技術や知識を総動員して父自身や私の不安を取り除くことに努めてくれたわけです。

1時間のそのサービス提供の費用は約1万円。1割負担ですから支払うのは1000円程度です。心のこもった介護サービスをしてくれたうえに多くの不安を取り除いてくれてこの金額は助かりました。他のサービスにも同程度の金額がかかりますから、負担額はトータルで月2万円ぐらいになりましたが、介護期間は1カ月半ほどと短かったので、さほど負担感はありませんでした。

ただ、介護が長期間に及んだとしたらどうでしょう。介護が長引けば受けるサービスも増えるでしょうし、毎月2万~3万円を支払い続けるとなれば、負担を重く感じるようになるかもしれません。

所得280万円なら十分負担能力があると考える国

介護保険が改定され、この8月から一定以上の所得がある人の負担が1割から2割に引き上げられることが決定しています。対象者は年間の合計所得金額が160万円以上の人。そのほとんどが高齢者であり、主な所得は年金です。年金の場合、120万円が控除されるので、160+120で年間280万円以上の所得がある人が2割負担になるわけです(編集部注:65歳以上で収入が年金のみの場合。年金収入には、企業年金、確定拠出年金から支払われる年金、遺族年金、障害年金も含まれる見込み)。

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2015年 介護保険制度改正の主なポイント

また、施設を利用している人で預貯金などの資産が単身で1000万円、夫婦で2000万円以上ある人は居住費などの補助が受けられなくなります。

現在、介護サービスを受けている人のうち、所得が280万円以上ある人は20%だそうです。この人たちが「家計にゆとりの層」とされ、2割負担となります(編集部注:一定以上の所得者に該当する場合、利用料はこれまでの2倍の金額になるが、後述の高額介護サービス費制度があり、負担は上限がある)。

「社会保障の財源がひっ迫しており、消費税を上げてそれを補おうとしているご時世で応能負担は当然だ」
「あの世にお金を持って行けるわけじゃないし、要介護状態になって財産を残しても仕方がない。余裕のあるところから取ればいいんだ」

今回の改定に対する世間の大方の受け止め方は、こんなところだと思います。そして、厚生労働省も今回の「2割負担」をそうした考えに基づいて決めたのでしょう。

ただ、介護現場の実情を知るケアマネージャーからは「大丈夫かな」という声を聞きました。もちろんあり余る財産を持っている人は問題ないでしょう。

しかし、所得が280万円を少し越えているだけの人もかなりいる。在宅であれば、光熱費や食費をはじめ住民税や固定資産税などが必要。高額の医療費がかかる人もいるし、家のローンが終わっていない人もいる。要介護状態では他にもいろいろな費用がかかります。オムツ代だってバカになりませんし、通院のための介護タクシー代は介護保険の対象外ですから、距離によっても違いますが往復で数千円はすぐに飛んでいきます。

また、施設に入居している人は月額20万円近くを払っている人もいるそうです。「280万円の所得があれば余裕があると見られているわけですが、結構ギリギリの生活をしている方もおられます。2割負担になると、受けているサービスを減らさざるを得ない人も出てくるのではないでしょうか」と、あるベテラン・ケアマネージャーF氏は言います。

▼「高額介護サービス費」も高所得者優遇

また、2割負担の規定も不公平な部分があります。

所得は世帯ではなく個人が対象です。

たとえば夫婦で介護サービスを受けているケース。夫の所得が280万円で妻が100万円だとすると、世帯所得は380万円。負担は夫が2割で妻が1割となります。夫、妻とも所得が250万だと世帯所得は500万円ですが、ともに1割負担で済む。世帯所得が多い方が負担は少なくて済むわけです。

まあ、2割負担になったとしても、それが全額利用者にのしかかるわけではありません。「高額介護サービス費」という制度があり、自己負担が一定額を超えると、それ以上払わなくてもよくなるものです。その額も今回、3万7200円から4万4400円に引き上げられましたが、高額所得者でも介護サービス利用料は4万4400円止まりということになります。とはいえ、負担が増えるのは確かです。

負担1割→2割は、序の口。すぐ3割

また、これは利用者とは関係ない話ですが、2割負担が始まる8月は現場の混乱が予想されるといいます。

対象者には役所が所得を調べたうえで「あなたは2割負担になります」という通知が届くだけらしいのです。それがケアマネージャーに伝えられ対応することになりますが、利用者は高齢で認知症の人も多い。通知など見ないで捨てたりする可能性が高いのです。1割負担で計算しても後で2割に修正することはでき、サービス提供側は報酬を取りはぐれることはないようですが、申請など煩雑な手続きが必要らしく、現場は混乱するというわけです。

問題意識のあるケアマネージャーと話をすると、介護は問題が山積みでお先真っ暗という話題に大体行きつきます。

現在、要介護認定者は500万人以上いて、団塊世代が75歳以上になる2025年には700万人を超えると予想されています。当然、介護保険をはじめとする社会保障費は膨大なものになり、介護職員も増やす必要が出てきます。ある試算によれば、100万人近い介護職を増員する必要があるとか。

「今でさえ待遇面の問題や仕事の大変さで人手不足なのに、そんなに増やすことができるでしょうか。その解決策として厚労省は介護福祉士と保育士の資格を統合する案を打ち出しましたが、幼児の世話をしたいと保育士になった人が介護職に就くことは少ないと思うし、介護福祉士もしんどい介護から保育に行きたい人は多いはず。全然、解決策にならないんです」(F氏)

今回の2割負担も、負担増の始まりと見ているそうです。

「これでは財源はもたなくて、所得に関係なく2割負担、そしてすぐではないでしょうが3割負担が必要という時がくるでしょう。さもなければ消費税をさらに上げるしかなくなると思います」(同)

負担が1割から2割になるといって騒いでいる今は、まだ幸せなのかもしれません。

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