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白洲次郎さんと私と原発

レッテル張りというのは恐ろしい。知らない内に「あの人はああいう人だ。」等と決めつけてしまうことがよくある。時にその人のまったく違う部分を見ると唖然とすると同時に猛烈に反省してしまうこともある。一方で確かに人間を決めつけるのがすこぶる上手い人もいる。やや毒舌気味に「あの人は○○だから」等と酒場での会話中に意外な決めつけられ方をされるととても納得してしまうこともある。この世にはレッテル張りが上手い人もいるのは確かだ。

このネット時代では、この「決めつけ」もハイテク化している。アイフォーンなどでチャチャとウィキペディアや関連サイトで、目の前にいる人や対象になる人物を調べることがある。確かに一時情報を得るには良いのだが。

こんなことがあった。以前、スタジオ・ジブリの鈴木敏夫さんのレンガ屋で初対面の若者と私が名刺交換した後、その若者がスマホのウィキで私の事を調べ始めた。私がちらっと「今はこうなんですね。」と呟いた所、珍しく鈴木さんが軽く若者を叱責したことがある。
現代では日常生活でも一回決めつけてしまうと、その人間のイメージが固定化されてしまうことがある。人間はそんな単純じゃないのになと思うのだが。ジャーナリストの大宅壮一の名著「昭和怪物伝」などを読むと戦前戦後の一筋縄でいかない怪物が沢山出てくる。「あの人はいい人だ。」とか「あの人は悪い人だ。」とか簡単に言えない複雑怪奇な人物が沢山出てくる。怪人が続出したのは、もちろん大戦を挟んだり、戦後の経済成長期を経たからというのはあるが、いまでもドワンゴの川上量生会長などは悪く言えば「奇人・変人」、よく言えば物凄く幅と奥行の深い人ともいえる。

ちなみに私は奇人・変人マニアである。かつて「たけし・さんまの世界超偉人伝」(1992年~98年)という番組で日本中・世界中の奇人変人の人生を描き続けた。
人物伝番組「知ってるつもり」の様な一級品の人物伝ではなく、どちらかというと傍流の人を描いた。しかし最初から最後まで奇人・変人ばかりだと番組全体に締りが無くなるので最後にちょっと一流の人や凄い人を一人だけ入れた。ちょっと視聴者を唸らせてまた見てもらおうという魂胆だった。

その人物の資料と写真を手にした時、私はちょっと興奮した。戦後日本を統治したGHQと折衝に当たった「白洲次郎」である。当時の吉田茂総理の懐刀で、あのマッカーサーですら「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめた男である。元々関西のお坊ちゃんで、英国ケンブリッジ大学で勉学に励む。一方、ヨーロッパで英国・イタリアの高級車を乗り回した。白洲正子(後に高名な随筆家となる)と結婚。戦後、吉田茂の要請でサンフランシスコ講和条約までの仕切りをして、実業界に移る。イギリスの貴族(カントリー・ジェントルマン)の様に東京郊外に住み、ちょっと遠くから中央を見つめ続けた。ゴルフと車を愛し。遺言は「葬式いらず、戒名不要」 ・・・・カッコ良すぎる。当時珍しいTシャツを着た白黒写真が素晴らしい。

おそらく、白洲次郎を本格的に取り上げたのはテレビでは我々が初めてであっただろう。当時、彼は過去の人だった。私の弟子・担当の正木敦(現TBS)がのどを枯らして、未亡人の白洲正子さんに説得した。正子さんは「正直、日本テレビの『知ってるつもり』はあまり好みじゃないけど、ビートちゃん(たけしさんの事)とさんまちゃんならいいわよ。」とやっとのことでご承諾くれた。山ほどの写真と資料を貸してくれた。英国ロケでは白洲さんの愛車のブカッティを農家の倉庫で発見したりした。

スタジオ収録の時に、たけしさんとさんまさんも唸ってしまった。当時歴史的に全く忘れさられた白洲さんがこの日よみがえったのだ。このオンエアーの後、「白洲次郎の関連本」は一つのブームになってベストセラーになった。その後白洲さんの人生に関するあまたのドキュメンタリーや本格ドラマも作られた。彼の人生やライフスタイルは少なからぬ若者の指針にさえなった。

そういうわけで、以来、私の頭の中にも白洲さんは「良いイメージ」のまま残り続けた。
・・・2011年3月11日までは。

「東日本大震災」で発生した巨大津波は福島沿岸の原発を破壊した。
誰もが思ったであろう。
「誰がこんな所に原発を作ったんだ?」
私はその日、白洲次郎が後年「東北あたりの電力会社」の初代会長を務めていたことをかすかに思い出した。ここで私の「決めつけ」が起こった。
「白洲次郎がこの災厄に関係していたのではないか・・・?」
そういう思い込みが完全に私に植え付けられ、白洲次郎を忌み嫌うようになってしまったのだ。大好きだった人が大嫌いになってしまうのは世の常。本屋で白洲さん関係の本が並んでいるのを見るのも嫌になった。私も推測で強い思い込みを持ってしまうタイプの人間だったのだ。推測を事実をすり替える・・・
恐ろしいことだが。

そして、誠に身勝手なことに最近、白洲さんへのネガティブなイメージが突然、再び変わってしまったのだ。あることがきっかけで白洲次郎と原発の関係を調べたくなったからだ。
類書によると白洲さんは確かに「初代・東北電力会長」であった。しかし何事にも力でねじ伏せる強引な「東京電力」にも屈せず、水利権やダムの建設などで東電と相当渡り合ったそうである。
また東北電力の「理念」を作りそれを末端まで行き渡らせた。それは徹底的な安全管理にまで及ぶ。会長引退後、白洲のDNAを受け継いだ後継者たちは女川原発の建設でもこれを徹底する。地震や津波の歴史を徹底研究していたからだ。
建設は高レベルな安全処置・慎重な地形調査による建設地の選定が行われた。
これが3・11での東京電力・福島原発と東北電力・女川原発の被害の差となって出たという。
私は原発肯定派でも否定派でもないが、会社というものがしっかりした『理念』の元運営され、創業者のDNAが引き継がれていたことに、敬服すると共に、2011年以来、白洲さんを「決めつけていた」ことを恥じた。
さらに調べれば新たな新事実が出てくるかもしれないが、人間を単純に「悪」や「善」に決めがちな我々は、「真実」に近づくまで、相手と会話し、調査し、本を読みつつ、ネットでの流言飛語や人の噂やデマに気を付けなければならない。自戒を込めつつこんなことを思った。

もちろん善が悪に変わることもあるので、人生面白いんですが。

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