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NYタイムズの看板アプリ無料化の背景

前回記事<「新聞社はテクノロジー企業になるしかない」とポスト主幹>で、ワシントン・ポストのバロン主幹が「我々がデジタル時代にいるという言い方すら時代遅れだ。モバイル時代にいるのだ」という時代認識で新聞作りに取り組んでいることを紹介しました。

実はそのライバルとも言うべきニューヨーク・タイムズ(NYT)のトンプソンCEOも同じことを言っています。<The battle will be won on the smartphone>−−闘いはスマホ上で決まる、と。今年2月半ば、カリフォルニアで開かれたRe/code主催のメディアカンファレンスで述べたとのことです。(動画はこちら

そのNYTがiPhone向けに提供しているNYT Nowという有料ニュースアプリがあるのですが、それが5月11日から無料になるとブルームバーグが報じています。「契約者が増えなかったから」とのことです。

しかし、このNYT Nowは私も試しましたが、アップルが選んだ2014年のベストアプリの一つに入ったほど良く出来た、いわば看板アプリなのにどうしてそんなに不振だったのかフシギ。料金もそんなに高くない。モバイル時代と言いながら、これでダメなら有料ニュースアプリの未来は真っ暗のような・・・・

NYT Nowのことは昨年秋にこのブログで紹介しましたが、特徴は、NYTのウェブサイトに載った記事を機械的に転載するのでなく、10人余りと言われる編集チームが若者向けに選択し、リンクを貼るだけではなく、分かりやすい要約まで書いていることです。それに加えて、世界中の英語サイトからのニュースも同様に処理するなど、とにかく人手がかかっていることが分かります。

毎日、提供される記事は100本ほど。これで月8ドル。ブログで書いたように私は「最初の1ヶ月は無料」につられて加入し、結局2ヶ月試して超過した1月分の8ドル払って契約を打ち切りましたが、その後も、ときどき利用していました。契約していなくても、有料化したNYTのウェブページ同様、月10本の記事までは無料と定めているからです。

ところが不思議なことに、10本を超えても記事が読めてしまうのです。読むたびに画面下部に「You’ve read ◯times articles this month」と表示されるのですが、10回超えてもお構いなし。しかも、NYTの記事以外の時は、この”警告”表示は出ません。こっちも見放題。

おまけに無料読者なのに、NYT Nowのアプリ上で申し込むと、月−金で、その日のNYT Nowに載る記事の中から主要な数本やマーケット情報、スポーツ情報など20本近くを載せたニュースレターをメールで送ってくれます。むろん、要約と元記事へのリンク付きで、パソコン画面上で読めます。

これだけの手間ひまかけた内容とサービス、そして全米1のブランド、おまけにアップルのオススメが揃えば、そこそこの契約者を獲得しそうなものですが、無料化への方針転換を最初に報じたCapital Newyorkの2月半ばの記事では、契約数は2万以下だという専門家の見方を紹介しています。

NYT Nowには広告がありませんから、2万読者だとしたら年間総収入は200万ドル以下。10人以上の編集者が専任で関わっているのですから、これでは大新聞社のビジネスとしては情けないのは確かです。

それでも、廃止しないのはなぜか。無料化で今後は広告をどんどん挿入していく考えでしょうが、それも、読者が多数いないことには始まりません。つまり、相当数の無料読者がいることを確認できたので無料化に踏み切ったのでしょう。そのために、規定では「無料読者は月10本まで」としながら、おそらく、実際にはフリーアクセスを認めてもいたのかもしれません。

NYTの担当副社長は、無料化の狙いは「若い読者を増やして、その読者を、時間を掛けて(経営の柱の一つになりつつある、有料のNYT Digitalなどの)Pay Wall(課金の壁)の中へ乗り換えさせる実験だ」とブルームバーグに語ったということです。

ならば、その前段として、私が体験したような実質、タダ乗りサービスとメールサービス提供で、どれだけ無料読者を集められるかという実験をしてきたのではないでしょうか。もしそうなら、有料読者数が伸びるわけがなく、2万程度で低迷したのも分かります。

トンプソンCEOは、同じRE/Codeの席で、NYT Nowの先行きについて、こう述べていたそうです。< we are looking at whether subscriptions are the best way of reaching that audience>ーー購読契約が顧客にリーチするのにベストな方法かどうかを検証している。

2月の時点でトンプソンCEOのハラは決まっていたのでしょう。そのための準備として実質無料化がその以前から密かに始まっていたと見ることも出来るかもしれません。一つのスマホアプリを巡っての関係者の苦労がしのばれます。それもこれも、<闘いはスマホで決まる>時代だからこそ、でしょう。

まさに、ワシントン・ポストのバロン主幹が述べたように「紙の新聞では、多分、多くの読者が我々の記事を読むだろうと勝手に見なしているだけだった」ノンキな時代から、新聞社もテクノロジー企業に変貌しつつあることを、改めて実感させられました。

(以下、追記)今、NYTサイトで、「NYTは機敏でモバイルに注力する組織になるのだ」という最新のプレスリリースを発見しました。本気ですね。

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