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米メディア界でNetflixよりも注目されること

 今秋Netflixが日本でサービスを開始することが公表されて以来、国内でNetflixが論じられることが目に見えて増えた。

 以前に記事(「世界展開を加速させるNetflixは日本に来るのか?」)に書いたように、Netflixはここ数年、アメリカ国内での成長が鈍化する中で、海外市場開拓に力を入れてきた。日本市場はその1つだが、Netflixの海外展開に関して本国アメリカで話題なのは、ちょうど国交正常化交渉が始まったキューバ(日本と同じ頃に進出を発表した)や、ハリウッドにとって最も重要な海外市場となりつつある中国に今後どう入っていくかで、それらに比べると日本進出はあまり注目されていない印象を受ける。そもそも、アメリカのメディアの扱いを見ていると、数年前まで加熱していたNetflix関連のニュースは鎮静し、その代りにケーブルテレビを中心とした有料テレビ界の再編により多くの関心が向けられるようになっている。

 日本でNetflixが紹介される時、よく耳にするのが「アメリカは元々有料テレビの契約率が高かったが、Netflixのような動画配信サービスが台頭してきたため、有料テレビ契約者が減った」という話だ。実際には、有料テレビといっても大きく分けてケーブルテレビ、衛星放送、IPTVがあり、その中で最も古くて契約世帯数も多いが、料金が高くてサービスの質が低いことで悪名高かったケーブルテレビから人々が離れ始めているというのが真相に近い。この辺りの経緯は2年前に記事「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」に書いたとおりで、状況はそれほど急変していないと思う。

 ただ一方で、大手ケーブルテレビ各社は動画配信サービスの台頭の前に為す術もないかというと、そうではなくて、むしろ合従連衡を通して新たな道を模索している。事の発端は、1年2か月前に発表されたケーブルテレビ業界1位のコムキャストによる2位タイムワーナーケーブル(TWC)の452億ドルでの買収である。ケーブルテレビ業者は元々、各地域の小規模な事業者で、コムキャストも約50年前にミシシッピ州で誕生した零細事業者の1つだった。半世紀前にわずか1,200だった契約世帯数は、もしこのTWC買収が成功すれば3,300万になり、コムキャストは巨大な市場支配力を有することになる(関連記事「世界最大級メディアの誕生は消費者のためになるのか?」)。この合併計画が発表された当初、ちょうどアメリカにいて、大きな騒ぎになっていることを感じたのだが、それでも、1990年代以降にアメリカ・メディア業界で起きた数々の買収・合併を思えば、結局は「資本力のある企業が質の高いサービスを提供することこそ公共の利益に適う」などと承認されるのではないかと思っていた。

 それから1年2か月が経ったが、コムキャストのTWC買収に関する審議は依然として継続中である。その一方で、コムキャストのTWC買収発表から3か月後には、アメリカ最大手の電話会社で先述のIPTVを展開するAT&Tによる衛星放送1位のディレクTVの485億ドルでの買収案が公表された。有料テレビ契約世帯は約2,600万で、コムキャスト+TWCの3,300万世帯には及ばないものの、買収額としてはこちらの方が若干大きい(昨年末の有料テレビ各社契約数は下図参照)。

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 ただし、こちらも発表から1年が経とうとしているが、いまだ承認はされていない。コムキャストもAT&Tもアメリカ映像メディア界の勢力図を大きく塗り替える大型買収案件だが、非常に面白いのは、両者に対する世論の厳しさが全く異なる点である。

 3月17日のロイターの記事「AT&T-DirecTV merger escapes heat as all eyes on Comcast」によると、連邦通信委員会(FCC)にせよ司法省反トラスト局にせよ、コムキャストの買収案件にはAT&Tのそれと比較にならないくらい神経を尖らせているが、それはアメリカ市民の関心の度合いがまるで異なるからである。実際、FCCへ届いた買収反対の嘆願書はAT&T案件が5であるのに対してコムキャスト案件は20、寄せられた意見はAT&T案件が14,000であるのに対してコムキャスト案件は88,000、そして買収賛成者と反対者を集めた開いたミーティングの数はAT&T案件の70回に対してコムキャスト案件は300回に及ぶ。コムキャストにせよAT&Tにせよ、買収が承認されれば有料テレビ市場を寡占するようになるわけだし、買収額もそれほど差はない。では、なぜコムキャストによるAT&T買収ばかりが問題視されるのだろうか。答えは有料テレビ市場ではなく、インターネット市場における支配力の差にある。

 TWCの契約者を加えると、コムキャストはインターネット契約3,200万世帯という巨大プロバイダーになり、ブロードバンド市場の4割を占めることになる。一方、AT&Tの現在のブロードバンド市場占有率は17%程度だが、衛星放送であるディレクTVはインターネットサービスを行っていないため、買収後も市場シェアが増えることはない。FCCも司法省も市民も、コムキャストのように1企業がインターネットを牛耳ること、そして結果として、コンテンツの流れに巨大な影響力を持つことを懸念しているのである。実際、コムキャストはNetflixに対して強い交渉力を持つ。ネット・トラッフィクの3分の1を占めるNetflixは安定した配信のため、コムキャスト(やAT&Tなどの大手プロバイダー)に対して専用回線使用料を払わざるを得ず、しかもコムキャストはNBCユニバーサルという映画およびテレビ番組コンテンツ製作の大手も傘下に持つため、Netflixはコンテンツ供給をNBCユニバーサルに依存している。Netflixの番組調達における高コスト体質はよく指摘される点だが、コムキャストが交渉力を行使すれば、Netflixのサービスに何らかの悪影響が出ても不思議ではない。

 アメリカの映像メディア界の再編に関してはもう1点、重要な動きが起きている。先月末、チャーターという、現状ではコムキャスト、TWCに次ぐケーブルテレビ3位の会社がブライトハウスという中規模のケーブルテレビ会社を100億ドルで買収すると発表した。3月31日のロイターの記事「Charter beefs up cable muscle with Bright House deal」は、チャーターがこれにとどまらず、5位のサドルリンク6位のメディアコム、7位のケーブルワンにも買収を仕掛け、コムキャスト+TWCに次ぐ巨大なケーブルテレビ会社を目指すだろうと伝えている。それどころか、もしもコムキャストのTWC買収が失敗に終わったら、チャーターがTWCに触手を伸ばす可能性まで示唆しているが、そうなると現コムキャストに肉薄するケーブル会社の誕生である。

 一時期、鳴りを潜めていた感があるアメリカ・メディア業界での統合・再編が再び激化しつつある。1990年代のそれは、例えば放送ネットワークと映画会社などの合併に見られたように、メディア企業内部の大型化・コングロメリット化への希求の中で起きたが、今回は動機が異なり、動画配信サービスという新たな動きに対する有料テレビの対抗策がその引き金になっている。果たして合従連衡は進むのだろうか。その場合、アメリカのメディア政策の中で重視されてきた競争促進や公共の利益とどのような論理で折り合いをつけるのか、興味は尽きない。

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