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オープンイノベーションのすすめ

最近、このブログからコンタクトをいただいた方と、実際にお会いしてお話しする機会がポツポツと出はじめた。リーン・イノベーションやモノのデジタル・リマスタリングという考え方に興味を持っていただき、その方々のお仕事のお手伝いができるかもしれないというお話しもいくつか進み始めた。大変ありがたいことだと思っている。いろいろなチャレンジをされている方々とお話しするだけでも非常に刺激になり、私自身も新しいことを考えるきっかけになる。ブログをお読みいただき、ご興味を持たれた方は、ご遠慮なく文末のアドレスにメールでご質問やご相談をお寄せいただければと思う。

その中で、たびたびオープンイノベーションの話題がでた。オープンイノベーションとは、企業が保有するアセットを公開し、外部のアイデアや開発力を活用してこれまでにない価値を生み出すことだ。このブログで提案しているモノのデジタル・リマスタリングという取り組みの狙いも、企業がこれまでにない価値を生み出すことだが、内部のアイデアやリソースだけでは困難なことを、外部との連携で達成するということも選択肢として検討すべきだろう。

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モノのデジタル・リマスタリングでは、モノに関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描き、それを実現する製品「ハード」「ソフト」「サービス」を再定義する。それにはソフトやサービス側からの発想が必要だ。

以前の記事で、次のように書いた。
IoTの時代は、一般消費者向けの製品を製造する製造業のイノベーションのチャンスだが、それには「アプリの力」が必要になる。
これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどは非常に不得手な分野に違いない。ソフトウェアというと、膨大な投資で開発運用する社内の総務関係や生産管理のITシステム、あるいは機器に組み込まれメカや電気の隙間を埋めるだけのファーム・ウェアと呼ばれるものしか思い浮かばない経営層も多いだろう。自社の事業にとっての、スマートフォンのアプリの重要性など想像もつかない。これは、IoT時代を生き抜こうとする製造業にとって致命的な問題だ。
企業が外部の力を活用することで、不得手とするソフトやサービス側からの発想を可能にする。そのために、どのような取り組みをすれば良いのだろうか。

昨年、サンフランシスコでScrum Venturesの宮田さんにお話を伺う機会があった。そのとき「大企業によるアクセラレータ」という動きを教えていただいた(その内容は宮田さんがTechCrunchへの寄稿ををされているのでぜひお読み下さい)。そこに一つのヒントがあるように思う。

Y Combinatorに代表されるアクセラレータのプログラムでは、そのプログラムに参加を許されたスタートアップが、設定された数カ月の期間で自分たちのビジネスを組み上げていく。メンターと呼ばれる先達やいろいろな分野の専門家がチームに参加して、スタートアップが次の段階へ進むための取り組みを支援し加速させる。アクセラレータはベンチャーキャピタルの一形態であり、「大企業によるアクセラレータ」はCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とも呼ばれる。

CVCにはキャピタルゲインを目的にした投資事業というだけでなく、保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットを提供し、新規事業の創出に成功したスタートアップとのパートナーシップによって自身のイノベーションをはかろうとするケースもあるようだ。
  • 企業の既存の製品に関連する情報やコンテンツをインターネットで扱うことによって可能になる「新しいユーザー体験」を描き、それを実現する「ハード」「ソフト」「サービス」によって製品を再定義する
という課題で、起業家(を志す人)やスタートアップからのアイデアを募集する。採用したアイデアの「ソフト」や「サービス」の立ち上げを、そのスタートアップに担当してもらい、それを企業がアクセラレータとして支援するというのは面白そうだ。単にハードだけの製品であれば、広くアイデアを募集するだけで済んでしまう。
具体的には、これまで提案してきたリーン・イノベーションの1st Stepと2nd Stepをスタートアップが行う。

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宮田さんは次のように書かれている。
大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。
「スタートアップとの取り組み」と言っても、大企業の経営層にとって、それがどのようなことなのかを想像することは難しいかもしれない。単にアプリやWebサービスの開発や運用を外部に委託するのと何が違うのか。
スタートアップにとってみれば、資金を獲得して事業を立ち上げるプロセスや投資家に対する責任は、ベンチャーキャピタルから投資を受ける場合と変わりがない。「スタートアップとの取り組み」をイメージするために、それがどんなプロセスでどんな規模感になるのかを考えてみよう。

自らのイノベーションのためにスタートアップに投資し連携する企業を、ここでは仮に「投資企業」と呼ぶことにする。
投資企業はアイデアを募集し、採用する優秀なアイデアに賞金や、そのアイデアを練るための当座の資金を提供する。採用された側がスタートアップであれば、すでに進めているサービスやアプリなどのベースがあるかもしれないが、まずスタートアップとしての法人の創設から始めなければならない場合もあるだろう。

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一般のアクセラレータのプログラムと同様に、スタートアップは3ヶ月程度の期間で最初の資金を獲得するための準備をする。アプリやWebサービスのコンセプトを明確にし、その開発日程や顧客獲得の戦略を立案する。デモやテストができる初期のプロトタイプもつくる必要があるだろう。

次の段階では、開発のためのエンジニアやデザイナーなどの人材の雇入れや、Webサーバーなどの利用のための費用が必要になる。そのために投資企業が、スタートアップにシード資金として2,000万円の投資をするとする。
投資企業はスタートアップが作成した計画を評価し、リーン・イノベーションの3rd Step(ゴール)においての、アプリやWebサービスと連携した新しい製品の事業規模を想定し、その時点でのスタートアップの事業貢献の価値から逆算して現時点での企業価値を算出する。仮に8,000万円と評価した場合、2,000万円の投資後の企業価値は1億円となり、投資企業は20%の株式を得ることになる。このような考え方をすることが、企業がアクセラレータを行う場合と、単にソフトやサービスの開発や運用を外部に委託する場合との大きな違いだ。後者の場合は、開発したアプリやWebサービスの成果物の権利は委託元の企業に帰属するだろうが、この(前者の)場合は、投資企業側は20%の株式にともなう権利だけを得る。

開発したアプリやWebサービスを市場に投入し、改善を重ねながらユーザーを獲得していくためには、さらなる資金が必要になる。一般のスタートアップへの投資ラウンドと同様に、その事業の成長に合わせた段階的に資金調達(投資)をすることになるだろう。事業の成長といっても、この場合は売り上げが立つ訳ではない。ユーザーの獲得と定着の状況、アプリやWebサービスの利用頻度などの伸びが成長の評価基準になるのは、アプリやWebサービスの一般のスタートアップによくあるモデルだ。

スタートアップにとってアプリやWebサービスを市場に投入する際に、投資企業のアセットを活用することができるのは大きなメリットだ。ブランディングや既存の製品と連携したプロモーションなどは、認知や初期ユーザーの獲得の強力な武器となる。リーン・イノベーションの1st Stepや2nd Stepに示したような機能的な連携を行うために、既存の製品に変更を加えることなども考えられる。投資企業が保有する特許やコンテンツなどを利用する場合のライセンス契約など、この時点でいくつかの企業間契約が必要になるだろう。

一般のスタートアップの場合、シリーズBの投資ラウンドを経て企業価値をさらに拡大させて、IPO(上場)するか、他の企業にM&A(買収)されるかが当面の目標になる(もちろんIPOは最終目標ではない)。
この例の場合、投資企業の支援を受けたスタートアップが、独自の収益モデルを完成させてIPOすることも考えられるが、投資企業がスタートアップを買収して子会社化するか、コストセンターとして内部に取り込むことが自然な流れだろう。

上の図のシリーズBの時点で、投資企業がスタートアップを買収しようとする場合、5億円の追加投資をする前の企業価値は45億円ということになり、シリーズAの時点でのスタートアップ側の株の持分は64%であるから、それまでに他から投資を受けていなければ45億円の64%の28.8億を払えば、完全子会社化するか買収後解散して内部に取り込むことができる(議決権や拒否権などを考慮して、それまでの投資について双方が株の持分を考えておく必要がある)。スタートアップの創業者グループは、28.8億円の売却益を得ることになる。

投資企業側の利益は、45億円の価値のある企業を28.8億円(とそれまでの有形無形の投資)で手に入れることができるということではない。リーン・イノベーションのゴールに描いた「新しい製品とアプリとWebサービス」によって、顧客にそれまでになかった新しい経験価値を提供する企業へのイノベーションを果たすという本来の目標を達成することができる。 投資企業が自らが投資するスタートアップの企業価値を高く見積もると、同じ投資額での取得株の割合が低くなるということが一見矛盾するようであるが、この取り組みの狙いはスタートアップのパワーを最大限発揮してもらうことであり、そのモチベーションを考えれば理屈は通る。

しかし、1つのスタートアップとの連携が必ずしも成功する訳ではないので、複数の案件を同時にハンドリングしなければならない。そして不得手とするソフトやサービスについてのスタートアップとその提案を評価する目利きが必要になるといった課題もある。最初は、宮田さんの記事にある「アクセラレータの支援企業」の力を借りる必要があるだろう。

投資企業側の人々が、それぞれの得意分野のメンターとしてスタートアップに関わり、企業価値を向上させるための彼らの貪欲な取り組みに触れることが、企業の文化を少しづつ変えていくことにつながるのではないだろうか。
日本の製造業が国内外のスタートアップと連携してイノベーションに取り組む。そんな動きが広がれば、すごく面白くなると思いませんか?

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