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「右傾化」は「左傾化」とともに。

4月11日の朝日新聞(朝刊)で掲載された「右傾化」についてのインタビューに刺激されたわけではありませんが、「右傾化」を論じる場合は、国を問わず、中々に難しいものがあるようです。

(耕論)「右傾化」 三浦瑠麗さん、平沼赳夫さん、さやわかさん:朝日新聞デジタル

(ちなみにさやわかさんの議論のするどさに驚嘆しました)

私のフィールドのフランスの事例でいうと、極右・国民戦線の台頭などもあり、やはり2000年代に入ってから「右傾化(droitisation)」の議論がされてきました。確かに社会が「ぎすぎす」してきて、治安や安全保障についての争点が訴求力を持ってきたという意味で日本と似ているのですが、他方ではかなり綿密な意識調査をしてみると、異文化や他者への寛容度はむしろ高まっているというようなデータもあり(こうしたデータは上のインタビューでも指摘されています)、中々まとまったことは言えないというのが相場になっています。アメリカでも、マイノリティに対する寛容度が高まる一方、政治的急進主義が進んでいるという実態があります。

その「微妙さ」を前提としないで、「右傾化している」ということを所与として語っているのは中野雅至さんの本かもしれません。

Amazon.co.jp: 右傾社会ニッポン (携書132): 中野雅至: 本

色々と「脇の甘い」部分もある本ですが、「日本は右傾化しているのか?」を問う議論を展開しているというよりも、「右傾化とは何か、なぜ生じるのか?」という問いに答えている本として読むべきなのだと思います。

一方で、独自の調査でもって、特に若い世代は「右傾化」していない、とする論者もいます。

若者は本当に右傾化しているのか: 古谷経衡: 本

ただこの本も、既存の右傾化している日本の保守思想・言論へのアンチテーゼを打ち出すのがメインになっており、果たして実際に右傾化しているのかどうかについては、データが偏っていることもあり、やはり判然としません。

さて、「右傾化しているのか?」ということを考えた時、実際にはどうなのでしょうか。

「ネトウヨ」という呼称が一般化して極右的な言説が垂れ流され、反韓デモにヘイトスピーチ、「マスゴミ」批判のシュプレヒコールをみると、確かに「右傾化している」と言いたくなります。2014年の都知事選では田母神俊雄候補が獲得した61万票のうち、得票数の4分の1(24%)が20代だったことを取り上げて、若者の右傾化とする議論もあります(ただ、投票率をみればこれはやや言い過ぎではないか、という上の古谷経衡の指摘もありました。そもそも世界の中で最も厭戦意識の高い青年層を抱えているのは日本です)。

ここではこうした論争に決着を付けることなど到底できません。ただ、いくつかの手がかりを提示できればと思います。

ただこうした議論を展開する場合、やはり何を持って「右傾化」とするのかという基準が明らかでないと曖昧な議論にしかなりません。恣意的な基準を避けて、一番簡単なのは、自らをどう位置づけているのかということを訊ねることです。

そうすると、国際比較調査の「世界価値観調査」では、2005年に自らが右寄りでも左寄りでもないと考える日本の有権者は、7割近くと、圧倒的多数を占めることになります。これは新聞社による同じような世論調査でも同様の傾向が出ます。

他方、NHK放送文化研究所の調査(2010年)によると、「保守的」と自己定義する有権者は60%、「革新的」とするのは38%でした。また、内閣府の「社会意識に関する世論調査」でみると、2005年をボトムに「個人の利益より国民全体の利益を大切にすべき」という意識が2005年には最低の37%だったのが、2013年には53%に増えています。さらに「国を愛する気持ちの程度が強い」とする有権者が2000年には46%と最低だったのが、2008年に57%、2013年に58%と右肩上がりになっています。これだけを拾うと日本が「右傾化している」という指摘は正しいかのようにもみえます。

ただ、そうした場合、問われるべきは日本の右傾化は安倍政権や自民党政権云々の話ではなく、もっと長いトレンドの中で捉えなおすべき事象であり、北朝鮮をめぐる危機、中国の台頭、3.11によるセキュリティ重視志向など、複数の要因が絡んでいると考えなければなりません。

もうひとついえば、右(傾化)という概念は、左(傾化)という概念と対になっていることを前提にしないとなりません。右も左も、相対的な概念だからで、絶対的に論じることはできません。

歴史的には、右派的価値は「個人」や「伝統」を重視すること、左派的価値は「平等」や「理性」を重視することと考えられてきました。それに最近では「秩序」や「権威」を重んじる「保守」、「自決定権」や「自律」を重んじる「リベラル」の軸が交差するようになりました。

言い換えれば、価値をめぐる問いがあってはじめて「右傾化」しているかどうかを論じることが可能になるのです。一言に「右傾化」といっても、政治と経済、社会で「右傾化」が何を意味するかは矛盾することがあります。例えば政治での「権威」と「経済」での自由競争は対立することがあり、さらに「保守」と「右派」、「リベラル」と「左翼」も同義ではありません。

何れにしても、「右傾化」の是非云々以前に、まずはそのセットとなる「左派的価値」がどう再定義され得るのか、そこから対立線上に「右」や「保守」を位置づけるということも考えるべきではないでしょうか(それゆえ、「9条改正」と「改正反対」が最もわかりやすい右と左の事例だったりするのです)。その様々なマトリックスを完成させて、はじめて右傾化についての議論が可能になるように思います。

ちなみに、その際に大事にしなければならないのはイギリスの心理学者アイゼンクの指摘でしょう。アイゼンクは戦後イギリスの保守党、自由党の支持者が「柔らかい心」を持っていて、共産主義者やファシストが「堅固な心」を持っているという調査をしています。この「堅固な心」に対していかに戦うか――それが今の時代の「左派的価値」の再定義につながる筈です。

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