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【戦後70年談話】駐比日本大使はバターン死の行進で「お詫びと反省」

「明らかに侵略」

戦後70年談話に関する有識者懇談会の北岡伸一座長代理(国際大学学長)は10日、都内のシンポジウムで1931年の満州事変について「明らかに侵略だ」と指摘したが、「侵略という事実があったか、それを(安倍首相の)談話に書くか、謝罪するかは別の話だ」と述べた。

戦後50年の村山談話にある「侵略」や「お詫び」について日本政府が過去に謝罪してきたことを踏まえ「今更書かなくてもいいというのは十分理屈がある」とも発言し、「(安倍談話の表現が)多少違ってくるのは当然だ」との見方を示した。

北岡氏は3月に開かれたシンポジウムでは「日本の歴史研究者の99%は『日本は侵略し、悪い戦争をし、多くの中国人を殺して誠に申し訳ない』と言うと思う」とし、「私は首相に『日本は侵略した』とぜひ言わせたい」と発言していた。

今さらだが、戦後50年の村山談話をおさらいしておこう。ポイントは次の個所だ。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」

(英文)During a certain period in the not too distant past, Japan, following a mistaken national policy, advanced along the road to war, only to ensnare the Japanese people in a fateful crisis, and, through its colonial rule and aggression, caused tremendous damage and suffering to the people of many countries, particularly to those of Asian nations. In the hope that no such mistake be made in the future, I regard, in a spirit of humility, these irrefutable facts of history, and express here once again my feelings of deep remorse and state my heartfelt apology.

このポイントは戦後60年の小泉談話にも受け継がれている。

「我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します」

安倍談話の争点

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21世紀構想懇談会で発言する安倍首相(C)首相官邸

安倍首相は2月に開かれた有識者懇談会の初会合で「先の大戦への反省、戦後70年の平和国家としての歩み」に言及しているので、戦後70年談話の争点は北岡氏が言うように「謝罪」と「侵略」になっている。

過去の戦後談話は国家として継承していくものであって、安倍首相の個人的な心情、歴史観に左右される性質のものではない。村山談話、小泉談話を土台にして、安倍談話にこれからの日本の歩みをしっかり書き込めば良いことだ。

首相が変わるたびに戦後談話の内容をいじっていると日本は過去の戦争を正当化し、戦後平和国家の歩みを変更しようとしているのではないかという間違った印象を国際社会に与えてしまう。

安倍首相は、先の大戦と同じように日本を孤立化させる「魔法のカード」を中国共産党の手に与えてはならない。

バターン死の行進

しかし、戦後70年談話には「お詫び」の言葉は入ることになるだろうと筆者は考えている。日本の大使が海外での記念式典で「お詫び」を使っているからだ。

1942年4月、バターン会戦で降伏した米国・フィリピン軍将兵7万人を食料なしで行進させ、うち7千~1万人を死亡(ブリタニカ国際大百科事典より)させた「バターン死の行進」の記念式典が9日フィリピンで行われ、石川和秀駐フィリピン日本大使は次のようにあいさつしている。

「バターン陥落から73年の歳月が経ちました。今日、サマット山記念聖堂に立ち、私たちの心からのお詫びと深い反省の意を、あの運命の日々に苦しまれたすべての人々に表したいと思います。私たちは全員、ここで起きたことを記憶にとどめ、決して忘れることはありません」(筆者仮訳)

(英文)Seventy three years have passed since the fall of Bataan. Standing here today at the Mt. Samat Memorial Shrine, I wish to express our heartfelt apologies and deep sense of remorse for all who suffered during those fateful days. We all remember and never forget what happened here.

「第二次大戦に敗れたあと、日本は人権を守り、法の支配を尊重する自由民主主義国家を建設してきました。日本はまた、平和を愛する国として、フィリピンのベスト・パートナーの1カ国として、米国の同盟国としてこの70年間、アジア太平洋地域の平和と安定、繁栄のために貢献してきました」(同)

Defeated in World War 2, Japan has built up a free and democratic nation that upholds human rights and respects the rule of law. Japan has also been contributing to the peace, stability and prosperity of the Asia-Pacific region throughout these seventy years as a peace-loving nation, as one of the best partners of the Philippines and as an ally of the United States.

いま、南シナ海の領有権争いで中国の圧力にさらされるフィリピンを日本と米国が支援している。日本は「バターン死の行進」を忘れない。その誓約は日本の立場を貶めるものではなく、逆にフィリピンと日本、米国の結束を揺るぎなきものにしている。

だから安倍談話にも「心からのお詫び」は必ず入ると筆者は考えている。

「侵略」の定義とは

一方、「侵略」の定義については、明治大学法科大学院の奥脇直也教授が有識者懇談会で「国連総会の侵略の定義決議(1974年)、侵略の定義条約、国際刑事裁判所(ICC)の侵略犯罪の規定によって定義が進められているものの、今なお国際社会が完全な一致点を見出したとまでは言えない」と指摘した。

しかし満州事変に始まる一連の戦争が侵略戦争でなかったら、一体どの戦争が侵略戦争と言えるのだろう。国際社会で「侵略」の定義が完全に一致しないことは、満州事変以降の戦争が侵略でなかったことを意味しない。

今年の元日、天皇陛下は「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。(略)この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」とご感想を述べられた。

反省とお詫び」は、日本が「植民地支配と侵略」によって「多大の損害と苦痛」を与えたことが前提になっている。

「侵略」については、今年2月、ロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演した現役のニコラス・カーター英陸軍参謀総長がイラク戦争について、「we invaded Iraq」と明言したので驚いた。

「invade」は「侵入」「侵略」と訳すが、武力を持って他国に侵入することは国際社会では「invade」と言うのではないだろうか。

理解を超える安倍首相の政治手法

筆者には安倍首相の政治手法についてどうにも理解し難いことがある。

集団的自衛権の限定的行使容認にせよ、これまで通り必要に応じて憲法解釈を少しずつ変更していけば、もっとスムーズに進んでいたはずだ。外交・安全保障に関して自民党政権であっても民主党政権であっても取り組む課題はそう変わらない。

旧日本軍慰安婦をめぐる河野談話の検証に続いて、今度は戦後70年談話で大騒ぎだ。

歴史問題を日本から争点化するメリットは何一つない。先の大戦を正当化する動きは、旧交戦国だけでなくドイツやイタリアを含め、すべての国々の感情を害してしまう。

河野談話も、村山談話も最初から踏襲しておけば何の問題も生じなかった。歴史問題を自ら進んで蒸し返すのは、軍国主義を復活させる悪役のレッテルを日本にはりたい中国共産党の思う壺というものだ。

(おわり)

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