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コントロールユーザーの概念なき「スマホ依存」論

信州大学の学長が、入学式にて「スマホやめるか、大学やめるか」と学生に迫ったと報じられた朝日新聞の記事。「祝辞の一部を切り取ってタイトルにし、極論に仕立て上げた朝日はクソ」だとか、「よく全文を読めば、至極真っ当な事を言ってる」とか、いろんな論調が飛び交っていますが、私はちょっと違う切り口でそれを見ています。


「スマホやめるか、大学やめるか」 信州大入学式で学長
http://www.asahi.com/articles/ASH44578MH44UOOB007.html

[…]残念なことですが、昨今、この信州でもモノやサービスが溢れ始めました。その代表例は、携帯電話です。アニメやゲームなどいくらでも無為に時間を潰せる機会が増えています。スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間が速く過ぎ去ってしまいます。

「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」 スイッチを切って、本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう。自分の持つ知識を総動員して、ものごとを根本から考え、全力で行動することが、独創性豊かな信大生を育てます。


信州大学の山沢学長の祝辞全文を参照しますと、同氏が「スマホやめるか、大学やめるか」という発言をした該当部分の文脈は以上のようなものだった模様です。確かに、文脈のなかでこのコメントを読むと、言わんとする内容は至極真っ当なものであり、「信大生やめるか」という部分だけを見出しに抜き出し、それを報じた朝日新聞はクソという結論にしかなりません。ただ、もう一歩踏み込んで山沢学長の論を見てみると、私の専門であるギャンブルに対して一般的に語られているのと同様に、そこには「依存」に対する間違った認識と論理の飛躍があると思うんですよね。

山沢学長が主張するように、「スマホ依存症」と呼ばれるものがどうやら世の中に存在するようで、それが問題であるという認識は社会的な共通認識になってきているようです。日本の場合は、スマホゲームの異常な興隆もあって、その論議がスマートフォンに集約されてしまっているところもありますが、米国の精神医学会では2013年に発行した「精神疾患の診断と統計の手引き第5版」において、それに類するものとして新たに「インターネットゲーム障害」という精神疾患を定めています。

また、我が国のお隣の韓国においては、近年それらが社会問題として大きくクローズアップされた結果、2013年に青少年保護法と呼ばれる法律が制定されました。この法律は、オンラインゲーム提供業者が16歳未満の青少年に午前0時~午前6時にサービス提供することを禁する法律で、現在、与党セヌリ党の議員が中心になってこれら規制を更に強化する法改正も検討までもがなされている状況です。ということで、スマホやネットに対する依存というのは日本だけでなく、世界各国において同様の社会問題になっているのですね。

一方で私がこの種の依存症論を見聞きするたびに思うのは、このような一般的に広く利用されているものやサービスに対する依存を語るとき、そこには大多数のコントロールユーザーと呼ばれる人達が居るということをすっ飛ばして、極端な症例に一気に話が及んでしまう傾向があるのは、それはそれで問題があるな、ということ。

以下、私の専門のギャンブルに置き換えてしまって大変恐縮ですが、例えば人とギャンブルの付き合い方に関する社会学的な研究においては、その両者の関係は以下のような重層的なものとして捉えられています。

リンク先を見る


社会的ギャンブルとは、ギャンブルを個人の娯楽として、もしくは他者との社交の手段として適切に利用している状態のこと。これは、スマホやネット、酒やタバコなどにも共通する話ですが、多くの利用者はこの層に居るワケで、これら大部分を占める利用者は「コントロールユーザー」とも呼ばれます。

一方で、この適切なコントロールされた状態から一歩踏み出してしまっている状態が「問題」とされる領域。ギャンブルにおいては、予め定めた予算や時間を超えてギャンブルをしてしまう状態で、ここから更に踏み越えてそれが個人の社会生活や経済状況に深刻なダメージを与えているにも関わらず、それが辞められない状態にまで及んだ状況が「強迫的ギャンブル」、いわゆる精神疾病としてのギャンブリング障害として捉えられています。ギャンブルがそこにある限りこの種の問題は必ず発生するものであり、例えばこれをスマホ、ネットに置き換えれば、スマホゲームのガチャに己の収入(子供であれば小遣い)の許容量を遥かに超えるような金額を注ぎ込んでしまったり、スマホが気になって勉学や仕事が手に付かないような状態がこれにあたると言えます。

こういう前提知識をもって信州大学の山沢学長の弁を振り返ってみると、


昨今、この信州でもモノやサービスが溢れ始めました。その代表例は、携帯電話です。アニメやゲームなどいくらでも無為に時間を潰せる機会が増えています。スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。


上記の部分で語られる、「信州でも携帯電話でアニメやゲームなど無為に時間を潰せるサービスが溢れ始めた」から、一足飛びで「スマホ依存症は知性、個性独創性にとって毒」とする論理展開は、社会の大多数を占めるコントロールユーザーの存在をを完全に無視した極論じゃないかなぁと、私には見えてしまうワケです。

世の中には、確かに「スマホなんて害悪以外のナニモノでもない」などという信念のもとに、子供にスマホを持たすなんてトンデモナイとする論を主張する人は居るのは事実ですし、上記学長の弁を読むと、きっとそういう思想をお持ちなのでしょう。ただ、その種のものは一種の思想信条、もしくは宗教に近いもので、教育者の在り方としては、その種のものとの「正しいお付き合いの仕方」を教える事の方があるべき姿なのではないでしょうかね。

私としては何となく、かつてホンダの創業者である本田宗一郎が語ったとされる

「教育の名の下にバイクを取り上げるのではなく、バイクに乗る際のルールや危険性を十分に教えていくのが学校教育ではないのか」

という名言を思い浮かべながら、かの朝日新聞の報道を眺めていた次第です。

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