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米国のエジプト政策転換 現実政治が理想主義を凌駕する - 岡崎研究所

ワシントンポスト紙のコラムニスト、イグネイシャスが、2月26日付同紙のコラムにおいて、オバマ政権の対エジプト関与政策を歓迎し、米国はエジプトの人権侵害を批判するべきだが、経済、政治、軍事的援助を強化して、同盟国になるべきである、と述べています。

 すなわち、オバマ政権の高官はエジプト関与政策の決定は、「理想主義に対する現実政治の勝利の事例」といったが、正しい政策的選択である。

 確かに、シシ大統領の行動はその決定を難しくさせた。反対派への弾圧は、今やムバラクに匹敵する。ムスリム同胞団に対する取り締まりは、世俗的な活動家を含めるまでに拡大している。

 しかし、スンニ派アラブ世界が、イランとISという二つの地震に揺さぶられている今、エジプトは重要である。オバマ大統領は、エジプトに経済的、政治的、軍事的援助を供与すべきである。エジプトが滑り落ちるリスクの大きさは、責任ある政権であれば無視し得ない。

 強いエジプトを望むのであれば、オバマは、二股をかけるべきではない。エジプト人は、米国が真の同盟国であることを知る必要がある。米国は、人権侵害への批判は続けるべきだが、エジプトの成功を望む友好国としての批判であることを明確にすべきである。

 ケリー国務長官は、経済支援を重視している。エジプト経済は、IMFの予測によれば、GDP成長率は過去4年の平均2%から今年は3.8%に上昇し、徐々に5%に達するであろう。これは良いニュースである。

 エジプトは、軍事援助も望んでおり、ISと戦っている今、その要求には正当性がある。昨年12月の延期の後、議会は、F-16戦闘機、エイブラムズ戦車などの武器のために、13億ドルを出すよう政権に促した。米国により武器と訓練を受けた強力なエジプト軍は、地域の安全保障にとりプラスとなる。

 米国の後押しを受けた強いエジプトは、スンニ派世界のバックボーンを強化し、米国がイランとの新たな同盟を結ぼうとしているとの懸念を和らげ得る。

 エジプトは、過激主義との戦いのイデオロギー的側面においても、ますます重要な役割を果たしている。シシは、イスラム世界を救うための「宗教革命」を提案した。カイロのアズハル大学の大イマーム、Sheikh Ahmed al-Tayebは、イスラム教の「間違った解釈」を正すべく、宗教教育の改革を呼びかけた。

シシはジャーナリストや世俗的活動家を投獄してエジプトの名声と利益を損ねているが、ここから脱却させる方法は、エジプトを無視するのではなく、その力と誇りを取り戻すのを助けることである、と述べています。

出典:David Ignatius,‘America is the ally that Egypt needs’(Washington Post, February 26, 2015)
http://www.washingtonpost.com/opinions/america-is-the-ally-that-egypt-needs/2015/02/26/efe7eeb0-bdfd-11e4-bdfa-b8e8f594e6ee_story.html

* * *

 今回の米国の対エジプト政策転換は、まさに論説中の米高官の言葉通り、理想主義が現実政治に凌駕された事例です

 2011年1月、「アラブの春」でムバラク政権が倒れ、その後、ムスリム同胞団のモルシ大統領が誕生しましたが、2013年、クーデターでモルシ政権が倒され、その首謀者シシが選挙を経て2014年大統領に就任しました。ムスリム同胞団はテロ組織とされ、エジプトの刑務所は令状なしで逮捕された同胞団員やシンパ、それ以外の政府批判者で一杯です。確かに人権侵害は酷いですが、シシ大統領の権力基盤は強固になってきています。

 シシ大統領と同盟関係になるのならば、ムバラク打倒をサウジの強い反対を無視して容認したのは間違いであったとも言えますが、国際政治は国内の政権基盤の強弱を含む現実の力関係に基づいて展開されざるを得ません。

 エジプトのスンニ派アラブ世界での重要性に鑑み、今回の米国の政策展開は、中東地域の安定のためには良い選択でしょう。

 さらに、プーチン大統領が2月にエジプトを訪問し、両国間でロシアのガス・石油、さらに武器を取引する協定が結ばれました。米・エジプト関係の悪化を受けて、ロシアがエジプトとの関係を強化し、反欧米に誘いこもうとした形跡があります。サダトによる政策転換まで、ソ連はエジプトで大きなプレゼンスをもっていました。その再来をプーチンが望んでいたことは十分想像できます。今回の米国の決定は、そういうことにならないための歯止めにもなるでしょう。

 シシ政権はムスリム同胞団をテロ組織に指定し、さらにパレスチナのハマスまでテロ組織としています。ムスリム同胞団やハマスはアルカイダやISとは違う。こういうシシ大統領のやり方は、普通のイスラム主義者をアルカイダなどに近づけてしまう恐れがあります。これは一つの懸念材料です。イグネイシャスが「人権侵害への批判は続けるべきだが」と留保をつけているのはもっともなことです。

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