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日本のカジノに相応しい入場規制は?

さて、先月30日に行われたIR議連の総会においては、今国会におけるIR推進法の速やかな提出方針が確認されたワケですが、一方でこれまで議連が提示していた法案そのものにも修正が行われることが了承されました。以下が、これまでの法案に対して追加された事項です。
第十条第二項
政府は、前項に定めるもののほか、外国人旅客以外の者に係るカジノ施設の利用による悪影響を防止する観点から、カジノ施設に入場することができる者の範囲の設定その他のカジノ施設への入場に関し必要な措置を講じるものとする。
この法案修正は、依存症問題への懸念に対する対応策として追加されたものであり、特に本政策に対して慎重な立場を示す公明党への配慮を前提とした修正であるといえます。一方で、この記述に関してはすでに少し飛躍した報道も飛び交っておりまして、例えばロイターなどはこれを「日本人に入場料を課す」ものなのだという解釈で報道をしています。以下、ロイターからの転載。
カジノ法案、年度内に再提出を確認=IR議連
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKBN0MK0C220150324

今回の法案の再提出は自民党、維新の党、次世代の党の3党が中心。連立与党の公明党には反対派が多く、自主投票になる可能性がある。また、再提出する法案では、日本人に入場料を課し、入場者の範囲を制限する修正案を盛り込むことも確認した。
実は、IR議連が上記の法案とは別に作成している文書の中では、日本人利用者に対する入場料の設定に関して「一定の抑止効果が期待できる」などとする記述もなされており、上記ロイターによる報が全く間違った解釈であるワケではありません。ただ、この点はこれまでも散々あちこちで主張してきた事ですが、私自身はカジノ入場者に対して需要抑制を目的とした入場料を課す施策は、依存症対策としては愚策中の愚策であると考えています。

その理由は以下の通り:
1)入場料は利用者にとって「取り返すことの出来ないコスト」、即ち「サンクコスト」として認知される 
2)サンクコストは、カジノ利用者の撤退の判断を誤らせる(行動経済学でいうところの「サンクコストの呪縛」)
3)結果、入場料の設定はむしろ入場者による間違った施設利用を助長してしまう可能性がある
4)そもそも、この施策は「多少のコストは賭博で取り戻せる」と考えてしまうような利用客(即ち依存リスクの高い客)であればあるほど、抑止効果が下がる

依存症対策として制裁的な高額の入場料を課すような施策は、2010年からカジノ営業を開始したシンガポールが採用する制度ですが、世界的に見ると全くスタンダードな依存症対策ではありません。むしろ、入場料制度を採用しないその他の国や地域からは、ここで私が挙げた「入場料設定の危険性」が主張されているのが実態であって、2010年から同制度を採用しているシンガポールにおいてもその効果に関しては未だ十分な検証期間を経ていない状況です。

シンガポールのカジノ合法化手法を、一種のモデルのように参考としてきた我が国においては、当初から盲目的に「シンガポールと同様に入場料を課すべき」と主張する人間が専門研究を行っている人間の中にも多いワケですが、その点はもう少し広く世界を見ながら冷静な判断を行ってゆくことが重要であろうと思います。詳細に関しては、別途エントリを書いたことがありますので、そちらをご参照ください。
カジノと入場規制
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/5532874.html
以上のように日本のカジノにおける国民の利用抑制に関しては未だ論議が大きな分野ではあるのですが、最近、私の周辺では「入場回数制限」が日本の入場制限規制としてはより相応しいのではないかという論議が出て来ています。

そもそも、我が国のカジノ合法化は、単純賭博施設ではなく観光施設としての統合型リゾートが前提となったもので、その導入目的も観光振興から派生する各種経済効果にあります。だとするのならば、むしろ日常的にカジノを利用するような顧客はそもそも施設の導入目的に適合していないワケで、豊かな者も貧しい者も関係なく一律に一か月間の施設利用回数を制限してしまうという事は、依存症対策という一点を超えた「法の目的」に沿った部分においても整合性のある施策ではなかろうかと考えています。

そもそもギャンブル依存症のみならず、多くの依存症の原理的な研究においては、到達容易性(accessiblity)や入手容易性(availability)が高くなればなるほど、特定のモノや行為に対する社会的な依存リスクが高まるという説が一般的になっています(これを「近接説」と呼びます)。簡単に言ってしまえば、「そもそも入口の時点でハマってしまう所まで利用が出来ないものに対して、依存は発生しにくい」という事。だとするのならば、我が国の統合型リゾートの導入は、その法の目的に基づいて、「観光」としての利用の範疇を超えてしまうような利用の在り方に関しては制限を行うというのは、一つの手であろうと思います。

実は、このようなカジノ利用抑制の在り方は、2006年にギャンブル依存症が社会問題として噴出した以降の韓国において、採用されているもの。韓国では、自国民の国内カジノの利用に関しては月間15回という上限を設けており、また一定期間のうちにこの上限回数に複数回到達するような利用を行う者に対しては、その人間の経済状況の如何によらず(即ち、経済的な困窮状態になかったとしても)、強制的に専門家によるカウンセリングを受けさせるという制度が採用されています。このような制度の在り方は、依存症予防の施策として、また依存リスクのある者を早期認知し、適切な処置に振り向けるための施策としても有効なものであると言えるでしょう。

韓国において現在採用されている月あたり利用の上限である「15回」という数字が相応しいかどうかに関しては別途論議が必要であろうと思いますが(個人的には多すぎると思う)、国民のカジノ施設に関する利用制限としての施策としては、これが最も法の目的に合った施策であり、入場料の賦課よりも余程実効性が高く、かつ予見されるリスクも少ない施策になるのではなかろうか、と思っているところです。

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