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日本の特許裁判は原告に不利か?

日本の特許裁判は、欧米と比較して、原告勝訴率が低く、要するに特許権者が日本では不利に扱われているという批判があるようである。

これに対する知財高裁所長の反論が新聞に報じられていた。
知財高裁所長「特許訴訟、実質勝訴率は4割」

設楽所長によると、2011~13年の3年間で、東京地裁と大阪地裁で決着がついた特許訴訟は238件。このうち判決に至ったケースは144件(約60%)で、原告勝訴判決は37件だった。

 一方、和解で終わったケースは94件(約39%)。このうち原告勝訴に等しい合意内容の和解は販売・製造差し止めが41件、十分な金銭の支払いもしくはライセンス契約の締結が23件だったことを初めて公表した。実質的に原告勝訴の和解と原告勝訴判決を合計すると101件、訴訟全体に占める比率は約42%になる。

和解の可能性を度外視して、原告勝訴判決だけを比較して勝訴率が高い・低いを論じるというのは、ずいぶんとプリミティブな話である。

そもそも和解率が9割を超えるアメリカとでは、比較にもならないように思うが、上記記事に書かれていた批判は「米国やドイツの4~6割程度と比べて低いこと」ということなので、アメリカとも比較した話なのかもしれない。

加えて、訴訟において原告が権利者であることを主張する場合でも、敗訴した場合には権利者でなかったということになる(色々な場合が想定されるが、とりあえず分かりやすい例として)。この場合に、「権利者が不利に扱われている」という評価は、必ずしも妥当しない。

原告勝訴率という素朴な数字だけでは、何もいうことが出来ないのである。

権利者であるのに、裁判では救済され難いという問題があるとすれば、限られた数からの割合を見るよりも、訴訟手続を考えてみる必要がある。
具体的には、アメリカであればディスカバリー(証拠開示)による事案解明であり、弁護士の数が多いことに基盤を有する裁判へのアクセスの容易さ、そして場合によっては懲罰賠償の可能性も含めて、訴えを起こす側に有利な手続が用意されている。そして特にディスカバリーは、原告が自らの権利を立証することが容易である上、和解のための大きな圧力ともなる。

こうした訴訟手続上の違いを見れば、単に原告勝訴率が見かけ上低いという以上に、日本の権利者は裁判で虐げられているとさえいえるのではないか。

知財訴訟では、通常の訴訟に比べてより事案解明が強くできる仕組みが用意されてきた。その意味で、知財だけは権利者を優遇しているとさえいえるのだが、アメリカのディスカバリーとは比べるべくもない。

そしてディスカバリーの導入に最も熱心反対しているのは、いわゆる財界であり、そこには知的財産の権利者が大幅に含まれていることだろう。

ということで、問題は奥深いのだが、訴訟で勝つべきものが勝つような仕組みにしたいということであれば、暗闇で手探りの決闘をするような現在の制度から、透明性のある制度に変えていく必要があるし、それは特許訴訟には限らないのである。

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