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「デジタルコンテンツの世界でお金が回る仕組みを作る」~株式会社ピースオブケイクの代表取締役CEO・加藤貞顕氏インタビュー~

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バイラルメディアや“まとめ記事”が大きなページビューを集め、「コンテンツに手間暇を掛けない」傾向にあるWebメディア業界。そんな中で、編集者と共に作り込んだWebコンテンツを提供し続けているのが、有料メディアプラットフォームcakesだ。ローンチから2年半経過したcakesの現在について、株式会社ピースオブケイクの代表取締役CEO・加藤貞顕氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田正行【BLOGOS編集部】)

「クリエイターと読者をつなぐサイト」を実現しつつあるcakes


―cakesは、2012年9月にローンチして、約2年半経ちました。これまで運営してきて感じた手応えや、現状をどのように分析しているのか聞かせてください。

加藤貞顕氏(以下、加藤):cakesというプラットフォームは、さまざまなコンテンツを作る場として機能しています。ここから紙の書籍もたくさん生まれていて、ベストセラーも何冊も出ています。

また、cakesはコンテンツを作る場であると同時に、出版社にとってはマーケティングの場にもなっています。つまり、cakesではコンテンツを作りながらマーケティングできるようになってきています。

ここに並んでいるように、cakesの連載から書籍化された事例はたくさんあります。出版社がマーケティングの一環としてcakesに掲載したものも含めると、150冊以上あるのではないでしょうか。

―出版社がcakesの連載を書籍化したり、自社の本のマーケティングの場として活用しているわけですね。

加藤:cakesの中では、コンテンツ作りと宣伝・マーケティングの境目がなくなってきていると思うんですよね。僕らとしては、面白いものが掲載されていれば、それでいいと思っているので、そこの区別はあまり重要視してはいません。

そもそもcakesは「有料メディア」として始めたわけではなく、「有料メディアプラットフォーム」を目指して開設しました。最初からそういう前提だったので、実際にそういう風になってきているなと思っています。

このページは、メディアファクトリーのコミックエッセイ編集部がまるごと使ってくださっています。本の内容すべてではなく、一部掲載のものが多いですが、このページだけでも10冊以上のコンテンツが掲載されています。連載の各ページにAmazonのリンクが貼ってあるので、読者が気に入ればそこから本が買えるようになっていて、このリンクから実際に本が売れてています。数としては、僕らが把握しているだけでもそれなりの数で、当然書店でも売れていると予想されるので、書籍販売の初速が速くなるのに役立っているんじゃないかと感じています。

出版社の中にはネットに載せると売れなくなるんじゃないかと心配するところもあったのですが、そうではないことが証明できてるのかなと思います。特に、『統計学が最強の学問である』『ゼロ』『嫌われる勇気』といった作品は、本の内容がcakesに全部載っているにも関わらず、どれも数十万部を超えるベストセラーになっています。

―規模感でいうとどれぐらいですか?例えば、BLOGOSでも著者インタビューなどをやらせていただくのですが、ヒットすればそこから100冊以上売れることもあります。

加藤:コンテンツによりますが、それよりも売れる場合もよくありますよ。

cakesでは、一つの連載が、たとえば本一冊分だと20記事ぐらいの数になっているので、長期的に読まれるようになっています。ですので、その連載全体の中から何百冊というレベルで売れていくという感じです。

―cakesはメディアプラットフォームですから、一般のWebメディアと消費のされ方が違うというわけですね。

加藤:そうですね。おそらく無料のWebサイトにおける記事の賞味期限というのは、通常数日だと思います。それとはかなり違っています。

cakesでももちろん新しい方が読まれやすいという部分もあるのですが、僕自身はニュース性よりも、作り込んだ面白さを大切にしたいと思っています。

cakesの多くの連載は、最新話と第一話を無料で読むことができます。「これ面白いからさかのぼって読もう」「続きも読んでみたい!」となると有料になるのです。最新話は期間を区切って無料で公開していて、その期間は連載ごとに設定できます。その無料期間を過ぎると有料になるので、そこで課金していただくパターンが多いですね。

―Web上での販促というのは、出版社が苦心しているところかもしれません。間口の広いものはともかく、多少専門的なものになると、しっかりと刺さる読者に向けた販促の場を探すのは難しいですよね。

加藤:出版社の書籍や雑誌の販促媒体は、いままでは新聞がほとんどで、ネット上で宣伝する方法にあまり良いものがなかったんですよね。ネットでは面白いものしか見てもらえないので、宣伝するならば内容を出すしかないだろうとずっと思っていました。

読者にとっては宣伝か否かは関係なく、単に面白いものが読めるかどうかが大事です。本の中身や、それに付随するインタビューなどを読んで、気に入ったら買う。仮に、サイト上ですべて読んだとしても、「改めてちゃんと勉強したい」「良いものなので手元に置いておきたい」と思えば買います。『統計学が最強の学問である』などは、正にそういうケースですね。

ネット上でしっかりと内容が見られて、かつコンテンツに対する興味が高くコラムや記事を読むのが好きな読者が集まっている場所というのは、今までなかったと思うんです。cakesが今、そういう場所になってきたなと思っています。

紙の原稿よりも、高い原稿料を稼ぐことができる


―ローンチ時に注目を集めた点として、原稿料に加えて、ソーシャルでの拡散などについてもマーケティングフィーを払うということがあったと思います。Webメディアの中では、「原稿料が1文字1円にも満たない」というような話もよく聞きますが、クリエイター側から見た際にcakesの環境はどのようになっているのでしょうか?

加藤:原稿料は、読まれた量に応じて払う仕組みになっているのですが、上位陣はそれなりに稼いでいただいてますね。

週一、月4回の連載で数十万円の人もいますし、そこまでいかずとも月十万円ぐらい受け取っている人はたくさんいます。

―クリエイターにとっても魅力的なプラットフォームになりつつあるわけですね。

加藤:読まれた量に対して原稿料を配分する仕組みは、長期的に活動しているライターさんにもうれしい仕組みなんですよね。過去の記事が突然バズったりすると、その分もきちんと支払われます。

例えば、「ドワンゴが角川と合併」というニュースがあると、ドワンゴ会長の川上さんの古い記事が急にバズったりして、川上さんにも、それを書いたライターさんにもお金が入る。ですので、ライターさんが以前に書いた記事を紹介するインセンティブにもなりますし、時期に関係なく面白いものを読みたいと考える読者にとっても有益だと思います。

―「クリエイターと読者をつなぐプラットフォーム」と掲げてスタートしているわけですが、そこにはかなり近づきつつあると?

加藤:「クリエイターと読者をつなぐ」というテーマに対して言うならば、cakesというのは第一歩に過ぎないというか、様々なサービスの形が組み合わさることで、そういう世界ができていくのだろうなと考えているんです。

例えば、文藝春秋社が出来たとき、一番最初に『文藝春秋』という雑誌をつくったわけですが、『文藝春秋』によってコンテンツが蓄積されると、次の一手として単行本を出すわけです。つまり、雑誌が“集合的なメディア”であるのと対照的に、単行本というのは“個人メディア”なんですね。

こうした流れを考えると、Web上にもやはり個人に紐づいたメディアが必要なんじゃないかと考えてnoteをリリースしました。個人に紐づいて、コンテンツを作成して、売る仕組みが必要だと考えたわけです。

―“集合メディア”としてのcakesと、“個人メディア”としてのnoteという風にとらえているわけですね。

加藤:そうです。ちょっとcakesに話を戻すと、デジタルにおける“集合メディア”の新しい形が必要で、それがこういう形なんじゃないかと考えて作ったのがcakesなんですよ。

で、cakesをリリースする際に、いろんな人から「このメディアのテーマは?」「趣旨は?」と聞かれました。雑誌であれば、テーマや趣旨が必要なので、こうした質問は的を射ていると思います。

しかしcakesでは、あえてテーマを設定していません。ナタリーの大山さんも「何でもやるのが良いんだ」と言っていますが、感覚としてはかなり近いものがあります。テーマはあえて設定せず、何でもある場所がこれからの形なのではないかと考えています。

もちろん、読者一人ひとりは、「なんでも全部を見たい」とは考えていません。読者が読みたいのはごく一部の記事でしょう。もちろん、広告媒体として売るのであれば、読者を絞ってメディアを作った方が断然やりやすんですけどね。ただ、そうじゃない形が最終形というか、行き着く先だと思っているので。いろんなメディアに参入してもらって、読者それぞれが見たい記事をcakesで見てもらえるのが理想の形だなと思っています。

一方で、「これはやらない」と決めていることは2つあります。それは、悪口と極端なエログロ系の記事です。逆に言うと、それ以外は何をやってもいい。悪口というのはPVが稼ぎやすく簡単に作れるので、Webに限らず、メディアをやっているとそこに行きがちなんですよね。でも、そういうものを本当に好きな人ははたしてどれだけいるのかなと。特にお金を払うということを考えると。広くみんなに届ける、有料のものは、ポジティブなものだろうなという発想で、“集合的なメディア”cakesを運営しています。

―noteには、個性的なコンテンツが多いですよね。例えば、田中圭一さんの「うつヌケ」は個人的にも楽しみにしています。

加藤:あれはcakesの経験に基づいて、角川さんと共同で進めているプロジェクトです。

マンガのWeb展開は個々の出版社ごとにも行われていますが、それぞれで読者を集めるのがたいへんなわけです。課金したいとなると、その仕組みも必要ですし。だから、こういう最初から一定数の読者を抱えているサイトと組んでやるやりかたは有力だと思っています。しかも、田中圭一さんみたいにキャラクターが立っている人にとって、ファンを集約する機能があるnoteというプラットフォームは、相性がいいですよね。

Webサイトをつくるというのは、「砂漠の真ん中で叫ぶ」みたいなところがあって、つまり、集客がたいへんなんですよね。だからこそ、noteに自分のファンを集めておいて、そこに対してビジネスができるというのは効率が良いのではないでしょうか。

また、田中さんのプロジェクトは、出版社と原稿料の持ち合いをしています。つまり、「1ページあたり○○円」という原稿料の一部を出版社がもち、一部を弊社のほうで売り上げの最低保証をしています。

noteでの販売で最低保証額に達した場合は、雑誌で連載する際の原稿料よりも高くなり、出版社にとっては、原稿料の負担が減る上にネットで話題になればマーケティングにもなる。実際、有料の記事ですが、すごく読まれています。あとは本が売れれば完璧ですね。本は来年発売予定なのですが、とてもおもしろいので、売れるんじゃないかなと思いますよ。

このやり方は、今後広げたいと思っていて、ほかのマンガ家さんや出版社とも話をしているところです。この記事を見て、やりたいと思った方はぜひ連絡をいただければと思います。

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