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スウェーデン国王の命を救った少女

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スウェーデン国王の命を救った少女』(英題The Girl Who Saved the King of Sweden)は実話に基づいたノンフィクション、ではない。ヨナス・ヨナソン(Jonas Jonasson)の小説だ。『スウェーデン国王の命を救った少女』というのは英語の題の訳。スウェーデン語の原題はAnalfabeten som kunde räkna。『数の数え方を知っている読み書きが出来ない人』の意味とか。

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ヨナソンの処女作『窓から逃げた100歳老人』(英題The Hundred-Year-Old Man Who Climbed Out of the Window and Disappeared; 原題Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann)があまりにも面白かったので、友人が第2作を購入したのを知って、内容も確かめないまま借りてしまった。

『窓から逃げた100歳老人』は、自分の誕生日パーティーに出席するのが嫌で、老人ホームの窓から逃げ出したアランが主人公。ギャングに追われる100歳の今の冒険と、20世紀の様々な歴史的事件に関わってきたこれまでの人生が平行して語られる。30言語以上に翻訳され、全世界での販売数が800万部を超えた大ベストセラー。映画化もされた。

リンク先を見る 『スウェーデン国王の命を救った少女』を読み始めて驚いた。冒頭の舞台が南アフリカ、それもジョハネスバーグに隣接する黒人居住区(当時)のソウェトなのだから。スウェーデン人作家が何故アパルトヘイト時代の南アフリカに興味を持ったのだろうか。ソウェトの少女とスウェーデン国王がどう結びつくのだろうか。思わず期待が高まる。

主人公は1961年生まれのふたり。南アフリカ人のノムベコ・マイェキ(Nombeko Mayeki)とスウェーデン人のホルガー・クヴィスト(Holger Qvist)。

孤児のノムベコは学校教育を受けることもなく、幼い頃から便所の汲み取りをして生活費を稼いできた。恵まれない境遇に生まれ育ったものの、実は頭脳超明晰、特に数字に強い。独学で読み書き算数をモノにする。ところが、南アフリカ政府の原子爆弾開発責任者エンゲルブレヒト・ファンデルヴェストハイゼン(Engelbrecht van der Westhuizen)が酔っ払って運転した車に轢かれてしまう。それどころか、被害者のはずなのに、ファンデルヴェストハイゼンのメイドとして働く判決を受け、原爆開発施設に10年以上監禁状態になる。それでも熱心に独学を続けたノムベコ。朝から酔っ払っているボスを陰で支え、実質的に原爆を開発してしまう。

一方のホルガーは狂信的な共和主義者の息子に生まれる。実は双子なのだが、親が役所に届け出たのはひとりだけ。兄のホルガーは崇拝する父の言いなりで、幼い頃から自分で考える癖がない。王政を倒し、スウェーデンを共和国にすることを夢見る父は、一途なのが唯一の取柄で、現実から乖離している。聡明な弟のホルガー(兄と同じ名前!)は公(おおやけ)には存在しない。

未来がない環境に生まれたノムベコと公に存在しないホルガーを結びつけることになったのは、南アフリカ製の原子爆弾。

南アフリカは6個の原子爆弾を製造した。これは史実。ところが、この小説では、間違って7個目が作られてしまうのだ。イスラエルの諜報機関モサドに7個目の原爆を渡し、見返りにスウェーデン亡命を手に入れたノムベコだが、手違いで原爆もスウェーデンに届けられてしまう。そして、ノムベコはモサドに追われる身になる・・・。

真面目なスパイスリラーではなく、スケールの大きいユーモア小説。絶対に起こりえない出来事を真面目に語るヨナソンの作風が楽しい。かといって、ナンセンスだけの話ではなく、生まれてからずっと、出口の見えない状況で真摯に生きる主人公のふたりに、思わずエールを送ってしまう。最後は涙が出た。

実は、南アフリカの原爆には個人的な思い出がある。1994年、NHKスペシャル『新・核の時代』の準備・撮影のため、数か月の間、南アフリカの原爆開発・解体の取材に関わったのだ。

冷戦中は世界を2分した米ソが睨みをきかせ、核兵器の無制限な拡散が防がれていた。冷戦が終わり、世界の核状況はどうなってしまうのか。日本にとっての最大の脅威「北朝鮮」と核兵器を開発したにも関わらず自発的に解体した世界で唯一の国「南アフリカ」を対比する番組になるはずだった。

それが番組の編集作業段階で北朝鮮の初代最高指導者、金日成が死亡し、番組の焦点が北朝鮮に移る。南アフリカ部分は180分の番組中、10分程度に短縮されてしまった。原爆開発に携わった国防大臣マグナス・マランや原爆解体の責任者ムートン博士など、様々な関係者を長時間にわたって取材したのが無駄になって残念だった。。。

本題に戻る。

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ヨナス・ヨナソン(Wikipedia
著者のヨナス・ヨナソンは1961年7月6日生まれ。1994年までジャーナリストとして働く。1996年にメディア会社を設立。週7日働き、従業員100名の会社に成長するが、健康を損なったため会社を売却し、飼い猫のモロトフと田舎に引きこもって、かねてからの夢だった小説の執筆に専念する。ノルウェー人女性と知り合い結婚するものの長続きせず、現在は息子とふたりでスウェーデンの島に住んでいる。2009年に出版された処女作『窓から逃げた100歳老人』により、ベストセラー作家となった。

大ベストセラー作家の2作目である『スウェーデン国王の命を救った少女』はそのうち邦訳が出るだろう。3作目が待ち遠しい。

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