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八紘一宇は福祉国家の夢を見るか?

 3月16日の参議院予算委員会で、自民党の三原じゅん子議員が「八紘一宇は日本が建国以来、大切にしていた価値観」という趣旨の発言を行った件について。

 八紘一宇が日本の侵略戦争を肯定するためのスローガンであることは言うまでもなく、この言葉を現代日本において肯定的に利用するということは「日本は今でも侵略戦争を考えていますよ」という意味にしかなりようがない。

 そのことは、すでに出ている数多くの批判のとおりだろう。

 さて、しかしながら、この発言はいかなる文脈において発言されたものか、改めて確認したい。

 問題の主題は「租税回避」である。企業や個人が自社の利益のみを考えて動くことに対して、三原は八紘一宇を「グローバル資本主義の下、競争社会が行き過ぎ、つまり弱肉強食であって、自分さえ儲かれば他人などどうでもいいといった考え方が世の中にあることをうれい、それを正すための理念」(*1)、「八紘一宇とは、世界が一家族のように睦(むつ)み合うこと。一宇、即ち一家の秩序は一番強い家長が弱い家族を搾取するのではない。一番強いものが弱いもののために働いてやる制度が家である。」(*2)として紹介している。

 すなわち「日本人であるならば、八紘一宇を是とし、租税回避のような振る舞いをするべきではない」と主張しているのである。
 これについて北海道大学大学院の中島岳志准教授は、三原が福祉に熱心「だからこそ」、八紘一宇の概念に惹かれるのではないかと考察している。(*3)(*4)

 なるほど。国家を1つの「家」として考え、強いものは弱いものを支えよと。そういうことですか。

 しかし、この言葉が結果として侵略戦争の正当化に使われたことは、この思想自体に大きな問題が含まれることを示しており、いくら三原が「侵略を正当化したいなどとも思っていません」(*1)と主張したところで、50年以上前に結実した「結果」を今更塗り替えることができるはずもない。それを塗り替えようとするのであれば、それは当然「歴史修正主義」として世界中から非難されるべきである。

 そもそも「強いものが弱いものを支える」という福祉観は、極めて危険な考え方である。

 このような福祉のあり方を前提にした場合、一番良くても、福祉を受ける弱い側が、強い側に頭を下げて福祉を受けさせて頂いているということにしかならない。そして最悪、強い側が弱い側に対して「支えてやっているんだから、俺の言うことに服従しろ」という搾取構造に至る。

 そして、その両者の違いはあくまでも「強い側の心がけ次第」ということになる。強い側がいい人であれば、弱い人が頭を下げるだけで済むけど、強い側が悪人であれば搾取構造。三原は「八紘一宇は搾取構造ではない」と主張するが、八紘一宇が人の良心に期待することでしか成り立たない以上は、搾取構造もまた八紘一宇の一部であると言える。

 そして実際「家族」というものは長い間、強い父親が、家族を一方的に搾取するという構造で在り続けた。子供では長男だけが偉くて、他の家族は奴隷同然だった時代というのは、戦後も長らく続いていたのであり、決して何百年、何千年前のことではない。

 今では通帳を持つ母親の方が強いという話もあるが、どちらにせよ家族の中で「弱い立場」の人、すなわち子どもや障害者は、今だって強い人の顔色を見ながら生きている。

 本来、人間には弱い立場であれば福祉を受ける「権利」がある。
 その権利とは、強い人間の良心次第で与えられたり与えられなかったりするものではなく、システマティックに与えられなければならないものである。

 徴税で福祉を成り立たせるということは、強い側から行政が自動的に徴税し、弱い側に自動的に分配するということに他ならない。この仕組みに対して、強い側に「納得」したり「了承」したり「選択」をする権利は与えられない。それを前提にすればこそ「租税回避は金持ちのわがまま」と批判できるのである。

 これを「強い側の良心」の問題にしてしまえば、当然、強い側の良心の発露として「弱い側に経済的自立を促すことが良心だ」とか「法定の時給以下でも働かせて、職業訓練をさせるのが良心だ」などという搾取のための言い訳が主張されてしまう。挙句の果てには「困ったときには税金が分配されると考えるから、弱者は働かないのである。だから良心として税金を払わない」というスパルタ論までもが肯定されている。

 そしてその「結果」こそが、経営者たちの租税回避という行動である。

 本来、租税回避によって分配システムが機能しなくなることを問題にするのであれば、批判されるべきは現状に合わせた徴収納力のないシステムそのものである。

 ところが、三原を始め、福祉の必要性を痛感しているであろう人ほど、システムの欠陥を埋めるためにと、強い側の良心に呼びかけてしまう。結果として弱い側は強い側に翻弄され、ますます搾取されていく。

 そうした「結果」は、バブルが崩壊して以降、ずっと我々に提示され続けている。歴史も現実も、真正面から見据えていくことでしか、問題の解決には至らない。近道はないのだ。

*1:予算委員会の質問でお伝えしたかったこと(三原じゅん子オフィシャルブログ「夢前案内人」)
*2:「八紘一宇」とは(三原じゅん子オフィシャルブログ「夢前案内人」)
*3:https://twitter.com/nakajima1975/status/578456477045665792
*4:https://twitter.com/nakajima1975/status/578456710995517440

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