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twitter創業者のジャック・ドーシーも出資したアートのECサイト「Artsy」

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絵画や美術品の収集は、おいそれと足を踏み入れにくい分野だ。個々の画家やジャンル、時代に興味を持って美術館やイベント、ギャラリーに足を運んだり、画集や複製画を買うことはあっても、本物の絵を買う機会や場所はさほど多くないのではないだろうか。

実は絵を買うコレクターにとっても、絵を買う機会が少ないという事情はあるという。ひとつには美術品の取引はギャラリーがある都市に限定されて行われることが多く、購入するにはわざわざそれらの都市に赴かなければならないこと、もうひとつは絵に関するオンラインのデータベースが少なく、今どのようなアートがどこにあるのかを検索するのが容易でないことがあるそうだ。

今回ご紹介する「Artsy」は、そうした問題を解決するためのECサイトだ。同サイトでは世界中の500以上のギャラリーと提携し、23万点以上の作品情報を知ることができる。また売り手が販売しているものに関してはオンラインから注文したり詳細をたずねることが可能だ。

また画家やジャンル、展示しているギャラリーなどの情報を掘り下げ、関連する画家や作品、時代区分などの体系的な知識を提供し、アートに知識がなくても楽しく閲覧できる工夫も施されている。

同サイトの掲載アートへの総アクセス数は2012年10月から2013年の6月までで186カ国、計2億3000万にのぼった。また、これまでに26の投資家から計約2600万ドル(約31億6000円)の投資を受けたという。

夢想から実現へと Artsyの軌跡

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Artsyの創業者は、アート関連の評論家・ライターの父のもとで育ったCarter Cleveland(以下カーター)氏。同氏の実家には美術や絵画の本が豊富にあり、幼い頃からよく美術館にも連れて行ってもらったという。

このような環境もあってかアートへの関心が高かったカーター氏は、一人暮らしをはじめるにあたって、身の回りにアート関連のものがなくなってしまったことにもの寂しさを感じていた。そこでインターネットで世界中のアートを一望できるサイトを探してみたが、思うようなサイトが見つからない。本や映画、音楽関連の大規模なオンラインプラットフォームはたくさんあるのに、美術にはなかったのだ。

このことを残念に思ったカーター氏は、家にいながらにして世界中のアートをオンラインで見られるようなサイトを作りたい、と考える。あまりに話が大きかったため、家族や友達に話してもほとんど無視されてしまったが、ある友人がその話を聞いて、ビジネスコンテストに提出してみては、と提案してくれた。カーター氏はこの提案に乗る形で、温めていたプランを書き下ろした。

このプランを2009年度のPrincetonビジネスコンテストに提出してみたところ、見事準優勝。獲得した資金でArtsyのもととなる構想を実現するための準備ができるようになった。大学でコンピューターサイエンスを専攻していたとことも、サイト制作を行う上での助けとなったようだ。

2010年には「Artsy」に協力したいと、twitter創業者のJack Dorsey氏が130万ドル(約1億6000万円)の出資を申し出る。つづいてアートコレクターのWendi Deng Murdoch氏 、現代美術のギャラリーをもつDasha Zhukova氏などのアート界の著名人からも投資を受けることができた。

やがてニューヨークのGagosianギャラリーやPace galleryギャラリーといった有名なギャラリーからサイトへのアート作品掲載の打診が来るようになったのだ。

「タグ」でアートを結びつける

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Artsyは500以上のギャラリーと提携しており、総計2万5000人のアーティスト情報、23万点以上の作品に触れることができる。現在活動しているアーティストから誰もが知っているような歴史ある美術品まで、幅広いジャンルの作品を閲覧可能だ。

サイトに掲載している作品には、サイトを通して購入可能なもの、直接美術館やギャラリーと交渉を行うもの、購入不可能なものの3種類に分けることができる。販売されている作品は100ドルで買えるものから100万ドル(約1億2000万円)のまであるそうだ。

なお作品の売買は美術館やギャラリー、画家などの作品の所有者との間で行われ、Artsy側はこれらの作品を掲示している各美術館やギャラリーからの会費で運営をまかなっている。

Artsyの特長的な点に、それぞれの作品やアーティストには歴史や年代、地域や人物像、様式など200前後の要素で分類されたタグが付けられており、関連性の深いもの同士を数珠つなぎのように、つぎつぎ「発見」できるように工夫されている点がある。この試みは「アート・ゲノム・プロジェクト」と呼ばれるものの一環で、画家やキュレーター、ディーラーや学者などによって分析されたものだそうだ。

そのため利用者は、自分の好きなテーマごとに作品を追うことができる。同サイトで挙げられていたテーマは「子供の頃」「白黒写真」「女性アーティスト」「日常生活の情景」「人種」「宗教画」「形象美術」「古典神話」「ヌード」「16世紀」「ビーナス」など。変わったところでは「お忍びの瞬間」や「アイコンタクト」といったテーマもあった。

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(上「日常生活の情景」、下「アイコンタクト」)

また好きな画家の作品や情報に触れたり、その画家と似た作風を持つ作家を発見することもできる。興味を持ったアーティストや作品を見つけたら、そのアーティストをフォローすることでフィードを受け取ることも可能だ。

たとえばシュルレアリスムの大家サルバドール・ダリのページでは、135の作品と簡単なバイオグラフィー、スペイン美術史に関するコラムなど、ダリに関連する記事とともに、関連するアーティストとしてミロやマグリッドといった画家たちや、サイトが推奨する現代アーティストが紹介されていた。

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自分の興味を持つ分野作家と関連性の深い作品を見つけられるという試みは一般的な利用者への教育的な作用もあるが、作品を買いつけるアートコレクターにとっても便利な機能だ。ほとんどのアートコレクターは、同じ系列にある作品を収集する場合が多く、継続してコレクションに関連付けられた画像をオススメすることができるからだ。

創業者のカーター氏は、Artsyのこうしたしくみは、美術品を購入する財力はあるが、ギャラリーをまわって絵を比較検討し、探索する時間的な余裕を持たない人にもっとも利便性が高いと話す。

同氏によると、買いつける作品は直接自分で見て回るのが理想的だが、美術品の取引はギャラリーが位置する都市に限定されることが多く、世界中の美術品に接して比較できる人はそう多くないそうだ。Artsyはそうした人たちに、ギャラリーや美術館、美術品のデータベースを開放し、比較検討しやすくするという役目を果たしている。

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また同サイトはニューヨークのギャラリーを直接訪問したいがコネクションを持たない新規のコレクターの間に入って1対1のミーティングを手配してくれることもあるという。コレクターは長い時間をかけて取引をして信頼を築き、作品を購入するというのが業界の慣習だったが、この慣習も変わっていくかもしれない。

好きな画家がいるかと聞いても、音楽のような反応は得られない


Artsyの試みとして意義深いのは、美術の裾野を一般層にも広げようとしていることだろう。

その背景には、美術が音楽などのように一般の人たちに浸透していないことへの危機感がある。

”誰かに「好きなバンドはいる?」と聞いたら、目を輝かせて語ってくれる人は沢山いるでしょう。でも「好きな画家はいる?」と聞いたらどうでしょう? その問いに情熱を持って応えてくれる人は滅多にいません”

”僕たちは若い人たちを教育することで、アートが現代のクラシック音楽のようになることを回避し、将来の世代が芸術愛好家やコレクターになる機会を作りたいのです”

 - カーター氏

業界を持続的なものにするためには、美術館、ギャラリー、バイヤーといった専門家同士を結ぶのみでなく、一般の利用者、特に若い人たちをも引き込んでいく必要がある。そのために同サイトではデータベースやカテゴライズを充実させている他、好きなアーティストの作品が入手可能になれば通知したり、友人とアーティスト情報を共有できるなど、芸術に触れやすくなるための機能を盛り込んでいる。

また教育に関する取り組みとして、アートに関する歴史研究チームをつくり、アートの歴史の変遷に関する資料の作成も行っている。美術品を販売するだけにとどまらず、それぞれの美術史と関連の深い社会的な動向やバックストーリーもカバーし、芸術を学ぶ環境を充実させていく予定だ。

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