- 2015年03月18日 22:55
樹崎聖(マンガ家/漫画元気発動計画主宰)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編] 「本当に作家性のある作品にこそ、批評が必要。」
「『食えるマンガ家』じゃなくて『描きたいことを描いて食えるマンガ家』でしょ。」
現在のマンガ評論の価値とは?
樹崎:ウェブコミックの「comico」などでは、完全に人気投票で掲載が決まるんですよね。
山内:投稿されたチャレンジ作品ですね。読者の総意でプロとしての掲載作家を決めていく、というような方法です。
樹崎:それで本当にいいのか、という問題もあって。それだと作家性は育たないんじゃないか。本当に作家性のある良いものって、全員にわかるものじゃないんですよね。
いい映画でもまずは専門家が評価して名作だとわかる作品もあって。例えば映画では、『太陽がいっぱい』(1960年、ルネ・クレマン監督)を映画評論家の淀川長治さんが「あの映画はホモセクシュアル映画の第1号なんですよね」と評価して、そこでそういう意味が隠された映画だと思って改めて見るとすごく面白い。そういう「なぜこの作品を作ったのか」、「根底に何があるのか」ということがわかると、映画がより深いものになってきて、二重にも三重にも面白くなる。それはマンガも同じだと思うんです。
山内:それは僕も同じ気持ちです。マンガナイトの活動でもマンガ評論を書いているんですが、今はそれよりもキュレーションの方が支持されるようになってきていて。「選ぶこと」が重要になって、その作品の背景を知ったり、分析するような評論が少なくなっている気がします。それは本当にもったいないんです。例えば海外では日本の映画とマンガは同じ位置付けでJ-POPカルチャーとして認識されているのに、かたや映画には評論があって、マンガ、それとゲームやアニメには評論がないんですよ。それだと海外の人はマンガにアクセスしにくいんじゃないかと思うんです。世界に誇る日本文化としてもう一歩次のステージに行くには、評論が必要なんじゃないでしょうか。
評論はPVには結びつかないけれど
樹崎:これからマンガ評論家をなんとか育てられないものですか。
山内:大変なのは、評論家の仕事が減っていることなんです。なぜかというと、評論ではダイレクトにPV(ページビュー)が伸ばせないからなんです。今はウェブを中心に、ライトに本を紹介する文章とか、すぐに購入に結びつくような軽めのものが求められがちで。
PVには結びつかないけど、長く残る文章になるから、そういうものとして書いてほしい、という依頼もありますが、それはやはり稀です。だからPV至上主義の中だと評論は育ちにくいんです。
文章ってマンガと比べると試してみるハードルが低くて、大量の文章が世の中に蔓延しているから、なかなかそこからお金に結びつけるのも難しいですね。今の世の中は、キュレーションをした後に作品紹介レビューをする、という流れ。今はキュレーションが中心になっているから、評論じゃなくてレビューのような軽めのもので充分とされてしまって、評論が今のウェブの流れからは取り残されていると感じます。ただ、やはり意義はあるというか、長く残るものだからこそ誰かがやるべきで、マンガナイトでも地道に評論活動を続けているんです。本当に手弁当ですし、世の中の流れからは逆行していると思いますけどね。
山内康裕さん
樹崎:映画評論も、町山智浩さんが出てくるまでほとんど死滅しているような状況でしたよね。一人の才能でもシーンは変わると思うんですけど。
結局、自分のことしか描けないですから。
樹崎:そういうマンガの奥深い部分、根っこの部分が評論によって引っ張り出せれば、マンガに魅力を感じてくれる人も増えそうです。漫画元気発動計画でもそこに踏み込んで行きたかったんですが、まだまだ……。
山内:文章を書くとなると難しいかもしれないですが、マンガ家同士、直接会って話をすると出てくることもありますよね。そういう漫画元気発動計画の活動から培われたものもあるでしょうし。樹崎さん自身も新作を構想中ですからね。
樹崎:マンガって、作家性やモチベーションが強いほど結局自分のことしか描けないですから。毎回新しいことを描いているつもりでも、昔の作品を読み返すと結局同じことを描いているって気がつくんですよね。だから次も新しいことを描くつもりで同じことを描くんだと思います(笑)。描きたいことを描けば読者とシンクロする作家さんもいるんですが、僕はそうじゃなかったので。それで(作画の)技術とかに詳しくなっちゃったんですよ。
山内:それはマンガだけじゃなくて、いろんなことに通じる話ですね……。
樹崎:本当は自分の描きたいものが売れるのがいいんですけどね(笑)。
山内:僕はすごく楽しみにしています。
樹崎:ありがとうございます。がんばります。
[マンガは拡張する[対話編]08:樹崎聖(マンガ家/漫画元気発動計画主宰) 了]
構成:松井祐輔
(2015年2月4日、レインボーバード合同会社にて)



