- 2015年03月17日 19:30
樹崎聖(マンガ家/漫画元気発動計画主宰)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編] 「『食えるマンガ家』じゃなくて『描きたいことを描いて食えるマンガ家』でしょ。」
「編集者は、マンガ家の再就職先として有望だと思っているんです。」
魂の部分を失ったら終わりだ
山内:マンガへのこだわりというか、自分自身の根本にある思いが大切なんですね。
樹崎:自分の根っこを外さないように描け、と。専門学校とか講演とかでそういう話をするとすごく食いつきがいいんですよ(笑)。小手先の技術の情報ばかりがTwitterなどで拡散されていきますが、みんな根本では違うと思っているんですよね。「そんなことのためにマンガ家になったわけじゃない」というか。「食えるマンガ家になるにはどうしたらいいか」じゃなくて、「描きたいことを描いて食えるマンガ家になるにはどうしたらいいか」、でしょ。描きたいものを描くということをどこかに置いて来てしまっていて。編集者さんでも、マンガ家が描きたいものを引き出す、ということを忘れちゃっている人もいて、人によっては「○○みたいな作品を描け」ということも言うわけですよ。それは絶対に言っちゃいけない言葉だと思うんだけど。技術は引き継がれていくものだし、創作も過去の表現の寄せ集めで作るものではあるけど、魂の部分を失ったら終わりだと思います。そういう魂の部分が込もっている作品は時代に長く残る。
山内:消費されない作品になりますよね。読み手としてもそれが感じ取れることがあります。同じ作家の作品でもこれは魂を込めて描いたんだなとか、これは要求されて描いたのかな、とか。
樹崎:本人が気づいていないこともあるけど、やっぱり自分のことを描いているからこそ、作品が良くなると思います。
樹崎聖さん
「伝える手段」としてのマンガ
山内:かたや最近は広告にマンガが使われていたり、学習マンガのようなものもバリエーションが増えて、そこでは作家性が薄くなることもありますよね。
樹崎:それはもうしょうがないですよね。やりたくてやっている人も少ないとは思うんですが、描けていれば幸せ、という人もいると思うし。
山内: そこで稼いだお金を投資して、別のところで描きたいことを描いている人もいるでしょうし、職業としてマンガ家を考えたときにはそういうやり方もあるのかなと思います。
樹崎:そういう仕事をしながらも、腐らずにちゃんと自分の道でどうやって最高のものを描くか。それを考えていれば他のマンガを描くときにも活きてくると思います。でもそんな発想は、そういうマンガを職業として真剣に描いている人に失礼ですね。
山内:広告用のマンガや学習マンガを中心に描かれているマンガ家さんとお会いしたこともあるんですが、その方はマンガを描きたいというよりも、「伝える手段」がマンガだったんですね。伝えたいことがあって、それを伝えるのにマンガが適切だったからマンガを選んでいる。そういうスタンスも僕はいいと思いますし、マンガ家さんもそこに誇りを持っていると思います。
僕もトキワ荘プロジェクトの一環で、消費税増税のときに「消費税8% きたか☆マダカ」というマンガの制作を監修したんですよ。あれは制作の楽しみはもちろんあったんですが、税理士業界の方たちからは、あのマンガのおかげで増税対応にクリエイターの注目が集まったと言ってくれる人もいて。そこにやりがいや面白みがあったと思いますね。苦労したのは作品としての面白さと伝えるための情報のバランス。これは大変でした。結果的には、作品としての面白さと内容の両方で評価いただいたので嬉しかったです。
「消費税8% きたか☆マダカ」より。2014年1月に期間限定で無償公開後、様々なウェブメディアで取り上げられ話題に[(c)トキワ荘プロジェクト]
樹崎:学習マンガの基本はストーリーマンガと同じですよね。ウチのスタッフでもタウン誌で名所紹介マンガを担当している者がいて、僕もその監修をしていたんですが、完全にストーリーマンガのノウハウで監修していましたね。キャラクターに個性を持たせて、その上でわかりやすく説明してオチをつける、と。
山内:そういうものも増えてくるのかな、と。手段としてのマンガ、伝える手段としてのマンガも将来があると思いますね。
[7/7「本当に作家性のある作品にこそ、批評が必要。」に続きます](2015年3月18日公開予定)
構成:松井祐輔
(2015年2月4日、レインボーバード合同会社にて)



