民法改正で変わる生活、「敷金」返還スムーズにTBS系(JNN) 3月6日(金)0時23分配信民法というのは、平たくいうと、様々な取引関係について基本となるルールを定めている法律だ。
この法律がおよそ120年ぶりに大改正されようとしている。報道によると、法改正がなされると、これまでトラブルの多かった敷金の清算トラブルが減少するのではないかということだ。
この報道には大いに異論がある。
以前「結局、敷金は返還されるのか?」と題して詳細に検討してみた。私は、法改正がなされたとしても、敷金の清算や賃貸住宅の退去時の清算に関するトラブルは減少しないと考えている。
■通常の生活をしていてついた汚れについては、入居者は修繕費用を負担しなくてよい…というルールは目新しいものではない。
「通常の生活でついた汚れについては、入居者は修繕費用を負担しなくてよい」というルールは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」においても長年言われ続けてきたことだ。この手のトラブルを裁判所に持ち込んでも同様の結果となる。これは国土交通省のガイドラインができる以前から同じだ。
不動産業界としてもこれまでの分かりきったルールが法律で明文化されたからと言って、あわてて清算方法を抜本的に見直そう…とはならないだろう。
抜け道はいくらでもある。問題は、敷金清算をめぐる契約上の「特約」の存在だ。多くの契約では、敷金を返還しなくて済むように様々な「特約」が設けられている。「特約」が有効なのかどうかということが長年裁判では争われてきたわけだが、その間、様々な特約のパターンが出てきている。
私の住む福岡市内では、入居時に「礼金」を求められる契約が多くなった。以前は全く見かけなかったものだ。このように入居者が支払う費用の名目が代わっただけで不透明な金銭の支払いを求められる状況は続いていくだろう。
国民生活センターの2011年度のデータでは、賃貸マンション・アパートをめぐる相談件数は全体の3位を占める。この賃貸住宅に関するトラブルが多い状況は長年変わらない。
なぜ賃貸住宅に関するトラブルはなくならないのか?
これを考えるには、賃貸住宅市場の特徴をみる必要がある。
■持家と賃貸住宅の違いを考える。
少し話は変わるようだが、日本で持ち家と賃貸住宅とを比較した場合、住宅の質には大きな開きがある。「誘導居住面積」というものがある。
「誘導居住面積」とは、住宅において、世帯人数に応じ豊かな住生活の実現のために必要とされる面積水準として指定されたものだ。
平成25年度の総務省による土地統計調査の資料によると、持ち家の達成率が74.2%であるのに対し、借家は30.4%に過ぎない。居住空間を比較した場合、賃貸住宅と持ち家とでははっきりと違いが出ているのだ。
このような統計のデータを示さなくても持家と賃貸住宅の違いは、日頃、実感できるものだ。
私はよく賃貸住宅のトラブル解決の依頼を受けるが、分譲マンションのケースと賃貸用の共同住宅では内装に使っている建材のグレードがまるで違う。分譲マンションのケースでは、例えば、床材などは防音仕様のものが使われているケースが多いが、賃貸用の共同住宅ではまずそのようなことはない。住環境として、賃貸住宅は、どうしても持ち家に見劣りしてしまう。
見劣りする…というレベルであればまだしも、単身者用の賃貸住宅ではその傾向は、より顕著だ。
新築で見かけは綺麗であっても建物としてあまりにもひどい物件もよく見かける。隣のテレビの音が筒抜け…なんていう物件も珍しくない。
昔、賃貸住宅とは、持ち家を持つまでの仮住まいという位置づけだった。仮住まいであるがゆえに、多少不便だろうが我慢しなければならない…というものだったのだ。30代、40代の子育て世代に入ると、手狭で不便な賃貸住宅ではなく、がんばって持ち家を目指すというものだったのだ。
それは景気対策と連動したこれまでのオーソドックスな政策で推進されてきたことでもある。
ところが、実は、近年、30代、40代の持ち家率が年々下がってきている(理由は様々なのだが)。その分、質のしっかりした賃貸住宅へのニーズは高まってきているはずであるが、それにしては賃貸住宅の質はまだまだ…というところだ。
消費者が求めるニーズに市場が応えていないというのが現状なのだ。
では、このような賃貸住宅市場は誰が作り出しているのか?