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なぜアベノミクスで庶民の給料は上がらなかったのか? - 浜田宏一・安達誠司

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このように日本の名目賃金の上昇率と完全失業率との関係を見れば、完全失業率が3.5%前後で推移している現状(2014年12月現在)は、給料がようやく上がり始める4%の壁を少し超えただけなので、給料の上昇幅はまだわずかで、賃上げが実感できないのは当然のことなのだ。しかしながら他の雇用関連指標(有効求人倍率、新規求人数、所定外労働時間など)も改善し続けているため、間もなく、完全失業率が低下していくに従い、多くの人の給料が上昇過程に入ることは目に見えている。今はまだ我慢の時である。

給料の上昇が失業率の改善に遅れて生じる理由は、経営者の立場を想像してみればよくわかるだろう。経営者にとって、従業員の給料は、できれば最後に上げたいものだからだ。

たとえば業績の回復に伴って、経営者が従業員の給料を上げたとしよう。しかし、再度業績が悪化した場合、経営者は従業員の給料を安易に下げることはできない。なぜなら賃下げは、その額以上に従業員のモチベーションを下げ、ひいては離職をもたらしかねないからだ。だから景気回復の初期段階で、企業が業績の回復に伴って生産の拡大を図る場合、その手段は既存の社員の給料を上げることではなく、まずは従業員に残業を求めることであろう。そして従業員が残業しても、とても間に合わないくらいに忙しくなって(業績がよくなって)はじめて、「新規雇用を増やす」場合が多いのである。

実際、経営者が自社の生産を増やす場合、従来の(すでに雇用している)従業員の賃金を上げたところで、飛躍的に生産量を増やせるわけではない。しかし、(非正規であっても)新規に従業員を増やせば、(それだけ労働力が増えることになるわけだから)如実に自社製品やサービスの生産量・供給量が増えることになる。つまり、自社製品やサービスの供給量を単純に増やそうとする時、従業員の賃金を上げるよりも、新規採用を増やすほうが投資効率がよくなるのだ。

アベノミクスの発動以降、確かに景気が回復しながらも、庶民の給料はさほど上がっていないようなイメージが強いが、企業はようやく将来の業績について自信を取り戻しつつあり、そのため新規雇用を徐々に増やし始めた段階なのだ。したがって、このまま増税などの“邪魔”が入らなければ、次はいよいよ給料が上がる段階に入っていたと考えられる(その意味で2014年4月の消費税率の引き上げは、国民がアベノミクスの恩恵による賃上げを実感するせっかくのチャンスを摘んでしまったのかもしれない)。

そして、労働市場が本当に逼迫(ひっぱく)してくれば、企業も賃金を上げないと、必要な労働者を雇えなくなる。それが市場メカニズムを通じた自然な賃上げである。首相や大臣が経済界に賃上げの要請をして無理に上げるより効果があり、実際に必要なのは自然な賃上げのほうである。

ここまでをまとめると、次のようになる。

1.企業が新規雇用を増やすことで生産を拡大させたあと、さらに景気が回復すると、新たに雇える人の数(=失業者の数)がどんどん減っていく。

2.その過程で人手不足が生じるため、(新規に雇われる)非正規雇用の人たちの賃金が上がる。

3.その後(またはその動きと並行して)、企業がさらに生産量を伸ばすために、他社から人を引き抜くなど従業員の奪い合いが起きる。この場合、企業はより高い給料を提示しなければ、人を引き抜くことはできない。また、非正規社員を正規社員として雇用し直す動きも出始める。

4.新規に雇われる人の初任給が上昇するのと並行し、企業の業績も上がり続ける。かつ、他社に人を引き抜かれないようにするためにも、既存の従業員の給料も上がり始める。

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