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【詳報】「今、日本は戦後最大の危機を迎えている」大江健三郎氏、鎌田慧氏が会見

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どういう状態で小説家としての終わり、人間としての終わりを迎えようとしているのか

今、現在の私たちが陥っている窮状について考え方を申し上げました。考え方というよりも、どのような現実を生きているかを申し上げました。

これからご質問を頂いて、それを展開していく、そこで私は政治家たちが聞こうとしないでいる、日本のことををよく知ってっておられる海外のジャーナリストの方々を声を聞かせていただき、私たちが考えを答えるというセッションが重要だと思いますので、そちらに移りたいと思います。

その前に一つだけ、小説、文学をやってきた人間として、どういう状態で小説家としての終わり、人間としての終わりを迎えようとしているのか、社会的背景はこういうものだということを、お話する、それをごく短くお話して、みなさんの質問に移りたいと思います。

私は小説家として22、3歳から書き始めました。80歳になりましたので、非常に長い間小説家として生きてきました。5年前、私は小説家としての生活を、文学に関係のある生き方を終わりにしようと考えていました。そして、晩年に近づいていく私のエッセイを読んで、私が文学的な人間であることをやめるということをはっきり方向付けてくれた、それ以外の道が、生き方が君にありうるかもしれないと、私に非常に内容のある勧告をしてくれた方がいました。
その人は、皆さまもよくご存知の、エドワード・サイードという、私が最も重要な、20世紀の終わり、21世紀の初めの文化理論家と考えている方です。

私は自分の仕事、文学の仕事がどういうものだったか、70歳になった時に全て検討しようと考えて、作業を初めていました。ところが突然、エドワード・サイードが白血病で倒れてしまうということが起こったのです。
サイードは亡くなる前に、人間が、あるいは文化がひとつの非常に決定的な最終段階に立ち至っていると考える時に、我々の最後の表現のスタイルがどういう形をとるのか、ということを考えていました。
病気の自覚もありますが、イスラエルとパレスチナの問題が彼の生涯の課題で、その社会運動を続けた上での、非常に辛いところでの文学観、あるいは人間観の表現でありますけれども、人間の表現する「最後のスタイル」というものがあるんだと。
今まで、あらゆる時代に、いろんな人たちが人類の最後、あるいは個人として自分の最後を重ね合わせて考える、そして独特の表現をしてきた。それがなければ人間の芸術の歴史はある程度単純化されただろうというのが彼の考え方でありまして、それについて彼は"On Late Style"という論文を中心にまとまった仕事をし、亡くなりました。
彼が亡くなった後、私は彼の取材の文書を集める仕事に参加しまして、ここに刊行することができたのです。本を編集しながら、サイードの"On Late Style"という考えを私が理解していくのと同時に、私たちの国が、世界が一挙に終末的な、非常に危機的な状況に立ち至ったと私は自覚しています。

人間、文明、あるいは社会のそのLate Styleは、例えばベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲のように、芸術家に非常に優れた特別の作品を作らせる。そういうことがずっと、この19世紀、20世紀、21世紀に至っても続いているというのがサイードの考え方で、その上での自分の最後、自分の死後についての見通しを考えるのがこの"On Late Style"ですが、私もこの3年間、同じことやっています。

サイードはアドルノという思想家の良い後継者で、彼自身もアドルノを継ぐ人間だと書きましたが、アドルノは"アウシュビッツの後で人間が表現を行うこと、それ自体が野蛮なことなんだ"と言いました。
これにはいろいろな理解、解釈がありますが、アウシュビッツの後、そして広島・長崎の後、そしてサイードがもし生きていたら福島の後、そこで人間が表現活動をする、文学活動をするということ自体が野蛮なことなんだろうか。それは人間が新しい人間になるための手段として、そこをどう乗り越えていくかが我々の仕事だと、サイードは言うかもしれない。

この状況はもっともっと悪化している、もっと究極に近づいている。そして個人的に言えば老人として死のうとしている我々がどういう表現、人間はどういう足場に立って、どういう精神でもって表現活動を続けることができるかをサイードさんは "On Late Style"の中で述べています。私はそれを掘り出して、みんなに伝えるということを願ってきました。

そして、この本を編集したジャーナリストは、最晩年のサイードは楽観的だったと、そう言っていました。彼はパレスチナに関しても、人間全体の将来についても非常に悲観的で、絶望しか無いと考えていたんだと。しかし絶望した人間の表現のスタイルを作っていく展望について、サイードは楽観的だったと言うんです。

それを私は自分の信条としたいとも思っているんです。今、私はサイード的な最後の楽観性を自分のものにしたいと考えて、文学的な仕事が終わった所で仕事をしています。その、非常の絶望的な中で、なぜ人間が楽観的でいられるのか。そのことを申し上げて、私の話を終わります。

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