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志望者にとっての「価値」と「改革」の「価値」

かつて弁護士という資格については聞かれなかった「資格は永久生活保証ではない」という言い方を、いまや当たり前に耳にします。また、悪化したという弁護士の経済状況については、それでも他業種に比べれば恵まれているとか、地方ではまだまだやれる、とか。さらに、最近では「就職難」という現実そのものまで疑問を投げかける見方も出始めています(武本夕香子弁護士ブログ 「弁護士の就職難って『都市伝説』?!」高瀬文人氏「2015.3.5ロー未来の会セミナー『“弁護士就職難”の謎を解く』書き起こし」)。

 イメージや固定観念を覆そうとする切り口や試みも、現実を浮き彫りにするためには必要です。ただ、大方「改革」推進論、あるいは対「改革」反対・慎重論のなかで繰り出されている、こうした論調に対しては、そもそも事実に反しているという反論もありますが、それとは別に決定的な欠落感があります。それは、やはり志望者の視点ということに尽きます。

  「資格の永久生活保証」について、もちろん新人弁護士たちには、いまやそんな意識は少ないはずですし、かつての経済環境を知る弁護士の口からも「もはや通用はなくなった」というような自戒の言葉を耳にします。ただ、あえていえば志望者についてはどうなのでしょうか。弁護士の資格が、他の資格に比べて、安定性のある資格である(あった)ことは、りっぱな選択のための材料であったとしてなんらおかしくありません。

 これは、他の論調についても同様です。「悪化したけど恵まれている」「地方ならばやれる」「就職難というほどではない」ということは、法曹界外の進路と比較して、よりメリットのある方向を選んで当たり前の志望者にとって、法曹界選択のプラス材料とはいえるでしょうか。

 あえていえば、これらは既に弁護士になってしまった、あるいはなりかかっている人間には、それでもこの道を続けようとする動機付けになる場合もあるかもしれません。もし、資格に甘える考えがあればそれを戒め、経済状況や就職の現状も、「まだまだ恵まれている」と自らを鼓舞し、あるいは一念発起、「地方にチャレンジしてみよう」などなど。しかし、まだそこにいない志望者は、彼らの現実感とメリットで当然選択するのです。

 結局、ぶち当たるのは二つの疑問です。一つは、やはりここにあるのは、かつてからこの「改革」論議のなかで見え隠れする、「それでも人はくる」といわんばかりの「人気商売信仰」と結び付いた「あるべき論」の強気な発想ではないか、ということです(「新法曹養成制度の『強気』」)。基本的な発想は、「改革」はこのままでも、前記「やれる」可能性とそれを自覚している弁護士たちの姿を発信すれば、志望者がこの世界の「価値」を見直すはず、というものにとれます。大マスコミが一生懸命「やれている」弁護士や、「やろう」と頑張る若手にスポットを当てるのも、その意味にとれます。

 ただ、何が何でも法曹界しか目に入らない人は別にしても、他の世界も比較の対象にできる志望者には、好き好んでより厳しい努力が強いられたり、リスクがあったり、さらに経済的にも妙味が少ない道を選択しなくて当然です。収入にしても、あるいは一般企業などの退職金までも含めた、将来を見据えたものが比較の対象になり得ます。こういうと必ず、「そういう人材はこなくていい」「それでもという人間にこの世界に来てもらいたい」式の反応が推進論者から返ってきます。

 しかし、ここに問題を解決につながらない認識の大きな隔たりがあるように思えてなりません。食べていけるかは度外視せよ、という「成仏理論」にしても、あるいは時間的に経済的によりメリットがある道の選択を「心の貧困」と揶揄することにしても、選択する側にとって発想には、およそ理解が及ばない、かけ離れた発想が登場していることも、まさにこのことを象徴しているように思います。

 そして、もう一つの疑問は、そこまでする「改革」の価値です。つまり、「これでもやれる」「これを越えてこい」という環境を提示することに見合う、われわれ社会のメリットです。激増による競争のなかで、「資格を生活の永久保証」と考えて、経営やサービス向上への努力を怠る弁護士たちが淘汰され、かつてよりも社会に利益を還元するはず。そして、前記したように、志望者もこの環境でも弁護士の仕事に就きたい純粋で良質な人間だけが門をたたくはず――。こういう見通しに果たして立てるのかどうかです。

 2014年までの10年間で、法曹への道として強制された本道である法科大学院を志望する人間は、実に84.3%減少し、「抜け道」と批判されながら、経済的時間的負担では現実的選択の道であった予備試験の志望者も遂に減少に転じました(「『予備試験』出願者減という段階」)。「それでもやれる」の強調と、「それでもやる人間だけでよし」の強気で、この極端な志望者敬遠傾向が解消される未来は、本当に描けるのでしょうか。それはいつのことになるのでしょうか。そして、この強気がまたぞろ「改革」の失敗という轍を踏むことにつながることにならないでしょうか。

 資格がその取得者にとって、安定した生活の保証になることも、志望者たちがそれを求めることも、それを奪うメリットが社会に還元されるのでなければ、私たちには本当はどうでもいいことのはずです。その点で、私たちは、まず、この「改革」の価値を疑っていいように思えます。

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