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ウクライナ分割計画はヤヌコヴィチ大統領の失脚前から決定していた? リーク報道の真相 - 小泉悠

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1年目を迎えたウクライナ危機

 覆面をした謎の武装勢力(もちろんその正体はロシア軍)がウクライナのクリミア半島を突如として占拠してから1年が過ぎた。当時、騒乱が続いていたウクライナの首都キエフでは、2月21日に一度はヤヌコヴィチ政権と反政府勢力との間で大統領選の前倒しなどを中心とする合意が結ばれ、一時は事態が沈静化に向かうとも思われたが、その直後にヤヌコヴィチ大統領が首都キエフから逃亡。これによってキエフには暫定政権が成立した矢先に発生したのがクリミア占拠だった。

 その後、3月にロシアがクリミア半島の「編入」を宣言し、4月半ばにはウクライナ東部のドンバス(ドネツク州とルガンスク州の総称)での内戦状態が始まる。5月末に実施された大統領選により、ポロシェンコ政権が成立すると再び沈静化が期待されたが、結局は戦闘が再開され、7月には298名もの犠牲を出したマレーシア航空機撃墜事件まで発生した。

 その後、一時的に劣勢に陥っていた親露派武装勢力は、ロシアの軍事援助(そこにはロシア軍本隊の直接介入も含むと思われる)を得て勢力を巻き返し、9月にはついに親露派との直接交渉を認めざるを得なくなったポロシェンコ政権との間で停戦合意が成立した。

 だが、その後も戦闘は続き、特に今年1月以降は全面的な戦闘が再開されつつあったが、2月12日の合意によって前述した9月の停戦合意の遵守が再び確認された。一時は要衝デバリツェヴォを巡って2月合意の崩壊も危惧されたが、ウクライナ側が事実上、デバリツェヴォを放棄したことにより、現在はどうにか停戦の実現に希望が見え始めているという状況である。

暴露されたウクライナ分割計画

 こうした中で、2月24日、ロシアの独立系新聞社『スヴァボードナヤ・ガゼータ(自由新聞)』が衝撃的な記事を掲載して話題をよんだ。ウクライナ東部への介入と同国の分割が、ヤヌコヴィチ政権の崩壊前の2月4日から12日の段階で既にロシア政府に提起されていたという内容だ。

 『スヴァボードナヤ・ガゼータ』紙が入手したリーク情報によれば、この計画には、投資会社「マーシャル・キャピタル」などを設立し、後にロシア最大の通信会社「ロステレコム」総裁を務めたこともあるコンスタンチン・マロフェーエフ氏が深く関わっていたという。

 マロフェーエフ氏はビジネスマンとして活躍する傍ら、プーチン政権との関係も深い政商。今回のウクライナ危機では『ウクライナ東部に非合法武装勢力を設立した容疑』でウクライナ内務省から指名手配されている。

 このようにウクライナ情勢と縁浅からぬ人物の提案とは如何なるものだったのか。以下、『スヴァボードナヤ・ガゼータ』に掲載された6項目に渡るウクライナ分割計画の内容を翻訳し、2回に分けてご紹介する。

「ウクライナ東部をロシアに統合するよう提案する」
『スヴァボードナヤ・ガゼータ』2015年2月24日

(前略)
1. ウクライナにおける政治的状況に鑑みるに、我々はまず、ヤヌコヴィチと彼の支配「ファミリー」が政治的に破綻し、政治プロセスに関するコントロールを喪失しつつあることを認識する必要がある。

第2に、中央政府は麻痺しており、ロシア政府が交渉できる政治主体は存在していない。第3に、2014年2月4日にヤヌコヴィチが宣言した前倒しの大統領選及び議会選による合意でこうした主体が出現する可能性はほとんど存在しない。

ロシアにおいては強力な官僚団がオリガルヒ(新興財閥)に拮抗しているのに対し、ウクライナの国家機関はオリガルヒの政治力よりも弱体である。公共政治の分野と同様、彼らはオリガルヒによってコントロールされている。

最高会議及び組織化された反政府勢力を支配しているのはこれらのオリガルヒ(リナト・アフメトフ、ディミトロ・フィルタシュ、イーゴリ・コロモイスキー)である。突発的に発生した反対運動(いわゆる「マイダン」)は組織化された反対運動のコントロール下にない。そのトーンは「野戦指揮官」たち(その多くはサッカー・ファンや犯罪者グループのボスである)によって決定さており、選挙による支持やオリガルヒ・グループの明確なコントロールを受けていない。彼らをコントロールしているのはポーランドや英国の特殊機関である。と同時に、多くのオリガルヒはヘッジを掛けるためにマイダンに資金援助を行ってもいる。

ヤヌコヴィチ大統領はモラルが低く、優柔不断な男である。彼は大統領の座を明け渡すことを恐れており、同時に、治安機関の隊員たちを彼の大統領職を守るための生け贄にするか、大統領の座を去る際の免罪符にするつもりである。ちなみに、キエフでの騒乱を鎮圧するために用いられているベルクート(訳注:ウクライナ内務省の機動隊で、前述の「治安機関の隊員たち」を意味する)は主にクリミアやその他の東部出身者で編成されている。

現地の報告によると、誰がヤヌコヴィチの後釜に座るにせよ、内務省及びSBU(ウクライナ保安局)に対してマイダンの弾圧に対する懲罰として報復を行うつもりであり、これに対して強い反発が起こるであろう。

より苦しい立場にあるのはウクライナ軍である。ウクライナ国防省筋によると、彼らは「基地に閉じこもり、将校達が武器庫を警護している。恐ろしいことだが、これは契約軍人達に武器が渡らないようにするためであり、そうなった場合には互いに銃火を交えることとなろう」という。 前倒しの議会選及び大統領選は、デモとそれの鎮圧という形式の新たな内戦のスパイラルと、東西の選挙結果の分裂を正当化する口実となり、結果的にウクライナの分裂を加速することになろう。

ミュンヘン安全保障サミット(『スヴァボードナヤ・ガゼータ』註:2014年1月31日から2月1日定期会合が開催された)の過程と結論に鑑みれば、EUと米国は同国の分裂を許容し、こうした事態の推移を特別なこととは見なさないであろう。EUによってウクライナが地域ごとに大東欧圏に吸収されるという考えは、何人ものEUの公的発言者が口にしていることであるばかりか、高い地位にあるウクライナのエリートの中にもこれに同調する者がある。ロシアはこの地政学的な陰謀に与するのであろうか?

「欧州側の地政学的陰謀」?

2. ウクライナに対するロシアの政策は、次のようなプラグマティックなものである必要がある。

第1に、ヤヌコヴィチ政権は完全に破綻している。彼に対してロシア連邦が政治的、外交的、経済的、情報上の支援を行うことはもはや何の意味もなさない。

第2に、「マイダン支持者」と呼ばれる都市ゲリラ戦により、同国東部の地域指導者に対する突発的な内戦が起こっている状況下では、ウクライナという国家が地政学的ラインに沿って「西部地域+キエフ」と「東部地域+クリミア」の地域連合に分裂することは確定的となった。このような状況下で、ロシアはいかなる場合でも、キエフ、組織化された反体制派(アルセニー・ヤツェニューク、ヴィタリー・クリュチコ、オレフ・テャヌィボク、ペトロ・ポロシェンコなど)、そして欧州委員会との間の政治的バランスに影響力を及ぼすことだけに政策を限定すべきではない。

第3に、デフォルトの危機が迫り、ナフトガズ社のガス代支払い力が存在していないにもかかわらず、中央政府はほとんど麻痺し、責任能力のある政府を形成することができていない。このような状況下で、ロシアはウクライナの領土的一体性を毀損することを目論む欧州側の地政学的陰謀に断乎として介入せねばならない。

これは何よりも、我が国がエネルギー資源の消費市場を失うリスクに晒されているためではない。より危険なことに、ウクライナにおけるガス輸送ネットワークを間接的にであっても失うことになるためである。これによってガスプロムは中欧及び南欧で脆弱な立場となり、我が国に深刻な経済的ダメージをもたらすこととなろう。

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