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インド向けにUS-2は売れるか?

インドへのUS-2の輸出を巡る読売新聞と朝日新聞の記事を紹介します。
インド国防省は26日、海上自衛隊の救難飛行艇「US2」を日本から購入する方針を固めた。

28日にも防衛調達委員会を開き、正式決定するとみられる。複数の同省高官が明らかにした。

インド、海自の救難飛行艇購入へ…ロシア製退け
2015年02月27日 03時00分 読売新聞 【ニューデリー=石田浩之】

http://www.yomiuri.co.jp/world/20150226-OYT1T50195.html?from=ytop_main1

すぐにでもインドがUS-2を導入するような記事となっています。で、朝日の記事は、以下のように異なった報道をしています。
インド国防省は2月28日、防衛装備品の調達を審査する委員会を開き、日本から新明和工業(本社・兵庫県宝塚市)の救難飛行艇US2を導入する方針を採るかどうか本格的な検討に入った。同日は結論が出なかったが、国防省は前向きな姿勢だ。

パリカル国防相は28日の会合後、朝日新聞などに「US2以上に我々の要求を満たす提案はない」と語る一方、「費用対効果の検討が必要だ」と述べた。次は3月に同委員会を開く。

ただ、日印間の立場の相違も大きいとみられ、インド国防省が導入の意思を固めたとしても、輸出が実現するかどうか、不透明な要素もある。

US2は1機約130億円。日印間で2013年5月に合同作業部会を設置した後も、インド側は価格面でロシア製機などとの比較検討を続けてきたとみられ、価格は課題となる。インドは4年前に導入を決めたフランスの戦闘機「ラファール」でも交渉は難航している。

日本が機体の輸出を目指すのに対し、インド側は、日本政府との水面下のやりとりでは、インド国内での共同生産を求めている。「製造ノウハウの吸収が狙い」(経団連関係者)とみられる。インドがあくまで国内での組み立てや部品製造を求めれば、交渉に入っても難航しそうだ。防衛省の担当者は「まだ価格や生産方法など何も決まっていない」と慎重な見方だ。「インドは簡単な相手ではない。交渉にはハードルが多い」とみている。

インド、日本から飛行艇導入検討 海自も使用のUS2
2015年3月1日09時12分 朝日新聞デジタル 貫洞欣寛=ニューデリー、今野忍
http://digital.asahi.com/articles/ASH2X4J3HH2XUHBI00W.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH2X4J3HH2XUHBI00W

 朝日の記事を読めば、交渉はまだ始まったばかり、導入されるかどうかは分からかないよ、と書いています。

 ぼくはこの件に関しては朝日の記事を信用します。読売の記事は願望に過ぎません、また既に採用を決定したかのような見出しは読者をミスリードします。対して朝日の記事は、導入までに横たわる問題や、フランスのラファール戦闘機の例を出し、インドへの兵器売り込みの難しさを述べています。

 インドへの売り込みは大変です。ぼくも海外の、インドへの売り込みを行ったメーカーの連中と話すと、彼らは一様に辟易したといいます。朝令暮改は当たり前で、決まったことが簡単にひっくり返される。南アのデネル社は6年ほどをかけて自走榴弾砲のコンペを勝ち抜いたのですが、それがあっさりキャンセルになりました。その間多くのトライアルを行い、多額の費用を掛けていました。ですが、インドの市場は大きいから多くのメーカーが参入したがるのです。

 ラファールだって決まってから値段の交渉などで未だに導入が決定されたとは言えません。このまま流れる可能性は小さくありません。

 その辺りの事情を我が国のアレ首相は知っているのか、怪しいと思います。

 読売や産経の「愛国・大本営発表」的記事ばかりを読んでいるなら判断を誤るでしょう。

 実際問題として候補に上がったロシアのベリコフの機体が外されるのは当たり前です。あれはカスピ海とか黒海とか比較的静かな水面での運用を考えており、インド洋やら太平洋やらの外洋での運用には向いていません。特にジェットエンジンですから塩水をかぶりながらの運用で稼働率を維持するのは難しいでしょう。ですから外されて当たり前です。

 さて、一方のUS-2ですが、一機120~130億円という最新の戦闘機並の値段がまず問題です。インドも無限に予算があるわけではありません。

 またオフセットも問題です。インドはオフセット、特に技術移転の直接オフセットを要求します。おそらく整備工場は当たり前で、一定コンポーネント内製化を要求するでしょう。ですが、それをやるとただでさえ二年に一機の「手作り」であるUS-2のコストは更に上がるでしょう。また新明和が持っている職人技的な技術を正確に伝えることはかなり難しい。精々組み立てがいいところです。

 しかもインドの技術レベルは中国と較べてかなり低いので、完成機の能力は怪しくなるでしょう。おそらく日本製と同じ性能は出ない。

 何しろ、戦車にしろ戦闘機にしろ、20年も20年も開発を続けて、まともなものができません。メンツでどうにか採用しても、実用になっているとは言いがたいレベルです。

 更に付け加えればインド軍の整備も杜撰で、インド軍の航空機の稼働率は固定翼機にしても、ヘリにして6割程度に過ぎません。これは官僚主義と現場の整備能力の不足が原因です。 

 また機体の損失も中国軍並に多いという事実があります。

 飛行艇の操縦、運用には極めて高度な技術が要ります。海自ですらUS-1をかなり事故などで失っておりますが、インド軍がUS-2、しかも信頼性の怪しいローカルメイドを使用するならば、事故続出という可能性が極めて高いでしょう。

 そうなると日印間で責任の押し付け合いが始まるでしょう。何しろインド人が自分の間違いや能力の不足を簡単に認めるわけがありません。

 人間生きるに際して、前向きな姿勢や時に果敢に物事にチャレンジする心を持つことは必要ですが、それは現実を無視していいということではありません。
 
 率直に申し上げればUS-2の売り込みは成功しません。仮にインドで採用されても、面倒事に巻き込まれるだけで、利益が全部飛ぶような事態になりかねません。
 
 ぼくはそもそも新明和が飛行艇から手を引き、航空事業をどこかに売却して、本業であるトラックの昇降機などに専念するほうが宜しいのではないかと思います。そうやって日本の航空産業を集約化していかないと国際的なビジネスの市場に参入することは難しいでしょう。

 願望とか、政権に阿ることを優先した新聞記事を無批判に読むと事実が分からなくなります。まあ、産経、読売に書いてあること、政府の発表は全部事実だと思っている人たちには何を言っても無駄だとは承知しておりますが。

アブダビのIDEX 2015に関しては東京防衛航空宇宙時評でレポートしていきます。
http://www.tokyo-dar.com/

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