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幕が上がるレビュー。はじめて幕を上げた少女達と、二度目の幕を上げてしまった人の物語

映画でも音楽でも漫画でも文学でも演劇でも表現の世界は残酷なくせに眩い。一握りの成功者のスポットライトに魅せられて多くの人が努力して、光が当たる人の何十倍、何百倍の屍が築かれる世界。
それでもモノ作りの道を志す人は後を経たない。成功者のスポットライトがそれだけまばゆいからか。それもある。しかし、本当の理由は別にあるかもしれない。それは表現する人だけが味わえる快感。
映画「幕があがる」はその快感を初めて味わう少女たちとその快感を忘れられない人の物語だ。今作はその得体の知れない快感をこのうえなく魅力的に描いてみせた。


「幕が上がる」というタイトルが演劇の快感に気づくことのメタファーだとすると、この作品は初めて幕を上げる女の子たちと、一度は幕を下ろした一人の女性が再び幕を上げる物語だ。弱小演劇部がかつて「学生演劇の女王」だった新人教師・吉岡(を演じるのは学生演劇出身の黒木華)と出会うことから演劇部の女の子達が輝き始める。表の主役はももクロ演じる演劇部の生徒たちだが、影の主役はこの吉岡。作品全体の主題をももクロとともに背負っている。
演劇部の顧問でもない吉岡は「お節介」で彼女たちに助言するうちに、自らの演劇への情熱を再び燃やし始めてしまう。
演劇の世界の現実をまだ知らない女の子たちの無邪気さと対照的に、吉岡はその過酷さを知っている。受験を控える生徒たちに「責任はとれない、けど私は君たちと全国に行きたい」と投げかけてしまう吉岡は、再びたくさんの挫折を味わうだろう道を選択してしまう。彼女は本当に責任を取らなかった。

しかし、作中の台詞「舞台の上でならどこまでも行ける」ことを一度味わった人は、止めたくても止められないものなのだ。そうさせるものはなんなのか。これは言葉では簡単には表現できないモヤモヤとしたものなのだ。実際何で演劇をやりたいのかを聞かれた主人公はスッキリとしたわかりやすい解答を言葉では提示できていない。(代わりにこの作品全体が答えている)

これは演劇の世界に限った話ではない。今作はかつて映画監督になりたくて、映画学校に通い、今は映画館の副支配人である僕にも、ものすごい直撃しているのだから。

現放送中のTVアニメ『SHIROBAKO』も似たようなテーマを扱っている。SHIROBAKOはTVアニメの制作会社が舞台だが、主人公の宮森はなぜアニメの仕事を続けるのかハッキリと答えられない。よく知られたようにアニメの制作現場は大変キツい上に薄給だ。それでも続けるのはなぜか。20話で登場人物たちになぜアニメの仕事を続けるのか聞き続けるシークエンスがあるが、だれもスッキリと納得できる答えをするキャラはいない。しかし、このムサニ(作中の舞台となる制作会社)にも「幕が上がる」の演劇部と同じような、一度人を魅了したらなかなか離してくれなさそうな、得体の知れない「モヤモヤ」が充満している。

(百田夏菜子演じる主人公のさゆりとSHIROBAKOの主人公宮森はよく似ていると思う。2人ともなぜ演劇を(アニメを)やりたいのかわからない、でも止められない。そして周囲の良さをグイグイ引き出すように立ち回れるあたり)


この作品は大きな挫折にぶつかる前の、大きな情熱を描く。そしてそれを導くのが大きな挫折を経験した年長者だ。このアイロニーの酸いも甘いも噛み締めながら、青春の美しさを奇をてらうことなく堂々と描いてみせた。


そう、あんないいものを簡単にやめられるわけないのだ。

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