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「原発の中も外の会社とそれほど変わらない」~漫画「いちえふ」作者・竜田一人氏インタビュー~

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2012年6月から半年間にわたって、福島第一原子力発電所で作業員として働いた自身の体験を描いた漫画作品『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』。この作品は、報道では過酷さだけが強調されがちな原発労働者のリアルな日常を描き、第1巻が10万部を超える大ヒットとなっている。先日第2巻が発売されたばかりの本作の作者・竜田一人氏と担当編集者・篠原健一郎氏に話を聞いた。(取材・文:永田 正行【BLOGOS編集部】)

「今、福島第一原発で働いてて、そこで漫画を描いたんですけど」

―福島第一原子力発電所で働こうと考えたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

竜田一人氏(以下、竜田):東日本大震災のような大災害を前にして自分に出来ることはないか、と考えた時に被災地で働いてみるのがいいかなと思ったんです。本当に偶然なのですが、その時働いている会社を辞めて他の仕事しようと考えていたので、「被災地で働ける仕事」ということで、探し始めたのがきっかけです。

当時、「危険なところに行く」という認識は、それほどありませんでした。震災以降の報道を見て、「本当にそうなの?」と感じた部分を自分で調べ、福島第一原発自体も世間で騒がれているほど危険ではないのではないかという判断をしたので、被災地で働くにあたって、福島第一原発という場所を候補からはずさなかっただけなんです。まったく危険ではないとも思っていなかったので、多少の警戒はありましたが、健康面などに関しては、それほど心配していませんでした。

東京から行くわけですから、泊るところ、住むところがないと働けません。宮城や岩手の場合、宿舎がない仕事が多かったのですが、福島第一原発での仕事は「宿舎あり」だったんです。宿舎と言っても作品の中で描いた通り、ひどいところなのですが、そういう自分の条件にあうところを探しているうちに福島第一原発になってしまったというわけです。

福島第一原発は、被災地の中でも一番興味深いところではあるので、結果的にそこで働くことが出来てよかったとは思います。

―それまでも漫画家として活動していたのですか?

竜田:細々とですが、していました。一応漫画家の端くれですから、めったに見られないもの見てきたので、描ける奴が漫画で残すのも面白いんじゃないかと考えたわけです。

漫画家以外にも、様々な仕事をしてきましたが、福島第一原発での仕事も今までいろんなことをやってきた職業遍歴のうちの一つだと思っています。

―モーニングに掲載されるまでの経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

竜田:ほかの編集プロダクションで進んでいた企画がダメになってしまったので、「じゃあ、持ちこもう」と思ったのですが、最初に持ち込んだ編集部で断られてしまったんです。悔しいから、「このままもう1件行ってやろう」と思って電話をして、モーニングに来ました。

篠原健一郎氏(以下、篠原):僕は普段、持ち込みの作品を見る機会はほとんどないんです。それこそ1年ぶりぐらいに見ることになったので「楽しみだな」と思っていたら、急に「今、福島第一原発で働いてて、そこで漫画を描いたんですけど」と言われました。

「今、福島から来ていて」と言われたときは、棒人間みたいな適当な絵の遊びみたいな作品だろうと思いましたよ。それこそ僕も当時の作業員の方のイメージというのは、体育館で雑魚寝しているみたいな感じでしたらから、「そんな環境で描けるわけがないだろ」と。

かなり胡散臭いなとも思ったのですが、福島第一原発の作業員をしている人の話なんて、聞こうと思ってもなかなか聞けません。取材先として見つけるのも非常に大変だと聞いていたので、面白そうだし、なにかのネタになるだろうと思って会ってみたら、出てきたのが「いちえふ」でした。

それまでも原発事故に興味を持っていろいろと調べていたつもりだったのですが、この作品を読んで、自分が何一つ具体的にイメージできていなかったんだと痛感しました。作業員の人が普通に通勤していることに驚いて、「え、普段は街にいるんですか」と聞いたぐらいです。それまでは、 匿名の“作業員”という人がいるんだなという感じで、実際に働いている人の顔が全然見えてなかったのですが、「いちえふ」を読むと「こういう人が働いているんだ」とリアルに伝わってきたんです。

そんな原稿を見れば「これはプロだろうと」一目瞭然なのに、竜田さんは自分のこと「素人だ」って言い張ったので、「嘘ばっかりいうな、この人」と思いましたよ。

竜田:「同人誌ぐらいしか書いたことないんで」とか言ってましたね(笑)。

篠原: その後も紆余曲折があって、実際に2013年10月にモーニング44号に掲載されたのですが、すごい反響でした。Twitter上では、もう見たことないような反応でしたし、掲載当日に共同通信から取材の申し込みがあって、海外からも電話かかってきて、雑誌から数えきれないぐらい取材のオファーがきてと、もうメチャクチャでした。モーニング本誌の実売も増えましたし、アンケートハガキも大量に来るなど、大変な反響でしたね。

―これだけ話題になった作品でも、最初は持ち込みからだったんですね。

竜田:漫画家が世に出る方法は持ち込むか、新人賞に応募するかの二つに一つしかありませんから。

篠原:それはその通りなのですが、持ち込みなのに、これだけの原稿を描いていたというのは本当にすごいことだと思います。本人は、それほど強く言いませんが、お金のあてもないのにこれだけの原稿を描くというのは情熱がないとできません。本当に、すごい原稿だと思いましたから。

―ここまで反響があると予想していましたか?

竜田:もちろん発表されれば、それなりに話題にはなるだろうと思っていましたが、これほどとは予想しなかったですね。これだけの注目を浴びたということは、それまで報道されていたものとは異なる実態があったということであり、それを知りたい人が大勢いたということだと思います。

福島第一原発で働いてみたら「全然普通じゃん」と思った

2013 Kazuto Tatsuta / Kodansha Ltd. All rights reserved.
―作品の中で描かれている事故処理の現場は、マスコミ報道と非常にギャップがあるように感じました。作業はもちろん過酷な部分もありますが、淡々としているというか、日常の延長として描かれています。実際に原発の中で働いていると報道とのギャップを感じますか?

竜田:それは感じますね。一番感じたのは、初めて現場に入った時だったと思います。2011~ 12年ごろまでは、あることないこと言われて、本当にひどかったですから。

現在では報道も比較的落ち着いてきて、「すぐ死んでしまう」みたいな雰囲気でもなくなってきましたが、2012年ぐらいでも、やっぱり「福島第一原発に行くのは相当危険なことだ」という雰囲気はありました。

自分では現場で見たことを普通に描いているつもりでも、読者から「ギャップがある」と言われることが多いのですが、今までどれだけひどいものだと思われていたんだ、と驚きます。逆に過剰に英雄視されて、「日本のためにありがとう」みたいなことを言われたりもしますが、「別にそんなもんじゃねぇっすから」と思います(笑)。

もちろん事故の直後に福島第一原発で働いてた人たちは、まだ何もわからない状況で、それこそ死を覚悟して働いた英雄だと思いますが、今働いている我々はただの普通のおっさんです。

身近な人にも原発で働くとまでは言わなかったのですが、「福島に行く」というだけでもかなり心配されました。私が働き始めた2012年頃は、そういう空気がまだあったのですが、実際に行ってみたら、「全然普通じゃん」と思いましたね。何度も着替えたりする必要があるので、とにかく面倒だというのはありますが、それ以外は普通です。

―では、メディアの報道はかなり冷めた目線で見ているんですね。

竜田:メディアは、何らかの事故が起きたときだけ報じるので、「こういう風に作業が進んだ」「この作業はうまくいった」みたいなことは報じられません。そこはやはりもどかしいですよね。

2013 Kazuto Tatsuta / Kodansha Ltd. All rights reserved.
―実際に働いている人たちは比較的落ち着いているというか、必要以上に気にせず作業をされていると。

竜田:原発で働いている人は、単にそこに仕事があるから来ているわけです。装備や安全への配慮に特殊な部分もありますが、やっていることは普通の工事現場とそれほど変わりません。

働いている人は、基本的には地元の人が多いです。ほとんど地元在住の、地元で生まれ育った人です。メディアなどでは、「全国から労働者を集めて…」みたいなことも言われますが、主力になっているのは地元の人で、元々は原発で働いていた人も多いです。また、避難区域になってしまった場所に職場があり、そこでの仕事がなくなったから、原発の仕事をしているみたいな人もいますね。

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