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コケにされた恨み? - 楢原多計志

 「傲慢」に「卑屈」が加わった―。

 最近の厚生官僚に対する印象だ。公共サービス業だからに常に「謙虚」かつ「従順」であれ―と言うつもりは毛頭ない。政権がいくら駄目でも、「国民目線で国民にサービス提供したい」という初志を失った官僚は存在そのものか無駄になる。

 10月17日の社会保障審議会介護給付費分科会。主要議題は「平成24年度介護報酬改定について」。診療報酬との同時改定を控え、いよいよ介護報酬の在り方について積極的な論議が展開される―との期待は裏切られた。厚生労働省の提出した資料が酷すぎた。以下は厚生労働省が提出した資料の一部。

 論点1 生活援助の時間区分の見直し案。『現行の「30分以上60分未満、60分以上」を「45分以上、45分未満」に見直したらどうか。(理由は)生活援助については複数の行為(掃除、調理、洗濯など)を組み合わせて行われることが多いが、1つの行為は15分未満ですむ場合もあり…』。

 つまり実態に即して見直す必要があるというのだ。

 根拠として示したデータには、「洗濯」の98.1%が45分未満で、特に46.5%が「1〜14分」(15分未満)とある。ん?これが実態か?

 仮に、全自動洗濯機を使ったとしても、準備・洗濯・乾燥、これに天日干し、取り込み、折りたたみが加わるのが普通だろう。これを15分で全部やり切れるヘルパーや介護福祉士がそんなにいるのか。確かなデータなのか?

 そもそも60分の区分を45分に短縮する理由として挙げた「実態に即して」に無理があるように思う。「生活援助費を削り、他のサービスに使いたい」という本音が見え見え。事情通や業界代表の集まりである審議会で了承されたとしても、1時間単位でサービスを利用している要介護者や家族に理解されるとはとても思えない。利用者目線ではなく、財務省目線じゃないか?

 このデータ、委託(丸投げ)された民間調査会社が調べてまとめたもの。厚生官僚が介護現場の実態を知らないことは昔も今も同じだが、数字だけは強いはず。調査結果に何の疑問を持たず、裏付けのデータとして審議の場に持ち込んだとすれば、委員や国民をナメきっている。

 最悪なのは、前回10月7日の審議会に提出された「介護事業経営実態調査」だ。サービス別の収支率を調べ、個々の報酬に反映させようというのだが、調査がずさんな上、有効回答率が低すぎて、経営実態とはほど遠い。

 例えば、法人税や固定資産税など税金の扱いがバラバラ。委員からの指摘で一部修正されたたものの、会計学的には信頼度が極めて低い。「ちょっと改善された」と厚労省がわざわざ補足説明した有効回答率は36.1%。これでも老健局長は「経営実態を知る上で一定の評価はいただけると思う」。マジかよ!

 官僚については、役にも立たないエリート意識は「傲慢」の一言で片付けるとしても、問題は、野田政権になるまで民主党政権から重用されなかったことへの恨みなのかどうか、どこか投げやりで「何でもあり」の卑屈とも思える提案が多すぎることだ。

 年金部会では、自公政権の「百年安心年金」を反故にし、この場に及んで、厚生年金の受給開始年齢を68歳に先延ばしする案を持ち出した。結果的に国民の年金不安をあおるだけで法制化される見通しはほとんどないという。

 当事者の厚生官僚は「すべて政府、与党の一体改革の工程表に沿った提案であり、オリジナルな提案ではない」と説明するが、課長補佐時代に見せた意気込みや笑みがまったく見られない。

 「成立する見通しはなく、工程表に従って審議会で説明しただけのこと。あとは野田政権がどう責任とるかだ」とでも言いたげ。コケにされた恨みを政権与党ではなく、結果的な国民に向けるようでは、厚生官僚も地に落ちた。

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