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「コンパクトシティ」議論のボタンのかけ違い――「コンパクトシティ」は都市問題ではなく農業問題である

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前回の「高齢者を東京から地方へ追い出す!?」の記事の冒頭で、国土交通省が熱を上げて推進している「コンパクトシティ」に対する僕の姿勢(僕はこの政策をいつも批判している)を少しまとめて書いたのだが、現状をみると、「コンパクトシティ」の是非に関する議論は、かなり混乱しているのではないかと思える。そもそも「コンパクトシティ」の定義がはっきりしない、この言葉は使う人によって指している事柄が異なる、または「コンパクトシティ」はアレもコレも含めた包括的なパッケージになっていて、それゆえにその箱の中の政策の一つ一つを取り出して議論することがかえって困難になっているのではないかと思われる。

それにも関らず、最近は荻上チキ氏、津田大介氏、山本一郎氏といった方々も、国土交通省のこの政策をヨイショするようになってきたのではないかと思われる発言をされるようになってきたので、ちょっと待って、と僕は言いたい。(ちなみに、荻上チキ氏は過去に『ダメ情報の見分けかた』という本を出版されているらしいのだけど、「ダメ情報」を見分けられないのはどこの誰なのかと。)

また、僕はTwitterで「コンパクトシティ」と入力して検索することを日々やっているのだが、最もひどいのは政治家である(政党は特に関係ない)。政治家らは国費を使って富山市へ行き、富山市が用意した「コンパクトシティ見学コース」をぐるりと周って、そしていつもきれいに“洗脳”されて帰ってくるのである。それではただの回転寿司だ。批判的思考(クリティカル・シンキング)がまるで出来ないのだ。*1

いずれにせよ、そうやって皆が何となく「コンパクトシティ」について「分かった気になっている」のが現状で、でも、それは「分かった気になっている」だけだから、いざ言葉を使って話し合おうとすると途端に大混乱に陥ってしまうのだろう。だが、その責任が一部の文化人や政治家やTwitter民にあるという訳では決してない。混乱を引き起こしている原因は、国土交通省と都市計画の学者(大学教授)である。

「コンパクトシティ」とは何か説明しよう。

コンパクトシティ - Wikipedia
コンパクトシティ(英: Compact City)とは、都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に中心市街地の活性化が図られた、生活に必要な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市、もしくはそれを目指した都市政策のことである。

とりあえず、ここでWikipediaかよ(ぷっ)とか笑う暇があったら上記の一文を覚えよう。これが一般的な定義である。ポイントは「郊外への拡大を抑制する」の所である。そして、もう一つのポイントは「コンパクトシティ」は舶来の都市政策であるということ。「コンパクトシティ」は1970年代以降に「郊外への拡大」が問題視されたヨーロッパやアメリカで普及した都市政策である。やがて、それが日本に伝来したのだ。

だが、言うまでもないが、日本は欧米とは歴史が全く違う。顕著な違いは、欧米では都市化と農業経営の大規模化がほぼ同時に起きたのに対して、日本では明治維新以降、急激な都市化が起きたために農業経営は小規模のままにとどまったということと、戦後のGHQによる農地改革で農地が更に細分化されたということである。(ちなみに、日本の農家一戸当たりの平均耕地面積はヨーロッパの50分の1、アメリカの100分の1と言われている。)*2

よって、だから21世紀の現代でも、日本の国土には江戸時代からそこにあったような集落(主に農業を営む)があちこちに点在しているのである。それが日本の都市(特に地方都市)の一般的な都市形態なのである。お分かり頂けただろうか。先ほど僕は「コンパクトシティ」のポイントは「郊外への拡大を抑制する」ことだと書いたが、日本の場合はその郊外の外側には今でも集落があちこちに点在しているのである。繰り返すが、日本は欧米とは歴史が全く違う。そこに欧米発の都市政策をそのまま持ってきてもダメに決まっている。

日本の都市計画の教科書には都市的土地利用の郊外化(スプロール化とも言う)によって道路・水道などのインフラの維持管理費が増えたと書かれているが、これは正しくない。日本でインフラの維持管理費が増えたのは、戦後、あちこちに点在している集落を近代化したためである。即ち、あちこちに点在している集落の一つ一つに道路・水道などをクモの巣のように繋いだからである。実際、人口一人当たりのインフラの維持管理費が高いのはこのような場所である。無秩序に拡大したといつも槍玉に挙げられている郊外では決してない。ところが、偉い人にはそれが分からんのです。(日本の場合、郊外の人口密度は高い。)*3

どういうことだろうか。では、「百聞は一見にしかず」なので、国土交通省の「国土交通白書」(2014年)を見てみよう。

下図はその第1部「これからの社会インフラの維持管理・更新に向けて」の第2章の第1節の3の「集積による効率化」にある栃木県宇都宮市(人口は約50万人)に関するグラフである。宇都宮市は「ネットワーク型」のコンパクトシティを目指している。このグラフの「趨勢型」は現在の都市形態を2035年まで維持した場合、「都心居住型」は宇都宮市の市街化調整区域の人口を全て市街化区域へ集約させた場合、「ネットワーク型」は中心市街地を核としつつ、各地域のそれぞれに拠点を設けた場合である。

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左図の「市税の推計」をみると、「趨勢型」の何もしなかった場合に比べて、「都心居住型」にせよ「ネットワーク型」にせよ、コンパクトシティをやったほうが税収の減少幅が小さくなることが分かる。理由は固定資産税(土地)の税収が増えるからである。しかし、市民の側から見れば、コンパクトシティのせいで増税になるということである。

右図の「都市施設維持管理費の推計」をみると、同様に「趨勢型」の何もしなかった場合に比べて、「都心居住型」にせよ「ネットワーク型」にせよ、コンパクトシティをやったほうが都市施設の維持管理費が削減できることが分かる。「趨勢型」と「ネットワーク型」の差は年間約12億円。市民一人当たりで換算すると年間約2500円。でも、先ほどの増税分(年間約6億円)があるのでそれを含めると、「ネットワーク型」のコンパクトシティが完成すると、市民一人当たりで年間約1250円得をするという程度の話である。ちなみに、現在の市民一人当たりの市税の納付額は年間約17万円である。「大山鳴動して鼠一匹」とはこのことではないだろうか。

では、上記の推計は具体的にどのような都市形状を想定して行われたのだろうか。これは「国土交通白書」(2014年)には載っていなかったのだが、上図に書かれている宇都宮大学(現在は早稲田大学)の森本章倫教授の「都市のコンパクト化が財政及び環境に与える影響に関する研究」『都市計画論文集』第46巻(2011年)(PDF)にあった。下図がそれである。「都心居住型」にせよ「ネットワーク型」にせよ、このようにピンク~赤色がついているところに人口を集約させるというコンパクトシティなのである。

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驚くのはここから。僕は上図をGoogleマップの航空写真とかなり念入りに見比べてみた。すると、左図の「都心居住型」のコンパクトシティではピンク~赤色のついているところはじつはほとんどが都心と郊外なのである。そして、この記事の前半で書いた「集落(主に農業を営む)があちこちに点在している場所」のほとんどには色がついていない。つまり、そこがコンパクトシティによって居住不可にされているのだ。右図の「ネットワーク型」のコンパクトシティではやや範囲が拡大されているものの、それでもほとんどの「集落があちこちに点在している場所」には色がついていない。居住不可にされているのだ。

更に、その森本教授はこの論文の冒頭に「(前略)しかし、現実の都市に着目すると、コンパクト化政策を掲げながら、遅々としてその効果が見えてこない。コンパクト化の必要性を認識しながら、郊外立地の傾向に歯止めがかからず、農地がショッピングセンターに転用されるなどのケースは後を絶たない。(中略)コンパクト化の利点が正しく判断されていない」と書かれているのである。いや、そうじゃない。集落があちこちに点在しているような場所(農地)をことごとく居住不可にしておきながらさすがにそれはないでしょう。言っていることとやっていることが完全にズレている。僕がこの記事の前半で「偉い人にはそれが分からんのです」と書いたのはじつはこのことだ。

森本教授は「郊外への拡大を抑制する」ためにコンパクトシティは必要だと主張されているが、それは欧米の話であって日本には全く当てはまらない。繰り返すが、日本は欧米とは歴史が全く違う(三度目)。欧米では無秩序に拡大した郊外が問題視されてコンパクトシティが始まったが、日本での問題は郊外の外側には江戸時代からそこにあったような集落(主に農業を営む)が21世紀の現代でもまだあちこちに点在しているということなのである。人口一人当たりのインフラ維持管理費が高いのもここだ。というか、だからこそ森本教授はこの場所をごっそり居住不可にしてしまっているのである。森本教授は農地がショッピングセンターに転用されるなどの無秩序に拡大した郊外ではなくて、郊外化の波に襲われなかった昔ながらの景色が残る場所を居住不可にしているのである。ボタンのかけ違いである。コンパクトシティは日本では都市問題ではなく農業問題なのである。コンパクトシティに関する議論がいつも混乱する原因もこれである。

そして、その結果が「大山鳴動して鼠一匹」で年間約6億円(市民一人当たりで年間約1250円)得をするという程度の話である。単純に比較はできないが、宇都宮市の農業(農林水産業)の2011年の市内総生産額は約117億円である*4。コンパクトシティによってこの産業をぶち壊す必然性が本当にあるのだろうか。学者がマッド・サイエンティストと揶揄されることはあるが、森本教授は常軌を逸しているように見える。更に、そのような資料を“見本例”として白書に載せる国土交通省の官僚らも同じである。これは官僚と学者による国土の文化破壊運動(ヴァンダリズム)である。少なくとも僕にはそう見える。

では、具体的にコンパクトシティによって居住不可にされる場所をGoogleマップの航空写真で見てみよう。

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