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米国債格付け引き下げの背景 - 長谷川公敏

 4月18日、格付け会社のS&Pが米国債の格付けを変更した。ただ、米国債につけられている「AAA(トリプルA)」という格付けそのものではなく、投資家への注意喚起のための、今後の方向を示す「格付け見通し」の変更で、S&Pは米国債の見通しを「安定的」から「弱含み」に引き下げた。従来の動きを参考にすると、「格付け見通し」が変更されると、一般的には2年以内に3分の1程度の確率で格付けが変更されることになる。

格下げを受けた市場の動き



 「格付け見通し」の引き下げを受けて、米国債の価格は一時下落(=債券利回りは上昇)したが、その後落ち着きを取り戻し、更に米国株価が下落したため、リスク回避の動きから米国債が買われ、最終的には価格が上昇して引けた。

 また当日の為替の動きは、南欧の財政問題からユーロが売られたため、ドルは対ユーロでは上昇し、逆に対円では米国債格下げの影響から下落した。

格付け会社の言い分



 S&Pが米国債の「格付け見通し」を引き下げたのは、米国の財政赤字削減問題で、民主党と共和党の協議が難航しており、合意できない可能性があるためだとしている。予算を遂行するための「債務上限引き上げ案(現状は、14.3兆ドル)」可決の期日は5月16日に迫っており、仮に与野党で合意できなければ政府の様々な行政機関が停止する可能性もある。(ただし、実際は、期日から8週間の猶予がある)

 更に、今後の政府債務削減策についても、オバマ民主党は今後12年間で4兆ドルの財政赤字削減を、野党共和党は今後10年間で5.8兆ドルの歳出削減を主張しており、歩み寄りが見られない。
 S&Pは、こうした政治情勢を見て、米国債の「格付け見通し」を引き下げたのである。

米政府の反応



 格下げに対し、米国政府は「与野党で、財政赤字削減案は合意できる(ミラー米財務次官補)」、「長期的な債務削減策の合意に向けた政治的な見通しは改善している(ガイトナー米財務長官)」と直ちに反論しており、「米国債の利回りに、それが表れている(米財務長官)」としている。

格下げへの疑問



 今回の出来事で疑問なのは、「なぜこのタイミングで」、「格付けは政治日程を考慮するのか」ということである。振り返ると、1月27日にS&Pは日本国債の格付けを「政治日程を考慮して」引き下げた。当時、多くの市場関係者は今回の米国債の格付け引き下げと同様に、「なぜこのタイミングで」と訝っていた。そして今回と同様に格付け引き下げは、日本国債の価格にはほとんど影響を与えなかった。

格下げの効用



 米政府は、格付け引き下げを追い風にして、行き詰っている「債務上限引き上げ案」を通そうとしたのではないか。米格付け会社は、リーマン・ショックの基になったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の格付け問題で責任を問われたが、結局「一民間企業の意見に過ぎない」との米政府の見解で、責任を免れた経緯がある。格付け会社は、米政府に大変な恩義があるはずだ。


---長谷川公敏((株)第一生命経済研究所 代表取締役社長)

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