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性的マイノリティの老後――暮らし、老い、死ぬ、生活者の視点で語りたい - 永易至文 / 特定非営利活動法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士

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(はじめに)下記拙稿では多くの場面で「ゲイ」を「性的マイノリティ」全体の意味で用いています。このことが性的マイノリティ内部の差異を無化しているとのご批判は甘受しますが、適宜、ご自身の情況に合わせて読み替えていただければ幸いです。また、私たちは性的存在であることやマジョリティ/マイノリティの関係性(権力性?)に意識的でありたいとの点から、LGBTではなく「性的マイノリティ」の語を使用しています。

「ゲイとしての老後」のロールモデルが見当たらない

編集部からの依頼で、「性的マイノリティと老後」というテーマで寄稿することになったが、このテーマに読者はなにをイメージされるだろうか。

このシノドスでも性的マイノリティにかんして、性や人権の教育、いじめ問題、生きづらさ問題、あるいは同性婚……といったテーマはよく紹介される。だが、「性的マイノリティと老後」には、どんなイメージが浮かぶだろうか。そもそも性的マイノリティのなかには若者だけでなく、中年もいれば高齢者もいることは、読者に認識されているだろうか(当たり前の話だが)。

私は1966年生まれ、今夏で49歳を迎えるゲイだ。80年代中期に上京、はじめて買ったゲイ雑誌の情報をもとにゲイサークルなどのコミュニティ活動に参加した。折から90年代の「ゲイブーム」。一般メディアに突然ゲイ情報があふれ、そのあおりを受けてゲイ当事者の活動が活気づいた。サークルで、バーで、クラブで、「こんなに仲間がいる」「いまのままの自分でいいんだ」「一生をゲイとして生きていきたい」と自分を受け入れた、私もそんなゲイの一人だ。

それから25年がたった。当時の若者も25歳、年をとって、いまやリッパな中年だ。若いときは「いまのままの自分でいい」だったが、40歳も超えると「いまのままの自分じゃダメ」とばかりに、加齢の現実は否応なく身に迫る。仕事はますます忙しい。保険や不動産、貯蓄など財産的なことも考えなければならない。身体的・メンタル的な発病、はては早逝することもある。親の介護もあったりする。「ゲイとしての一生、老後」とは言ったものの、それらを一人で、あるいは法律的には認められていない同性のパートナーと、どう超えていけばいいのか……。50歳か60歳ぐらいから先の人生が、見えないのである。

そこで上の世代はどうしたのだろうかと目を転じると、上世代はまだ社会の差別意識が根強く、異性と結婚するのがあたりまえだった。彼らは家庭をもって異性愛者のライフスタイルを送っており、「ゲイとしての老後」のロールモデルとはなりにくいのだ。

生きる意味の欠落と「ゲイの病い」

ロールモデルの不在は、たんに老後不安を招来するだけではない。同世代の異性愛者に目を転じれば、彼らの多くが結婚・出産・子育てのなかで社会の再生産に寄与し、いわば「人生の春夏秋冬」を感じ、自分なりの「生きる意味」を噛み締めている。その一方で、ゲイは「自分は人生をなにで埋めるのか?」「自分にとっての春夏秋冬は?」という、実存的ともいえる問いを抱くこともある。

いま、試みにツイッターなどで「ゲイ 老後」で検索してみれば、つぎのような類いのコトバが拾えるだろう。

「自分の50代の姿が想像つかない」「きれいなうちに死んでしまいたい」

「ゲイが刹那的な快楽を求めてしまうのは、将来に希望をもてないからだと思う」

「ゲイであることは変えられないし男が好きだけど、結婚したいし子どももほしい。社会的体裁も老後の不安もある。家族もいなくて、一人で、誰が面倒みてくれる? 考え出したら止まらない。本当に自分の人生はこれでよかったのか」……

これらはみな、20代の若いゲイたちの言葉だ。ロールモデルの不在は若い世代の生きる気力をも殺いでいるのだ。

ゲイコミュニティの一部には、こうした不安に堪えきれず、性急に人生を埋める答えを探すかのように、薬物、飲酒、恋愛、セックス、仕事などへ過剰に耽溺する仲間もある。「Sex and the City」まがいの一見、華やかなゲイの姿は、ジェットコースターのように上下しながら生き急ぐ、もう一人の私の姿に思われる。そしてそれは、うつ、HIV、自死など「ゲイの病い」の現実にもつながっているのだ。

「何のために生きているのか」に答えうる生身で等身大の人生(老後)イメージの欠落と、そこから来る存在不安。これがゲイの老後問題の本質ではないかと私は考えている。

ゲイにもライフプランニングがあった!

こうした現実にどう立ち向かうのか?

ゲイコミュニティで「老後」が話題になりはじめたのは、90年代の若者の先端部分が40代に差しかかり始めた2000年ごろからだった。その当時も、パレード、欧米のニュースや同性婚、オープンリー政治家、ウン兆円のLGBT市場、企業が協賛……などのキラキラした話題がゲイメディアにあがり、それが私たちの老後の不安を払拭し、希望を託するものとして耳目を集めることもあった。

だが、これは私個人の感想だが、1日の祝祭はそのあとの364日を支えられるのか。生を終えるまでの10年、20年、それ以上のスパンを支えられるのか。企業頼み・市場優先には新自由主義の現実もあるのではないか。「進んだ」海外ではなく、日本で生きる日常の視点を欠いた話題は虚しく聞こえたし、すでに中年にさしかかろうとしていた私には、キラキラし続けるには実際、体力を欠いていた。

コミュニティには社会の異性愛中心主義を手厳しく批判する論客もいたが、舌鋒鋭い批判がかならずしも社会の変化に繋がっていかないことも、中年になるまでに少なからず見てきていた。

フェミニズムとは自分の半径10mを機嫌良く暮らせるようにすること――上野千鶴子さんの著作で読んだ気もするが(定かではない)、ゲイの活動もまったく同じだろう。私は、同性婚はおろか人権擁護法制さえないこの国の現実で生きのびるため、暮らしやお金、老後などにかんして具体的な生活の場面を一つひとつ洗い出し、自分はそのときどうなるのか、回避できる方策やよりよくやる方法はあるのかを考えてみることにした。〈ゼニ・カネ・老後〉の現実のまえには、メディアに美化された「ゲイライフ」も、嫌でもリアルで等身大の姿をさらさざるを得なかった。

社会へ出たあと編集者やライターとして仕事をしていた私は、いつしか「ゲイの老後」を自身のテーマとしていた。小さな季刊誌の発行(2002〜04)やゲイ雑誌・一般誌紙への寄稿、そして現状の制度のなかで法に規定のない同性カップルがどこまで、なにができるかを調べあげた『同性パートナー生活読本――同居・税金・保険から介護・死別・相続まで』(2009、緑風出版)を上梓した。

その後、あらためてフィナンシャルプランニング技能士(FP)の勉強をし、お金や保険、不動産、社会制度に関する知識を体系的に学んでみると、私たちの暮らしや老後にとって「世の中はそうなっていたのか!」「これは使える!」と思える知識がいろいろあった。同時に、「テキストは「標準家族」を例にしているが、これがシングルや、法律に規定のない同性パートナーとの暮らしだったらどうなる?」「ゲイに多いHIVやうつの人はどうすればいい?」「マイノリティに対して職場の理解がともなわず、離職が多く非正規や低所得の人は?」という疑問もつぎつぎ沸いた。

それで、2010年からは執筆ではなく、「同性愛者のためライフプランニング研究会(LP研)」を立ち上げ、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで語ってみることにした。同性愛者にもライフプランニング(人生設計)がある――これは一つの発見だった。

リンク先を見る

ライターとして、自分なりのライフプランニング研究を、著作や記事のかたちで発信してきた。無料で読める「LGBTのためのポータルサイト〈2CHOPO〉」での連載「老後の新聞」http://www.2chopo.com/writer/detail?id=36もぜひご覧ください。

老後とか暮らしとか、いずれも地味なテーマだ。テーブルを囲んで5、6人の車座勉強会を想定して当日の蓋を開けたら、第1回は押すな押すなで50人ほどが詰めかけた。「同性愛者のライフプラン」「老後情報」へのニーズがこれほどまでにあったのだ。その後もテーマによりけりだが、月例会には30人から40人前後の参加があった。親の介護や生命保険、不動産はとくに参加者が多かったテーマだった。LP研の内容は、『にじ色ライフプランニング入門――ゲイのFPが語る〈暮らし・お金・老後〉』(2012、太郎次郎社エディタス)にまとめた。【次ページにつづく】

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