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- 2011年01月11日 00:00
医療クラウド
1/21.医療クラウド構想
ソフトバンクの孫正義社長が「医療クラウド」の導入を提唱している。
孫氏がネット上で掲載しているレジュメによると、日本は高齢化、労働人口の低下、医療費の増大、国際的競争力の低下などのために危機的状況にあるが、それを打開するのが情報革命であり、その一事例が「医療クラウド」である、とのことである。
医療クラウドの具体的な中身としては、各病院が異なる仕様で運用している電子カルテを一元化し、すべての医療従事者に電子カルテ端末を無償配布することで、病院間の情報連携をはかり、他の病院での過去の検査履歴の閲覧、地域医療や在宅医療の高度化、効率的診療による医療従事者の負担軽減、製薬企業などでの医療情報の活用を図るとしている。
2.クラウドとは?
ここで、そもそもクラウドとは何かを整理しておきたい。クラウドとは、読んで字のごとく「雲」のことである。ネットの先にあるなんだかよく分からないコンピュータ上のデータとプログラムのことを、モヤモヤしている感じを表すためにクラウド(雲)と呼ぶようになったようである。
1980年代までは、コンピュータで処理されるデータやプログラム自体は、手元の端末には格納されていないのが通常であった。昔はいわゆる端末から情報処理センターにあるコンピュータとそのデータにアクセスして、コンピュータを利用していたのである。しかし、コンピュータの処理能力の向上に伴い、安価にコンピュータを購入できるようになったことから、コンピュータをネットワーク経由で使うのではなく、オフィスや家庭内にパソコンやワークステーションを置いて、そこにデータやプログラムも格納して処理をする時代が来た。
更に時代が進んで、ネットワークの速度と容量が飛躍的に向上したことから、再びネットワークの先にあるセンターにデータとプログラムを置いて処理を行い、結果のみをネットワークを経由して受け取っても、手元でそれらを行うのと何ら遜色ない結果を得ることができる時代がやってきた。そこで、提唱されるようになったのが「クラウド」である。
結局、クラウドと言っても、最も概括的な定義で言えば、オフィスや家庭内にあるコンピュータ以外のコンピュータで情報の格納や処理を行う、というだけに過ぎない。
3.クラウドの負の側面
クラウドは、情報を集中管理できるので、情報を積極的に流通させ、利用したい時には、極めてシンプルで有用な方法である。情報をバラバラに管理することによるコストの増大や不効率を避けることができる。人々は一元的にデータを見ることができ、必要な情報を必要なときに参照し、利用することができるようになる。Amazonや楽天で買い物をする便利さ、学術情報をCiNiiであっという間に検索できる便利さを想起していただければ、情報が一元管理されていることの有用性を理解していただけると思う。
しかし、クラウドには負の側面もある。情報が一元管理されているということは、そこにすべての情報があるということである。悪意ある人間や組織が、その弱点を突いたら、一元管理された情報がすべて悪用されることになる。
この負の側面は、医療情報のようなプライバシー情報では特に顕著である。AmazonやCiNiiで扱われている物の価格や性状、又は学術情報とは性質が異なる。本来的に、個々の人間に関わる情報であり、個々の人間が自分の意思で情報の流通範囲を定めたいと考える情報である。病院に行く時、患者は、その病院内で自分の医療情報が流通することまでは覚悟するが、病院を越えて医療情報が流通することまでは覚悟していないと考えるのが通常である。
4.セキュリティ対策
孫氏からは「十分なセキュリティ対策を施すから心配には及ばない」という反論が為されることが予想される。しかし、少なくとも完全なセキュリティ対策はありえない。人間が作ったものである以上、どこかミスが混在している。一穴でも隙があれば、情報システムの性質上、そこからすべての情報を引き出すことが可能になる。また、いくら情報システムのセキュリティ対策を万全にしても、悪意又は過失ある人間が介在する以上、人為的なリスクをゼロにすることはできない。



