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CT検査でがんになる?

 2010年11月号の『文芸春秋』 に、 近藤誠氏(慶応大学放射線科医)が「CT検査でがんになる」という文章を寄稿されている。事実に基づいていない不正確な文章で、医療に明るくない人を混乱させうるので、ここに反論を寄稿したい。

 私は日本の医学部を出て医師免許を取得した後、10年ほど日本で脳外科研修を受け、2002年に渡米して以来、米国で同科の医療に携わっている。

 この国では保険会社による医療費補填(reimbursement) の決定事項が、医療方針決定に大きな力を持っている。その決定に参考にされるのは過去の医療行為による費用対効果のデータである。

 例えば、がん検診を何歳から行うかについては、マンモグラフィー、大腸検診、前立腺検診、内視鏡検査、全てについて検診がもたらす国家予算に対する圧迫と、患者への負担、検診をしない場合に見過ごされ生じるがん患者への治療がもたらす経済的圧迫との相関で、検診をする意義ありとする場合の開始年齢が厳密に決められている

 データを提供するのは、American Cancer Society という米国で一番大きな癌関連の公的機関である。2009年の時点のデータで、乳癌検診は40歳から大腸がんは50歳から、子宮頸癌は初体験から3年後からもしくは21歳から、前立腺がんは50歳からと決まっている。

 例えば乳癌検診については、データを基に、45歳からだったものが数年前に40歳に変更された。

 その他の癌(肺癌や卵巣がん、膵臓癌など)は検診の経済的意義がデータで否定されている。末期まで症状が出にくく見つかった場合の多くで治療困難であることや、有効な早期スクリーニング方法がまだ見つかっていないこと、早期に見つかっても有効な治療が確立されてなく早期発見に意義がない(現在の医療レベルで有効な手立てをうつ事が出来ない)ことなどが原因だ。

 それぞれの癌種につき、数年おきに再検討され、再決定されている。当然だが、現在は施行されていない癌種についても、新たな有効なスクリーニング方法が見いだされたら、開始される。まだそこに至っていないという状況だ。個々人の利益のためもあるが、社会全体の経済的利益を念頭に入れた、厚みのあるデータの解析から導かれた医学的結論だ。

 私は仕事上、悪性脳腫瘍の患者を専門とするが、脳腫瘍に関して現在有効なスクリーニングはない。まだ症状のないうちに偶然見つかって手術と化学療法、放射線療法を行っても、悪性脳腫瘍の場合半数以上が2年以内に死亡する。

 われわれはより有効な手術法、化学療法の同定を模索しているが、現状は上記したとおり厳しいものだ。こういった情報は判った時点で、全ての患者と共有し、対応法についての個々の罹患患者の結論を導く。場合によってはまだデータの確立途上である実験的医療(治験; experimental therapeutics)を行うケースもあるし、あらゆる医療行為を行わないという選択をする方もいる。

 厳しい状況のように見えるが、希望もある。癌全体でみるならば5年生存率は、過去30年間において50%から70%を超えるまでになっている。乳がんではハーセプチンの導入後、90%を超えた。白血病も種類により多少異なるが、予後の大きな改善をみたものも少なくない。

 先月のワシントンポストに、CTの導入後肺癌の予後が20%改善したとのレポートが載っている。

 近藤氏は、自らの意見を英語に翻訳して、国際学会で発表してみるべきだ。対立する意見のぶつかり合いは、evidence based medicineを更に進める上で重要だ。

--- 中野伊知郎(オハイオ州立大学 脳腫瘍外科 准教授)

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