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政投銀・商工中金の完全民営化 〜 「先送り」とは「永遠に先送り」という意味

 昨日、財務省と経済産業省はそれぞれ、日本政策投資銀行(政投銀)と商工組合中央金庫(商工中金)の完全民営化を事実上行わないための法案を国会に提出した。完全民営化とは、政府が株式の全部を処分することを意味する。正式な法案の国会提出について報じているのは現時点で日本経済新聞時事通信だけ。

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(出所:日本経済新聞

 法案の内容を端的に言うと、政投銀と商工中金について、2015年度から約5~7年間を期限として政府保有株式の全部を処分すると規定しているが、危機対応業務や成長資金供給のためにこの期限を事実上なくすよう改正しようというもの。これを法案の条文ではどう書かれているのか、一般にはあまり眼にすることはないだろうが、案外面白いので紹介しておくと、次の通り。

 ◎政投銀:「平成27年4月1日から起算しておおむね5年後から7年後を目途として、その全部を処分するものとする」→「できる限り早期にその全部を処分するものとする」に改正

 ◎商工中金:「平成27年4月1日から起算しておおむね5年後から7年後を目途として、その全部を処分するものとする」→「できる限り早期にその全部を処分するものとする」に改正

  両方とも同じ条文だが、これは財務省と経済産業省ですり合わせたからであろう。それは良いとして、面白いのは条文の書き方。株式処分の期限を「平成27年4月1日から起算しておおむね5〜7年を目途として」いたのを、「できる限り早期に」に書き換えた。これを読むと、一般的な感覚としては、「平成27年4月1日から起算しておおむね5〜7年」である平成32〜34年に全部処分する予定を、「できる限り早期に」(つまり平成32年よりも早い段階で)全部処分するので、完全民営化時期は早まったと思うのではないだろうか。

 しかし、そうではない。役所の感覚からすると、この場合の「できる限り早期に」というのは、『期限を撤廃したのだから事実上の無期延期』と同義なのだ。危機対応業務や成長資金供給は、永久に必要だからである。「できる限り早期に」の「できる」時期は永遠に来ない。

 こういう条文の書き方はかなりトリッキーではあるので、決して褒められるものとは思えない。しかし、法案の趣旨は決して不適格ではない。むしろ、政投銀や商工中金のような官営金融機関を完全民営化しようとする方が冷静さを失っていたとさえ思う。官営組織の民営化が流行ったは、小泉純一郎政権時代に過熱した“郵政民営化路線”の名残であろう。10年前に「改革」と思われていたものであっても、10年後の今になって冷静に考えると「改悪」であると気付くものも数多ある。「改革」には想像力が必須なのだ。

 官営金融機関を廃止しても、危機対応業務や成長資金供給は政府補助付きで民間金融機関に委ねれば足りる、という話もなくはない。しかし、官営金融機関の廃止後に、危機対応業務や成長資金供給を最も合理的に行う体制とはどのようなものかを検討した結果、現行の官営金融機関の存続が是となれば、それが最善の解となる。危機が起こった時にあたふたするよりも、危機対応専業の機関を保有している方が、政府としても何かと便利ということだ。

 少子高齢社会に突入し、それが今後当面の最大の政策課題であることを考えると、“規制緩和・自由化・民営化”を絶対善とする思考回路を停止させる必要がある。このまま低成長が続くとなると、“狭義の自由化・民営化”どころか、“広義の規制化・官営化”への政策ニーズが高まる分野が増えてくるはずだ。現に、そうなっている。社会保障が国民経済社会の安全網である以上、そうなっていくのは自然なこと。好ましいことではないが、不自然なことではない。

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