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カジノ専門家が「競馬必勝ソフト」の件にちょっとだけ本気出してみた

先に私が書いた、「ホリエモン『JRAはホクホク』、イヤそれは違う」というエントリに対して、JRA馬主で証券アナリストの本田康博氏からご意見を頂きました。以下、BLOGOSからの転載。


一部の人が勝ち易くなれば他の人が負け易くなるという点には同意します。しかし、カジノとは異なり、大金を持った合理的で優秀な参加者が、他の能力的に劣る参加者から資金を完全に吸い上げることは、馬券市場の場合は不可能と言ってよいでしょう。

(中略)…自らの馬券購入によって市場価格を割高にしないようにするためには、市場の中で自らはマイナーな存在である必要があるのです。ここがカジノとの決定的な違いなのだと思います。

要は、変動オッズ制の日本の競馬において、「必勝ソフトを使うようなプロ化したプレイヤが増えれば必然的にオッズが低下するので、プロが永遠に市場から資金を吸い上げるような世界は続かない」のではないかというご意見ですね。そして、これが私が専門とするカジノと競馬の決定的な違いなのだということなのですが、実は私の先のエントリは本田氏の主張する「カジノと競馬の違い」は前提とした上で書いています。

ということで、ちょっとだけ本気を出してシミュレーションしてみました(笑

まずはシミュレーションの前提となる「箱庭の世界」をシンプルに以下のように設定します。

1. 初年度の競馬の総売上は2.5兆円。大体、今のJRAの売り上げと同じです。
2. このうち必勝ソフトを使うプロプレイヤの売上構成比は5%。私は下手するともうちょっと多くてもおかしくないと思っていますが、ここは控えめに。
3. ゲームの控除率は25%。
4. そしてシミュレーション初年度におけるプロの運用利回りは4.8%。この数字は先の裁判でご紹介した大阪の男性の運用実績を参考にしています。
5. 「一般→プロ」への転向率は毎年1%。以前の解釈の税制に基づくと、必勝ソフトを使うと「ゲームには勝てても、結局税金がかさんで損をする」ことになっていたのですが、今回の裁判で「外れ馬券=経費」が確定したことで、「必勝ソフトを使えば利益を出せる」ことになりました。これが競馬ファンに知れ渡ったことで、恐らく今後、一般プレイヤの中で必勝ソフトを使用して「プロに転向」する人間が増えるものと思います。とはいえ、転向率は判らないので、今回は適当に毎年1%として設定しています。
6. 一般プレイヤーが毎年市場に持ち込んでくる競馬資金は、初年度の一般プレイヤー購入額(2.375兆円)の25%となる年間5,940億円。ここがちょっとヤヤコシイ概念なのですが、このゲームの控除率は25%なのですから、理論上は毎年プレイヤーがこの控除分の金額を別で稼いだ所得の中から遊興費用として充填してゆけば、全体の市場規模は維持されます。今回、一般プレイヤーは毎年そのように遊興費用として競馬代を充填し、競馬産業を常に維持してゆこうと動くことを前提にしました。
7. 一方、プロプレイヤーの充填はゼロ。プロ化したプレイヤーは、競馬を資産運用の場として捉えています。よって、彼らは原則的に一般のプレイヤーと違って、他で稼いだ所得を遊興費としてこの市場に充填してゆくことはしないことを前提にしました。
8. あと、非常に細かい話ですが、プロプレイヤーには先の裁判の判決に基づいて、毎年の資産運用利益の中から所得税を支払わせています。まぁ、実際は全員がちゃんと税金を払うとは思わないけど(笑

ということで上記のような要件で、市場の動態をシミュレーションしてみた結果が以下のような形です。

競馬市場の動態予測(一般 vs プロ)
リンク先を見る
*)単位は、特に断りのない限りは十億円

上記のような要件を前提にシミュレーションすると、プロが一般から資金を吸い上げて行くことによって、全体の市場規模が10年間で3,000億円弱減退することが判りました。

一方で、本田氏が指摘するように、プロプレイヤの運用利回りは同業者が増えれば増えるほど、そしてプロプレイヤーが全体に占める売上構成比が増えれば増えるほど下がっていきます。上記の要件だと、初年度は4.8%の運用利回りを期待できたものが、10年後には1.7%にまで低下することが判りました。

次に考慮に入れるのは「プロプレイヤーの離脱」です。プロプレイヤーは、競馬を資産運用の場として見ているワケで、上記のとおり年々の運用利回りが低下してゆくと、どこかの時点で市場からの離脱を始めます。彼らが資本を移動する先は他の公営競技になるのか、FXになるのか、もしくは株式投資になるのかはわかりません。ただ、彼らが「他で運用した方が儲かる」と判断した時点で、競馬市場から一気に資金が引き上げられるのは確実です。

今回はそのような「プロプレイヤーの離脱」が、便宜上、シミュレーション経過6年目、運用利回りが2.5%を割り込むことが予想される環境になった時に起こり、プロが競馬に投入していた運用資本を一気に25%減させるものとしました。すると、以下のようなシミュレート結果になります。

競馬市場の動態予測(一般 vs プロ) その2
リンク先を見る

*)単位は、特に断りのない限りは十億円
**)表のオレンジで示した場所で「プロプレイヤーの離脱」が起こっている

本シミュレーションの下では、競馬市場は10年の経過ののち、一つ目のシミュレートよりも更に縮小することが判りました。また、プロの運用利回りを見て頂ければ判ると思いますが、彼らの運用利回りは「プロプレイヤの撤退」が起こった年に、大幅に改善しています。

本田氏が指摘した「変動オッズ性の下では、プロが儲けるためには自らが常にマイナーな状態でなければならず、彼らの存在が市場の中で大きくなればなるほど、逆に彼らの運用利回りは減退する」のは事実です。一方で、本田氏が想定していないのが、ここで示した「プロの市場からの離脱」によって起こる運用利回りの改善です。

プロプレイヤーが「十分な利回りを期待できない」と考え、市場からの撤退を始めた場合、当然ながらそこで同業者の数の減退が起こるワケで、その時点で市場に残っているプロの運用利回りは改善します。即ち、彼らにとっては再び儲けられる環境が整備されるワケで、そこからまた一般プレイヤーからの賭博資金の移動が始まるんですね。

上記シミュレーションでは「プロプレイヤーの離脱」の効果を判りやすく示すためにちょっと端的な環境を示していますが、原則的に変動オッズ制の下では、ここに示した

「一般プレイヤからプロへの資金移動」→「プロ比率の拡大」→「プロの利回りの低下」→「プロが市場から離脱」→「利回りの改善」→「一般プレイヤからプロへの資本移動の再開」

のサイクルがグルグルと続いてゆく可能性があるワケで、その結果、競馬市場の縮小が延々と続いてゆくことが起こりうる。今回ご紹介したシミュレーションはあくまで一つの可能性であり、これが必ず起こると断言するものではありませんが(実際シミュレートの設定次第でそれが起こらないケースも観測されました)、私が先のエントリで申し上げていた事の真意は以上のようなものです。

あー、疲れた。。

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