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書籍「『赤ちゃん縁組』で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命」の問題ある記述について(仁藤夢乃)

ビッグイシュー・オンライン編集部より:本日別記事にて取り上げている「「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす」について、女子高生サポートセンター「Colabo」代表の仁藤夢乃さんが本書について重要な指摘をなさっています。話題の一冊、より理解を深めるためにぜひご一読ください。(仁藤夢乃さんのブログより、一部編集して掲載)


少女を「加害者」にしたてあげるような記述について

先日、<「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす>(光文社新書)という本をいただきました。

著者の1人、矢満田篤二さんは、愛知の児童相談所の元職員で、予期しない妊娠をした女性が自分で子どもを育てられないとき、妊娠中から児童相談所に相談し、サポートを受けながら出産し、出産直後から、子どもを希望する夫婦のもとで子どもが育てられるようにすることを推進する養子縁組の活動を広めるために書かれている。この活動については、私は心から応援したい。

ただ、この本を紹介するにあたっては、P160~162の2ページの誤りについて述べる必要が絶対にあります。どんなことがそこに書いてあるのか、ここで反対意見を述べたいと思います。長いですが、すべてのみなさまに、読んでいただきたいです。

******

この本のP160には、「施設での性的虐待の裏側に」という少女を「加害者」にしたてあげるようなタイトルで、次のようなことが書かれている。

<(本文まま)ある中学2年生の女子が家出(施設を勝手に脱走)しました。その女子は、常に男性の関心を惹くような魅力を漂わせている子でした。幼少期の愛着の絆が不足していると、女子の場合は特に、「自分を可愛いと言ってくれる人を強く求め」て、(略)「無分別な社交性」を恋愛関係に発揮するという傾向が見られます。この傾向が強い女子には、女性職員が対応すべきです。男性職員ならば、健全な夫婦としての生活を送っている年長の男性職員限定すべきで、独身の男性職員が対応するのは非常に危険だと言わざるを得ません。特に危険なのが、金八先生のような熱血漢です。>

このあと、以下のように綴られています。

<(仁藤による要約)施設で性的虐待が起きたと報道されることがあるが、その背景には少女が子どもが「ターゲット」にした職員を「巧みに誘惑」し、二人きりになる状況をつくり、その結果職員とそういう関係になっている。少女はターゲットの気を引くために、「かなり誇張して」自分のかわいそうな状況を「アピール」する。少女の話を親身になって聞こうとする熱血職員が、少女が同情を誘うためにつく「私はひどい虐待を受けていた」という嘘まで信じてしまう。同情を得た少女が次に言うのは「先生、誰にも言わないでね、の縛りです」。そうして職員が少女と親密な関係になり、一度体の関係を持ってしまうと、そのあとは少女から「校長に告げ口する」と脅されるようになるのだ。>

こんな考えを持っている人が、児童養護の一任者と言われてしまうこと。いや、乳児を守るため、「愛知方式」と呼ばれる養子縁組み制度を広め、児童養護のために闘ってきた方ですら、こんな考えをお持ちだということに絶望しそうになる。


大人の都合で語られる性的虐待「施設職員が中学生の魅力に誘惑され、手を出しててしまうのは仕方ないことなのか?」

著者は、性的虐待や社会的養護が必要な青少年の背景を想像、状況を理解をできていない。いや、ケースもたくさん見ているし、これでも理解しているほうなんだと思う。。怒りと、悲しさと、悔しさと、怒りでいっぱいになります。

そもそも、社会的養護のなかで性的虐待が起こることは許されません。

性虐待・性暴力について「子どもが悪いという考えは受け入れない」というのが、性虐待、人権を考える上の世界的な基本姿勢。大人は子どもがそういう状態にならないように守る必要がある。ここで書かれているのは、それを施設ができなかったというだけの話である。


「子どもが職員を誘惑した」という考え方は絶対におかしい。

社会的養護が必要な子どもたちの中に、人との距離感を知らない子どもがたくさんいることは、当然のことだ。それを想定できていない施設、それに対応できない職員は専門職として失格だ。中には、家庭内で性虐待を受けてきたことを背景に、または好意を寄せる人からのDVをきっかけに「性行為を持つこと以外に人と信頼関係を築く方法を知らない」子どももいる。

傷ついた子どもが嘘をつくことも、自分をアピールすることも、当然だ。単に同情を誘っているという見方を福祉関係者がすべきでない。そのくらい気づいてほしい、そのくらいしないといられない状態にあることに注目し、ケアすべきだ。嘘をついた子どもが、嘘を言っているからばれたくない、2人の話にしておきたい、独占したいと思うのも当然のことだ。


「一対一の関係をつくった」のは少女ではなく、施設・職員のほうである。

熱血であるかどうかなど関係なく、施設・職員が対応できなかったというだけだ。「一度そうなると」少女に脅されるとあるが、一度でもそうなってしまったことが問題であり、それは、なにがあっても児童を養護する側の大人の問題だ。


大学でも、今や、教授が学生2人にならないようにするのは鉄則になっている。

頼りにできる血縁も地縁もない、後ろ盾のない子供たちが、施設職員にすがるしかないのは当然のことである。児童に対して巨大権力を持つ職員が、それに誘惑されたなんていう言い訳を通用させてはいけない。

「職員が子どもと2人きりになるリスクを回避しよう」という考え方でいる限り、状況も、認識も変わらない。「子どもが職員と2人きりになって、性虐待を受けないようにする」のが大人の責任だ。

どんな言い訳があったとしても、児童への性的虐待は大人の責任だ。それも、家庭の養育が不可能な状況とみなされる背景を持つ子供たちに対して、社会的養護の中で、児童養護施設の中で起きている。しかし、本書に男子職員への批判はない。あくまでも、彼は熱血だったから、少女に騙されたのだという。


「健全な夫婦としての生活を送っている年長の男性職員」だからOK?性的虐待被害者には男児もいるが・・・

また、著者はそういう傾向のある少女への対応は女性職員か、「健全な夫婦としての生活を送っている年長の男性職員に限ったほうがよい」とも述べているが、これは、真摯に子どもたちに向き合っている男性職員、独身男性に対しても失礼だ。

児童買春者のなかにも「健全な夫婦としての生活を送っている年長の男性」は多く、何の根拠にもなっていないし、「健全な夫婦としての生活を送っている年長の男性職員」である(と想像する)著者ですら中学2年生の少女のことを「常に男性の関心を惹くような魅力を漂わせている子」(だから、男が誘惑されて当然だとも読める)なんて言っている。

「僕たち男にも都合があるので」というふざけた言い訳にしか聞こえない。

こういう人が一任者として間違った発信を続ける限り、理解は進まない。

また、女子だけでなく、男子の場合も同じような行動はよくあり、男子の性被害も眠っている。施設内での男児への性的虐待もある。その視点も欠けている。単に、女性が女児を、男性が男児を担当すればよいという問題ではない。

施設の子どもが性的な誘いや行動をする。それは、虐待を受けてきた子どもに現れる反応の1つとしてあり得ることだ。それにどう対応をするのかが問題であるのに、「性的な誘いをされたらみんな誘惑されちゃうから、する側の子どもが悪い」という理論が展開されている。


「言いつける」べきこと

本書では、体の関係を持った職員が、少女に「校長にいいつけるよ」と脅されるとも述べられているが、そうされて当然のことをしているのは職員だ。しかもこのケースは、今の日本では発覚する確率が低いことが問題となっている性的虐待で「摘発」に至っている稀なケース(法的にも確実に性虐待が認められた)である。

どんな内容であっても、虐待は虐待だ。あってはならないことがそこで起きているのだから、言いつけていい。もっともっと発覚していくべきことだ。

その上で、被害児童に、お互いに尊重しあう関係はそういう関係ではないこと、あるべき対等な人間関係を教えるのが大人の役目である。大人側が、愛着障害を抱えている子に対して、あるべき関係を教え、信頼関係を育てていく義務がある。

子どもが被害を訴えようとすることを否定するような発言も、許せません。


家出、売春の背景に

また、家出や売春をする少女への理解もない。

この本に、もう1つあるケースへの許されない記載がある。本文まま引用する。

<私が担当した中学1年生の家出少女は、大柄な体格で、大都会の繁華街に3ヶ月近く滞在し、帰ってきたときには50万円ほどの大金を持っていました。どうやって手にしたか、ご想像がつくと思います。  こうした行動の背景には、金銭などの明確な目的があるわけではなく、自分の後ろ盾になってくれそうな人を増やしたいというような、まさに愛着障害による「無分別な社交性が要因」と推定できるケースがあります。>

はじめに紹介したケースでも、「家出(施設を勝手に脱走)」というひどい書き方がされている。

Colaboには、職員の対応に傷つき、施設での生活に耐えられずに逃げ出したいが行くところがない少女からのSOSが届くことがある。なぜ少女が、「脱走」するのか。明らかに、少女の周りにいた大人たちに責任があるのに、責任逃れのために、少女にすべてを押しつけている。子どもを守ることが、職員の仕事であるのに。そういう考えの施設を脱走したくなるのは、思春期の感情として当然のことと思う。

この文章を読んで、私は、その少女が脱走後、どんなことを体験し、どんな思いで施設に帰ってきたのか想像し、申し訳なさでいっぱいになる。


3ヶ月で50万円。そこで、どんな暴力にさらされてきたか。

私は、家出し、売春しながら生活することの大変さを知っている。

売春宿に囲われ、奴隷のような扱いを受けたり、買春者からひどい暴力を受けて、心も体もぼろぼろで、捨てられた狼のようになってしまった少女とも日々出会っている。そこでの体験は、「50万円」では語れないようなものだろう。性的にも、身体的にも、精神的にもさらに傷つき帰ってきた。


行くところもない、頼れる親族もいない少女が、唯一寝泊まりが許されている施設脱走を決意するまでの葛藤。そんな施設に戻るしかない現実に、絶望しながら戻ってきた気持ち。それを想像できていたら、こんな書き方はしないだろう。

その後、この少女にどんな対応をしたのか心配でならない。少女の覚悟と、一生残るであろう深い傷を想像し、理解できる職員が増えなければ、子どもたちは救えない。

社会的養護が必要な子ども、つまり、守ってくれる特定の大人がいない子どもは、1人ぼっちでがんばっている。彼らが「後ろ盾」になるような人を捜すのは当たり前のことだ。家出をし、売春に至るのは、単に愛着障害だからではなく「お金が必要だった」「安心して暮らせる場所が必要だった(施設がそうではなかったため、探しに外へでた)」という物理的な切迫感が先だ。ただ寂しくて売春してるんじゃない。繰り返すうちに、売春が1つの自傷行為のようになり、それをすることで自分を保とうとするようになることも少なくない。


繰り返すが、施設の子どもに「誘惑された」というような人は職員失格だ。

性暴力、性的虐待の加害者に対して「好きだった」と語る被害児少女は少なくない。小さいころから、誰かにかわいがられたり、大切にされた記憶のない子どもたちが、自分に親身になり、大切に思っていてくれそうな人に好意を寄せるのは当然のこと。少女の気持ちを巧みに操っているのは大人のほうである。

また、家庭や学校などで性的虐待を受けている子どもが、いつ起こるかわからない恐怖から逃れるため、自分からせめて性的虐待の起こる時間、性行為のタイミングをコントロールしようとするようになることもある。加害者を自分から誘うことで、被害にあう時間や、ほかの人に見られないために場所をコントロールしようとするのだ。このケースでも、そのために、少女が職員を車や個室に誘った可能性もある。

この本は、予期しない妊娠をした女性が自分で子どもを育てられないとき、妊娠中から児童相談所に相談し、サポートを受けながら出産し、出産直後から、子どもを希望する夫婦のもとで子どもが育てられるようにすることを推進する活動を広めるために書かれている。この活動については、私は心から応援したい。だが、P160~162に書かれる、この2人の少女に関する部分で、すべてが台無しになっている。

私は、売春や性的虐待、性暴力により妊娠した少女からの相談を受けることもある。そうした女性たちにもこの取り組みが利用されるようになるといいと思うが、こんな考え方を突きつけられては、当事者の少女たちは相談できなくなる。著者のこの発言が、この取り組みを進める上でも大きな障害になることは間違いない。

影響力のある人なんだから、間違ったことは言ってくれるな!と、私は著者に伝えたい。手紙を出そうと思っている(増刷がかかる前に早く伝えなきゃ)。一任者と呼ばれる人が、こんな考えでは困る。


あとがきには「私は、80歳、もう余命は長くないでしょう」とあるが、このまま死んでもらったら困る。この本を読んだ支援者たちが、そういうふうに影響されてしまったら困る。この本を読んだ少女が、頼れなくなってしまったら困る。

私は、矢満田さんのすすめてきた養子縁組の取り組みには賛成です。だから、本当はこの本も「おすすめ!」と言いたかった。だけど、この本を紹介するにあたっては、この2ページのおかしさについて述べる必要が絶対にありました。

私の投稿をフォローしてくださっている方の中には、この本を読まれた方もいるのではないかと思いますが、このおかしさに気づいた方が、たくさんいてくれたらいいなと思います。おかしいことには、一緒に声をあげてください。声を上げられない、子どもたちのためにも。よろしくお願いします。


追記:読者からのメッセージ

記事を読み、当事者の方や現場で働かれている方々からたくさんのメッセージをいただいています。

施設内で性的虐待を受けた少女や、子どもの頃に被害にあった女性・男性からも声が届いています。

「何十年も前ですが、私も児童養護施設で性的虐待を受けていました。いまもこういう考えが根底に残っていることがショックです。若い世代が憤りを言葉にし、発信してくれることが希望です」

「毎日、怒ってます!と言ってくれてありがとうございます。おかしいことに怒ってくれる大人がいることに、私は救われています」と。

私はいつも、こうしたみなさんの言葉に励まされ、勇気を持って発信し続けることができています。

関わっている女の子からも、こんなメッセージをもらいました。

「私も施設にいたとき、先生にマッサージしてあげるからと言われて二人きりになって、気まずくて寝たふりしてたらキスされたことがるんだよ。本当に気持ち悪かった。ゆめのちゃんに話せてないこと、まだたくさんある」と。

この投稿の背景に、どれだけの子どもたちの顔があるか想像してもらえたら幸いです。

児童への性的虐待について、これを期に勉強する方が増えることを願っています。

私も、「虐待の被害児童が身を守るために、自ら加害者を誘い、せめて被害がおきる時間をコントロールするようになる」など、これまでに専門家から学んだことをもとに考えています。

残念ながら日本ではこうした研究も遅れ、わかりやすい書籍も、これ!というものが思いつかないのですが、性暴力のサバイバー支援を行っているNPOレジリエンスさんの研修はとてもおすすめです。私もこれからも学び続けます。

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