記事
- 2015年02月13日 14:50
答弁書(その8及び15:請求権)
本件は、内容を解説するとそれなりにマグニチュードの大きいものです(が、あまり注目されていません。)。少し長いのですが、ご容赦ください。
まず、以下のような質問主意書を出しました。なお、いつも書いていますが、この答弁書は閣議決定を経たものです。
【請求権に関する質問主意書】
日本国との平和条約、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定といった、戦争や不正常な状態を解決するための国際条約において、「請求権」という用語が使われる。
一 「請求権」とは、如何なる権利であり、どのような内容を包含しているか。
二 「請求権」とは、それが規定される条約が締結された時点で明らかになっていなかった事案に起因する請求権をも含むと考えて差し支えないか。
三 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定の前文において、「日本国及び大韓民国は、両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望し、(以下略)」とあり、第二条一項において「両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、(略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」とある。これを踏まえ、次の通り質問する。
(1) 同条約を踏まえても、個人的請求権は条約の対象外であり、個人的請求権を求める訴を提起することは認められるとの立場か。
(2) 同条約前文の精神を踏まえれば、締約国政府は個人的請求権に関する訴訟に如何なるかたちであろうとも関与することは認められないと考えるが、政府の見解如何。
【答弁書(下線部は緒方が付したもの)】
一及び二について
お尋ねの「請求権」という用語は様々な文脈で用いられるものであり、その性質や包含する内容について一概にお答えすることは困難である。なお、先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国として、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)及びその他関連する条約等に従って誠実に対応してきたところであり、これらの条約等の当事国との間では、個人の請求権の問題も含め、法的に解決済みである。
三について
大韓民国との間においても、御指摘のとおり、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号)第二条1において、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、・・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」しており、個人の請求権の問題を含め、締約国政府がこの規定に反する形で訴訟に関与することは認められない。
かなり、これで明らかになった部分が多いのですが、日本と韓国との間での請求権のところが、(私の質問の仕方の悪さによって)明確にならなかったので、再質問主意書を出しました。
【請求権に関する再質問主意書】
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号)における請求権に関し、以下の通り質問する。
一. この請求権とは、如何なる権利であり、どのような内容を包含しているか。
二. この請求権とは、当該条約が締結された時点で明らかになっていなかった事案に起因する請求権をも含むと考えて差し支えないか。
【答弁書】
一について【解説】
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号。以下「本協定」という。)第二条1にいう「請求権」とは、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録(昭和四十年外務省告示第二百五十六号)2(a)において「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」とされている「財産、権利及び利益」に当たらないあらゆる権利又は請求を含む概念であると解される。
二について
お尋ねの「明らかになっていなかった事案」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本協定第二条3は、「一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権」であって本協定が署名された千九百六十五年六月二十二日以前に生じた事由に基づくものに関しては、「いかなる主張もすることができない」と規定している。
これは強制連行裁判、いわゆる従軍慰安婦関係に関する質問のやり取りだということは薄々分っていただけるかと思います。これらの議論をする際に「請求権」という言葉が出てきますが、そもそもそれは何なのか、そしてそれを放棄したというのはどういう事かが明らかになっています。
少し噛み砕いて解説します。例えば、韓国との関係について、この2回の質問主意書で明らかになったのは、
● 国と国との関係では、個人的請求権の問題も含めて解決済み。
● したがって、(仮に個人が請求権裁判を起こしたとしても)韓国政府がそこに関与してはいけない。
● 「請求権」とは、「財産、権利及び利益」以外のあらゆる権利又は請求を含む。
● 日韓財産・請求権・経済協力協定が締結された時点以前の事由に基づく請求権は、いかなる主張もできない。
ということになります。
とすると、この考え方に基づけば、例えば強制連行裁判、いわゆる従軍慰安婦裁判が成立しすることは(仮にそれが個人による個人的請求権であろうとも)殆ど想起できません。今、韓国の裁判所が強制連行裁判において、請求権を認めるような方向で差し戻し判決を出していますけど、この上記の解釈に基づけば、そういう解釈は相当な無理をしないと出来ません。
「請求権」とは、例えば、強制連行、いわゆる従軍慰安婦の事案が、日韓財産・請求権・経済協力協定が締結された時に明らかになっていたかどうかにかかわらず、すべて含まれているのです。しかも、それについて国家間では「いかなる主張もできない」のです。
ましてや、請求権の問題に韓国(という国)が陰に陽に関与することはあってはなりません。
全部繋ぎ合せてみてみると、殆ど請求権裁判についてはフタがされています。勿論、個人として個人的請求権を主張することが排除されているわけではありませんが、それとて、国家機関が取り上げることは認められないと解するのが自然です。韓国の裁判所が差し戻し判決を出したこと自体、どうも不可解でなりません。
私は不正常な状態にあった韓国との関係で「お詫びと反省」の持ち続けていきたいと思っています。しかし、それと「請求権」の話は全く別の話です。そこを出来るだけ明確にしたいと思い、2本の質問主意書を出しました。



