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渡辺喜美氏検察審査会申立書の紹介

(1)私たちが、渡辺喜美元みんなの党代表の8億円問題を告発するために東京地検に昨年(2014年)6月2日付で告発状を送付した以降の展開を紹介しました。

渡辺喜美元みんなの党代表「告発状」送付以降の2014年展開まとめ

(2)告発状の郵送から7ヶ月余り(総選挙から約1ヶ月)後の今年1月14日に担当検事から私たち告発人の代理人・弁護士に電話連絡があり、私たちの告発は、やっと同日(1月14日)に正式受理されると同時に、同日に渡辺喜美氏を「嫌疑不十分」で不起訴処分にした、との連絡があったことは、そのマスコミ報道とともに紹介しました。

渡辺喜美元みんなの党代表「不起訴」処分などとそのマスコミ報道

(3)渡辺氏はそもそも個人の政治資金収支報告諸制度がないから収支報告しなくても良い旨弁明していました。東京地検特捜部がそれを受け入れたのであれば、不起訴処分にした理由は「嫌疑なし」だったはずです。しかし、実際には「嫌疑不十分」でした。
渡辺氏の法律解釈は受け入れられなかったのです。
にもかかわらず、渡辺氏は。これまでの弁明が検察に受け入れられた旨強弁し、反省していませんでした。
そこで、私たち告発人は、本日(2015年2月17日)午前、東京検察審査会に「起訴相当」議決を求めて審査申立書を送付しました。
申立人は11名。

渡辺喜美「不起訴」処分に対し私たち告発人は東京検察審査会に審査申立書を送付

(4)その審査申立書は以下です。
               審 査 申 立 書 
    
                                 2015年2月17日
東京検察審査会 御 中

         上脇博之を含む別紙審査請求人目録記載ら代理人
                         弁 護 士  阪 口 徳 雄
                      (別紙代理人目録記載の弁護士21名代表)

第1 申立の趣旨
被疑者渡辺喜美につき、政治資金規正法第25条第1項第2号違反(政治資金収支報告書不記載・虚偽記入罪)等または公職選挙法違反(選挙運動費用収支報告書不記載・虚偽記入罪)で、
「起訴相当」の議決を求める。

第2 申立の理由
1 審査申立人

    別紙目録のとおり
 2 罪 名
    政治資金規正法違反、公職選挙法違反
 3 被 疑 者
  渡辺喜美
 4 処分年月日
    2015年(平成27年)1月14日
 5 不起訴処分をした検察官
   東京地方検察庁 検事  小嶋 英夫

 6 被疑事実の要旨
(1)被疑者渡辺喜美の2012年の5億円に関する被疑事実

①被疑者渡辺喜美が5億円を「みんなの党」の政治活動として支出する為に吉田会長から借入していた場合の被疑事実
DHCの「吉田会長」に2012年(平成24年)12月16日の衆議院議員総選挙における「みんなの党」の政治活動(選挙運動を含む。以下同じ。)のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党の政治活動資金として、同年11月21日に5億円を渡辺喜美名義の銀行口座〈りそな銀行衆議院支店「渡辺喜美」〉に借り受けたのであるから
被疑者渡辺喜美は、同党の山口登・会計責任者には、そのうちの2.5億円だけを同党の政治活動のために貸付金として同年11月30日に記載させたものの、残余の2.5億円は、渡辺喜美名義の口座か、又は妻のまゆみ名義の口座に残っていたのであるが、これらの口座は「みんなの党」の党首が支配する「裏口座」として「保管」したのであるから、このような場合には党の政治資金収支報告書に「吉田から5億円の借入金」又は「渡辺から5億円の借入金」として同党の山口登・会計責任者に記載させるべきところ、この事実を秘匿し、同会計責任者に「渡辺から2.5億円の借入金」のみ記載させ、残り2.5億円の金員を上記裏口座で保管し、2013年(平成25年)3月26日に東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に提出した同党の政治資金収支報告書に虚偽記入させ、
もって政治資金規正法第12条第1項1号リに違反し、同法第25条第1項第3号に違反したものである。

②渡辺喜美が吉田会長から5億円のうち2.5億円は「みんなの党」の政治活動の為に借り、残2.5億円は衆議院議員総選挙の選挙運動費用の為に借入していた場合の被疑事実(猪瀬直樹前東京都知事の事件と同じ罪)=仮定的主張
被疑者渡辺喜美は、衆議院議員総選挙における栃木県第3小選挙区選挙に立候補して当選した衆議院議員であるが、
吉田会長に同総選挙における同党及び被疑者の選挙運動(=政治活動)のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党及び被疑者渡辺喜美の政治活動資金として、同年11月21日に5億円を被疑者渡辺が管理する銀行口座〈りそな銀行衆議院支店「渡辺喜美」〉に借り受けたのであるから
被疑者渡辺喜美は、そのうち2.5億円を同党の政治活動資金として同年11月30日に被疑者渡辺喜美名義で同党に貸付したものの、残余の2.5億円は、真実は被疑者渡辺喜美の衆議院議員総選挙の栃木県第3小選挙区選挙における選挙運動資金として借入したものであるが、いずれにせよ、渡辺喜美名義の口座もまゆみ名義の口座も渡辺喜美が実質支配する「裏口座」として「保管」したのであるから、渡辺喜美の選挙運動費用収支報告書に「渡辺喜美から2.5億円の借入金」又は「吉田嘉明から2.5億円の借入金」として岡本憲一・出納責任者に記載させるべきところ、この事実を秘匿し、同出納責任者に、2012年(平成24年)12月28日栃木県選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書に全額不記載にさせ、
もって公職選挙法第246条第5の2号に違反したものである。

③被疑者渡辺喜美が吉田会長から5億円のうち2.5億円は「みんなの党」の政治活動の為に借り、残2.5億円は自らの公職の候補者の政治資金として吉田会長から借入していた場合の被疑事実(みんなの党調査チーム報告書の立場)
被疑者渡辺喜美は2014年(平成26年)4月8日まで政党「みんなの党」の代表であったが、
吉田会長に2012年(平成24年)12月16日執行の衆議院議員総選挙における同党及び被疑者渡辺喜美の政治活動のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党及び被疑者渡辺の政治活動資金として、同年11月21日に5億円を被疑者渡辺が管理する銀行口座〈りそな銀行衆議院支店「渡辺喜美」〉に貸し付けを受け、そのうち2.5億円を同党の政治活動資金として同年11月30日被疑者渡辺名義で同党に貸付したものの、残余の2.5億円のうち2億円は被疑者渡辺喜美の夫人であり同志であるまゆみ氏の名義の口座で秘密裏に「保管」し、他の5000万円は被疑者渡辺が全額支出したのか、全額又は一部が被疑者渡辺の別の口座で残り、後にまゆみ名義の口座に移動したかは不明であるが、いずれにせよ、被疑者渡辺喜美名義の口座もまゆみ名義の口座も被疑者渡辺喜美が実質支配する「裏口座」として「保管」したのであるから、被疑者渡辺喜美の政治活動資金として借入をうけた以上、「その者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体」である資金管理団体である「温故知新の会」の収支報告書に「渡辺喜美から2.5億円の借入金」又は「吉田嘉明から2.5億円の借入金」として同団体の渋井正明・会計責任者に記載させるべきところ、この事実を秘匿し、同会計責任者に、2013年5月31日東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に同団体の政治資金収支報告書に同借入金を記載させず、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号(不記載罪)に違反したものである。

(2)被疑者渡辺喜美が政治活動として支出した計5500万円、まゆみ氏が支出した3500万円に関する被疑事実
①被疑者渡辺の金5500万円の支出が「みんなの党」の政治活動として費消されていた場合の被疑者渡辺喜美の被疑事実

被疑者渡辺喜美は、栃木県第3小選挙区選出の衆議院議員であり、かつ、2014年4月8日まで政党「みんなの党」の代表であったが、
同人は2010年(平成22年)7月11日執行の参議院議員通常選挙と2012年(平成24年)12月16日執行の衆議院議員総選挙における同党の政治活動のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党の政治活動資金として2010年(平成22年)6月30日に借入金3億円を、2012年(平成24年)11月21日に5億円を吉田会長より借入したが、
この中から被疑者渡辺喜美が計5500万円を「みんなの党」の政治活動に支出しながら、その支出の事実を同党の山口登・会計責任者に秘匿し、同会計責任者が2011年(平成23年)3月31日、2012年(平成24年)3月26日、2013年(平成25年)3月26日各東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に提出した同党の2010年分、2011年分、2012年分の政治資金収支報告書において、情を知らない会計責任者にその支出を知らせず、同党の支出額につき各政治資金収支報告書にそれぞれ不記載又は虚偽記入を行わせ、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したものである。

②被疑者渡辺喜美が金5500万円の支出が被疑者渡辺喜美の公職の候補者の政治活動として費消されていた場合の被疑者渡辺喜美の被疑事実
被疑者渡辺喜美は、栃木県第3小選挙区選出の衆議院議員であるが
同人は2010年(平成22年)7月11日執行の参議院議員通常選挙と2012年(平成24年)12月16日執行の衆議院議員総選挙における同党の政治活動のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党の政治活動資金として2010年(平成22年)6月30日に借入金3億円を、2012年(平成24年)11月21日に5億円を吉田会長より借入したが、
この中から被疑者渡辺喜美が計5500万円を被疑者渡辺喜美の政治活動として支出したのであるからこのような場合は「その者の為に政治資金の拠出を受けるべき政治団体」である資金管理団体「温故知新の会」の政治資金収支報告書に、その各支出の事実を記載すべきところ、同団体の渋井正明・会計責任者に秘匿し、同団体の計責任者が2011年(平成23年)5月30日、2012年(平成24年)5月24日、2013年(平成25年)5月31日にそれぞれ東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に提出した同政治団体の2010年(平成22年)分、2011年(平成23年)分、2012年(平成24年)分の各政治資金収支報告書にその各支出の事実を各収支報告書にそれぞれ不記載又は虚偽記入を行わせ、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したものである。

③同志まゆみ氏が費消した金3500万円について「みんなの党」の政治活動費として支出した場合の被疑者渡辺喜美の責任
被疑者渡辺喜美は、栃木県第3小選挙区選出の衆議院議員であり2014年(平成26年)4月8日まで政党「みんなの党」の代表であったが、
同人は2012年(平成24年)12月16日執行の衆議院議員総選挙における同党の政治活動のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党の政治活動資金として同年11月21日に5億円を吉田会長より借入したが、そのうちそのうち2.5億円を同党の政治活動資金として同年11月30日被疑者渡辺喜美名義で同党に貸付したものの、残余の2.5億円のうち2億円は被疑者渡辺喜美の夫人であり同志であるまゆみ氏の名義の口座で「保管」したが、そのうち、同志であるまゆみ氏が「みんなの党」の政治活動費として2012年(平成24年)12月3日から2014年(平成26年)4月24日までの間に被疑者がその支出を認めて合計3500万円を支出したのであるから、被疑者渡辺喜美は2013年(平成25年)3月26日各東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に提出した同党の2012年(平成24年)分の政治資金収支報告書及び2013年(平成25年)分の政治資金収支報告書(まだ公表されていないので提出日は未確認)に支出額に相応する各金額を記載させるべく、同党の山口登・会計責任者に伝えるべきところ、その事実を秘匿し、情を知らない会計責任者に同党の各支出額につき各政治資金収支報告書にそれぞれ不記載又は虚偽記入を行わせ、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したものである。
(なお3500万円のうち2014年(平成26年)1月1日から同年4月24日までの間に一部が支出されている場合は未だ犯罪は成立していない)

④同志まゆみ氏が費消した3500万円が被疑者渡辺喜美の公職の候補者としての政治活動として支出された場合
 被疑者渡辺喜美は、栃木県第3小選挙区選出の衆議院議員であるが
同人は2012年(平成24年)12月16日執行の衆議院議員総選挙におけるみんなの党及び党首個人の公職の候補者の政治活動のための資金提供をお願いし、それに応じた吉田会長から同党及び公職の候補者の政治活動資金として2012年(平成24年)11月21日に5億円を吉田会長より借入したが、この中からそのうち2.5億円を同党の政治活動資金として同年11月30日被疑者渡辺喜美名義で同党に貸付したものの、残余の2.5億円のうち2億円は被疑者渡辺喜美の夫人であり同志であるまゆみ氏の名義の口座で「保管」したが、そのうち、同志であるまゆみ氏が公職の候補者の政治活動費として2012年12月3日から2014年(平成26年)4月24日までの間に被疑者がその支出を認めて合計3500万円を支出したのであるから、このような場合は「その者の為に政治資金の拠出を受けるべき政治団体」である資金管理団体「温故知新の会」の2012年(平成24年)分の収支報告書及び2013年(平成25年)分の政治資金収支報告書に支出額に相応する各金額を記載させるべく、同団体の渋井正明・会計責任者に伝えるべきところそれを秘匿し、同団体の会計責任者が2013年(平成25年)5月31日にそれぞれ東京都選挙管理委員会を通じて総務大臣に提出した同政治団体の2012年(平成24年)分の政治資金収支報告書、及び2013年(平成25年)分の政治資金収支報告書(まだ公表されていないので提出日は未確認)にその事実を秘匿し、情を知らない会計責任者に同資金管理団体の各支出額につき各政治資金収支報告書にそれぞれ不記載又は虚偽記入を行わせ、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したものである。
(なお3500万円のうち2014年(平成26年)1月1日から同年4月24日までの間に一部が支出されている場合は未だ犯罪は成立していない)

⑤合計9000万円の政治活動としての支出が「みんなの党」や「公職の候補者」としての政治活動費でないと抗弁する場合の被疑者の渡辺の罪責
仮に被疑者の政治活動費の合計9000万円の支出が「みんなの党」や「公職の候補者」の政治活動に伴う支出ではなく渡辺らが関与する既存の政党や既存の政治団体以外の政党又は政治団体の活動の支出であると抗弁する場合には、「将来の政界再編」目的であれ、その「同志」が集まっている以上、何らかの政治団体が結成され、その政治団体の届出前に、その政党又は政治団体の政治活動(選挙活動を含む)として支出した場合に該当し、その場合の代表者や構成員は政治資金規正法第8条に違反し法第23条に違反し、禁固5年以下の刑罰に処せられる。

(3)罪名及び罰条
 上記(1)の①の被疑事実 政治資金規正法第25条第1項第3号(虚偽記載罪)
 上記(1)の②の被疑事実 公職選挙法第246条第5の2号違反(不記載罪)
 上記(1)の③の被疑事実 政治資金規正法第25条第1項第3号(不記載罪)
 上記(2)の①、②、③、④の被疑事実 政治資金規正法第25条第1項第3号(不記載罪又は虚偽記載罪)
 上記(2)の⑤の被疑事実 政治資金規正法第第23条違反(法8条違反、届出前の支出禁止違反の罪)

 7 検察官の処分
  不起訴処分。理由は嫌疑不十分。なお理由は代理人弁護士が検察官に口頭で「嫌疑不十分」と聞いただけであり、どの事実についてどのように証拠がなく、嫌疑不十分となったかは判明しない。

第3 不起訴処分の不当性
1 はじめに(本件事件の本質)

 吉田会長の週刊誌の手記によると、被疑者渡辺喜美は「みんな党」の活動資金として吉田会長に借入れの申し込みをし、吉田会長も「みんなの党」の政治活動資金として5億円を貸付けたことは、後述する通りである。ただ、このような場合、普通は党の銀行口座に送金すべきところ、渡辺個人の銀行口座に吉田会長が送金したことがこの両者の法律関係を「意図的に隠ぺい」させているのである。というより、本来の形で借入をすると、「みんなの党」の政治資金収支報告書に「吉田嘉明から借入金5億円」と記載することになるところ、それを隠ぺいする為に、吉田会長と渡辺喜美が相談をして「みんなの党」の政治活動資金であるが、党首が支配できる渡辺喜美の個人の銀行口座に送金してすることに合意して、政治資金収支報告書に「吉田嘉明からの5億円の借入」を隠ぺいしたのである。
被疑者渡辺喜美と吉田会長は検察の捜査でどのように供述しているか知る由もないが、嫌疑不十分となったことから推測すると、吉田会長と渡辺喜美は罪を免れるために渡辺喜美個人に貸付けした5億円は渡辺喜美の個人的借入であったとごまかしている可能性が高い。
 その点では捜査は極めて不十分であり、渡辺喜美と吉田会長の「隠ぺい工作」を十分に捜査していない。よって被疑事実の要旨(1)①の被疑事実につき「起訴相当」決議をするか、又は再捜査を命じるべきである。

2 5億円はみんなの党の政治活動資金として借入したものである
(1)5億円の借入に関する事実経緯

① 吉田嘉明氏は、化粧品やサプリメントなどを取り扱っている化粧品会社のディーエイチシー(DHC)の会長であり、厚生労働省の厳しい規制チェックに不満を抱いており、官僚機構の打破、規制緩和を求めていた。
② 渡辺喜美は、大学卒業後、当時、自民党議員だった父・美智雄の秘書となり、父・美智雄が1995年(平成7年)に死去した後は、その地盤を継承して1996年(平成8年)の衆議院議員総選挙に栃木県第3小選挙区に立候補し初当選した二世議員であり、その後も当選を繰り返し、内閣府特命大臣(規制改革など)に就任した経歴もあり、“脱官僚”を主張している政治家であり、2009年(平成11年)1月には自民党を離党し、同年8月8日には“脱官僚”などを主張する政党「みんなの党」を結成し、その代表となった(ただし2014年(平成26年)4月7日に代表辞任を表明し同党役員会が翌8日これを了承し代表を辞任した)。
③ 吉田会長は、2009年(平成11年)初めに政治談議をした知人の経済評論家の紹介で、同年2月に、東京・赤坂の「津の井」という洋食屋で、被疑者渡辺喜美と会い、意気投合し、以降2人は交流を始めた。
④ 同年春、被疑者渡辺喜美は夫人とともに吉田会長の自宅を訪問し、夫人は「いよいよ新党を立ち上げますが、お金がなくて困っています。地元の栃木に不動産があるので買っていただけないでしょうか。会長、助けてください」と言ったので、吉田会長は、同年6月26日、言い値の1億8458万円でその物件(「渡辺美智雄経営センター」名義)を購入したが、そのカネが新党立ち上げにどのように活用されたのかについては全く不明のままである。
⑤ 2010年(平成22年)7月11日執行の参議院議員通常選挙を控え、渡辺喜美は、吉田会長に対し、「参院選のための資金を貸してもらえないでしょうか。3億円あれば大変助かります」と申し出をし、吉田会長は、同年6月30日、自分の個人口座から、被疑者渡辺喜美が指定してきた銀行口座〈りそな銀行衆議院支店「渡辺喜美」〉に、3億円を振り込んだ。吉田会長は、渡辺喜美から、利息0・5%、返済期限2011年(平成23年)12月を併記した借用書(金銭消費貸借契約書)を直後に入手した。
⑥ しかし、渡辺喜美は、返済期限までに、この3億円を完済してはおらず、5500万円の未返済状態であった。
⑦ この借入残がある状況で、2012年(平成24年)3月頃、渡辺喜美は、吉田会長が検査入院していた慈恵医大病院の特別室に一人で訪ね、「次の総選挙で、維新と全面的に選挙協力することになりました。両党で100人以上は当選する可能性がある。ついては20億円ほどお借りできませんか」と頼んだものの、「みんなの党」と維新の連携はご破産になったので、「5億円でいいことになりました」と吉田会長に連絡した。吉田会長は、衆議院議員総選挙(同年12月16日)ほぼ1か月前の11月21日、自己の口座から、2年前と同じ銀行口座〈りそな銀行衆議院支店「渡辺喜美」〉に、5億円を振込んだ。なお、この5億円について被疑者渡辺喜美は、借用書(金銭消費貸借契約書)を作成していいないものの、利息は支払ってきたという。
⑧ 渡辺喜美は、本件事件発覚時点で、借入金計8億円につき完済してはおらず、返済したのは約2億5000万円程度であった。
⑨ 渡辺喜美は、事件発覚後の2014年(平成26年)4月7日、吉田会長に残債をその利息も含め返済し、すべての借入債務を完済した、と説明したが、誤解しており、最終的に完済したのは同月23日であった(みんなの党調査チーム「報告書」(2014年4月24日)6頁)。
⑩ また、渡辺喜美は、いわゆる資産公開法(政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律)に基づき、衆議院議員総選挙のあった2012年(平成24年)12月16日時点の資産の報告を行っているが、その報告では、借入金(残高)が2億5000万円としか報告してはいなかった。しかし、事件が発覚し、みんなの党調査チーム「報告書」が公表され、吉田会長以外からも借入していたことが発覚した。そこで、渡辺喜美は、2014年(平成26年)4月30日に借入金(残高)を2億5000万円から3億500万円増額して5億5500万円に訂正したものの、資産報告の対象時期を勘違いしていたとして5月1日には借入金(残高)は6億5500万円と再訂正した。いずれにせよ、同法には罰則がないものの、当初の報告は虚偽報告であり違法である。
⑪ 渡辺喜美は、2010年(平成22年)には、Aから3月26日に5000万円を借入し、その全額を3日後の同月29日に「みんなの党」に貸付けているし、6月18日にはAから4000万円を、Bから2本の4000万円を、それぞれ借入し、それらの合計額1億2000万円を3日後の同月21日に「みんなの党」に貸付けている。そして、6月30日に吉田会長から3億円を借入れた後、7月13日、Aに9000万円を、Bに8000万円を返済し、12月29日吉田会長に8000万円を返済している。
⑫ 渡辺喜美が2010年(平成22年)に吉田会長から3億円を借入れ、それ以降「みんなの党調査チーム」の調査がなされるまでの期間に政治資金として支出した金額は約5500万円である。
⑬ 渡辺喜美は、2012年(平成24年)11月21日に吉田会長から5億円を借入した後、そのうちの2億円を同月中に同志である夫人・まゆみ氏名義口座で管理し、11月30日に残りの3億円のうち2億5000万円をみんなの党に貸付け、残りの5000万円を含め1億円を12月に1億円を同志である夫人・まゆみ氏名義の口座で管理していた。
⑭ 渡辺喜美が2012年(平成24年)に吉田会長から5億円を借入れ、それ以降「みんなの党調査チーム」の調査がなされるまでの期間に、被疑者渡辺喜美の同志である夫人・まゆみ氏名義の口座で保管した金額は計5億円(前述の計3億円の他に2013年(平成25年)5月の2億円を加えた金額)であり、そのうち政治資金として支出した金額は約3500万円である。

(2)5億円はみんなの党の政治活動のための借入であったことは次の事実から証明される。
① 被疑者渡辺喜美が2010年(平成22年)6月ころ吉田に対し「参院選のための資金を貸してもらえないでしょうか。3億円あれば大変助かります」と申し出をし、吉田がそれに応じて渡辺の個人口座に3億円を振込んだのが参議院議員通常選挙(2010年(平成22年)7月11日)の直前の同年6月30日であったことからも明らかなように、3億円は、参議院議員通常選挙における「みんなの党」の政治活動のための資金であった。
② 被疑者渡辺喜美は、2012年(平成24年)12月16日の衆議院議員総選挙のために当初20億円、最終的には本件5億円を吉田に申し出ている。より具体的には、携帯メールで、同年11月19日、「衆院選の公認候補は60人になりました。手持ち資金が5億円ありますが、あと5億円ほど必要になります。この分、ご融資いただけないでしょうか」などと申し出たので、吉田会長は、その2日後の同月21日(衆議院議員総選挙のほぼ1か月前)に5億円を銀行口座振込んだところ、被疑者渡辺喜美は、その10日後の同年12月1日に「ありがとうございました」と題する報告メールを送信し、「御礼が遅れてすみませんでした。昨日までに供託金の支払いを終わりました。維新との相互承認も昨日発表」「今後、戦略的に投下してまいりますが、不足する可能性がありそうです。その時は何とぞよろしくお願い申し上げます」と伝え、同月16日の総選挙後の同月19日には「お世話になりました」と題したメールを送信し、「おかげさまで選(え)りすぐりの18人が当選しました」「なお、やりくりの方はなんとかなりそうです。本当にお世話になりました。ありがとうございました」と記されていた。」と吉田会長に伝えていたことからも、5億円は、衆議院議員総選挙における「みんなの党」の政治活動のための資金であったと思われる。
③ 特に被疑者渡辺喜美は「みんなの党」代表であり、“自己の選挙”のためだけではなく “党の公認候補の選挙”のためにも運動するので、吉田会長との借入経過、5億円という巨額の金額などから見て党首の政治活動のための資金”であったと思われる。したがって、渡辺喜美は、元々、吉田会長から5億円を“党の選挙運動”と “党首の政治活動”のために借入れた資金であったと思われる。
④ 吉田会長も、当然、被疑者渡辺喜美が個人口座で受領した3億円と5億円を合法的に「みんなの党」に対し貸付すると信じたものと推定される。吉田会長は「選挙後に議員が多数当選すれば、政党助成金がみんなの党に入り、その後に返してもらえると認識していた。」と説明している(「吉田DHC会長インタビュー要旨」)ことは貸主側の認識であった。
⑤ 被疑者渡辺喜美は、「みんなの党」代表辞任会見で、「ご支援いただいた会長も、みんなの党が選挙で勝ってさらに躍進することを期待し、私にお貸しいただいたものと理解しております。」と文書で吉田会長の意思を説明していることから、現行の政治資金規正法の下では、2010年(平成22年)は3億円を、2012年(平成24年)は5億円を、それぞれ「みんなの党」に渡辺が借入したと認識していた。
⑥ 被疑者渡辺喜美は、「みんなの党」のホームページにおいて、「一般的に、党首が選挙での躍進を願って活動資金を調達するのは当然のことです。一般論ですが、借り受けた資金は党への貸付金として選挙運動を含む党活動に使えます。その分は党の政治資金収支報告書に記載し、報告します。」と政治資金規正法の立場を的確に説明していた(「DHC会長からの借入金についてのコメント」2014年3月31日 15:37)。
⑦ 被疑者渡辺喜美が同趣旨を正しく理解していたことは、吉田会長以外の者らからの借入金について「みんなの党」にそのまま貸付けていたという事実から窺い知ることもできる。すなわち、「みんなの党調査チーム」の調査結果によると、2010年(平成22年)、渡辺喜美は、Aから3月26日に5000万円を借入し、その全額を3日後の同月29日に「みんなの党」に貸付けているし、6月18日にはAから4000万円を、Bから2本の4000万円を、それぞれ借入し、それらの合計額1億2000万円を3日後の同月21日に「みんなの党」に貸付けている。また、「みんなの党」の2013年(平成25年)分政治資金収支報告書はまだ公表・公開されていないが、Aから同年4月4日に8000万円を借入し全額を同月22日に「みんなの党」に貸付け、Dから6月28日に2億円を借入し全額を同日に「みんなの党」に貸付けている(みんなの党調査チーム「報告書」図表1頁・4頁・5頁)。このような記載は、渡辺喜美が、個人の借入金を政党の政治活動として支出するためには同借入金を当該政党の収支報告書に記載しなければならないことを正しく理解していたことの証である。

(3)5億円のうち「みんなの党」の2.5億円が政党の選挙運動、政治活動のために支出されたが、残りの渡辺口座やまゆみ口座に保管されていた事実をどう理解すべきか。
① 被疑者渡辺喜美は、2012年(平成24年)11月21日に吉田会長から5億円を借入し、その一部である2億5000万円だけを同月30日に「みんなの党」に貸付けている(みんなの党調査チーム「報告書」図表2頁)。
② 被疑者渡辺喜美は、吉田会長からの借入金を含め政治資金を夫人・まゆみ氏(2012年(平成24年)12月5日離婚届を渋谷区役所に提出し受理されているが、翌13年1月に家族とともに同居し現在に至っている)に「保守的管理のために預けた」ものであると説明している。具体的には2012年(平成24年)12月3日に2億円が、翌13年1月9日に1億円が、同年5月31日に2億円がまゆみ氏の銀行口座に入金されている(みんなの党調査チーム「報告書」9頁、図表3頁・4頁)。
③ 被疑者渡辺喜美は、吉田会長からの借入金の支出につき、「みんなの党」のホームページでは「党が躍進するためにどうしても必要な支出がありました」と説明し(「DHC会長からの借入金についてのコメント」2014年3月31日 15:37)、また同党役員会(4月1日)でも吉田会長からの借入金を「党勢拡大のため、党の躍進のための、党首渡辺喜美個人の活動」のために使ったことを文書で認め、代表辞任会見(同月7日)でも「党勢拡大」「政治活動」に使ったことを文書で認めている。
④ 「みんなの党調査チーム」の調査結果によると、渡辺喜美がアメックスを通じて支出した金額は約5500万円であり、「政治の周辺的なものとしての、人的接触のための飲食会合費、旅費宿泊費、情報通信費、備品購入費等がその大半を占めるとの説明が渡辺氏よりあった」(みんなの党調査チーム「報告書」10頁)。これは、吉田会長への事前の説明の通りであれば、党首の選挙運動を含む政治活動のための資金として支出されたものと言える。この約5500万円は、2014年4月の借入金返済から遡って3年10か月前から支出されている(みんなの党調査チーム「報告書」11頁)ということは、吉田会長から借入れた2010年(平成22年)6月30日直後から政治活動のために支出していたということであり、吉田会長から2012年(平成24年)11月21日借入れた5億円からも支出されているわけである。
⑤ 同調査結果によると、被疑者の夫人・まゆみ氏が支出した金額は約3500万円あり、「まゆみ氏のカードでの使用については・・・前代表のいわば同志として活動していたまゆみ氏の会合経費等の支払いに充てていた旨、渡辺氏より説明」され、約3500万円は2014年(平成26年)4月の借入金返済から遡って1年4か月前から支出されている(みんなの党調査チーム「報告書」10~11頁)ということは、最初の2億円の入金のあった2012年(平成24年)12月3日直後から渡辺喜美の同志としての政治活動のために支出されたわけである。
⑥ 同調査結果によると、夫人・まゆみ氏に「保守的管理のために預けた」政治資金は、「政界再編にあたっての突然の出費に備えて軍資金として留保していた」ものである(みんなの党調査チーム「報告書」11頁)。この場合の政界再編は、実現しなかったものの当然、そのための軍資金は「みんなの党」の政治活動のための資金であると言える。即ち2.5億円は「みんなの党」の裏口座に「軍資金」として保管されたと解すべきである。

(4)しかるに「みんなの党」の政治資金収支報告書に残2.5億円の借入の記載がない。
① 政治資金規正法第12条第1項1号リに借入金の場合は「貸主の氏名、借入年月日、金額など」を記載すべきとされ、その記載がないと政治資金規正法25条第1項3号に不記載罪で禁固5年以下の刑罰に処せられる。
② 政治資金を別口座(裏口座)で管理し、支出しなかった場合でも虚偽記載罪又は不記載罪が成立する。例えば、猪瀬直樹前東京都知事が選挙運動資金としての借入金5000万円を出納責任者に報告せず猪瀬前知事の夫人の銀行口座で管理し支出していなかったものの虚偽記載の罪(公職選挙法違反で略式起訴)が成立したことからも、明らかである。
③ 本件の場合には「みんなの党」の2012年(平成24年)分の政治資金収支報告書の借入金欄に「借入先 渡辺喜美 金額2.5億円」の借入金が記載されているが、「借入先 渡辺喜美 金額5億円」又は「借入先 吉田嘉明 金額2.5億円」と記載すべきであり、また「翌年への繰越額」欄に「2億2223万8618円」と記載してあるが、「4億7223万8618円」と記載すべきである。いずれも虚偽記入したものであるから政治資金規正法第25条第1項第3号の罪が成立する。

3 渡辺喜美の政治家個人の政治活動に関する報告制度がないという弁明は間違いである。
(1)政治資金規正法は政治家個人(公職の候補者)による政治資金の支出は違法であり原則禁止している

① 被疑者渡辺喜美は、2014年(平成26年)3月31日に「みんなの党」のホームページにおいて「党首が個人の活動に使った分は、政治資金規正法上、政治家個人には報告の義務はありません。そのような制度がないということです。個人財産は借金も含めて使用・収益・処分は自由にできるからです。」と説明した(「DHC会長からの借入金についてのコメント」2014年3月31日 15:37)。
4月1日の党役員会でも「そもそも政治家個人が借入分を含む自己の財産を個人の政治活動や議員活動に支出したとしても、公職選挙法および政治資金規正法に報告の制度がありませんので、報告のしようがなく、したがって報告していない、というだけのことです。」と文書で説明した。
4月7日、代表辞任を表明した会見でも「私が個人で使用した分については、政治家がポケットマネーを使って政治活動をしていない場合、その収支については収支報告書の制度がないことを総務省に確認しておりますので、政治資金規正法上もなんら違法な点はありません。」と説明した。
「みんなの党調査チーム」も「渡辺前代表個人についてみれば、吉田氏からの各借入れや、当該借入金の使途については、帳簿の作成備付及び収支報告等の作成提出義務はなく、政治資金規正法上の問題は生じない。」と結論づけている(みんなの党調査チーム「報告書」5頁)。
これらの説明は、犯罪として検察に立件されることを回避するために、政治資金規正法について意図的に間違った解説をしたものであると思われる。
② 政治資金規正法は、「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置」を講じ、「政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする」法律である(第1条)。「政治団体」(「政党」を含む)について「定義」を行い(第3条)、「政治団体」に、政治資金について必ず収支報告させており、報告されない裏金を許容していない。つまり、政治資金を受け取り、支出したい場合には、政治団体を結成させ、その政治団体に政治資金の収支を管理させ、政治資金収支報告書を提出させ、政治資金の透明化を図っており、公職の候補者個人では政治資金の管理、収支報告をさせてはいない。同法が都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に政治団体の届け出を義務づけ(第6条)、「政治団体」は、この「届出がされた後でなければ、政治活動(選挙運動を含む。)のために、いかなる名義をもってするを問わず、寄附を受け、又は支出をすることができない」と定めている(第8条)のは、そのことの表れである。だからこそ、政治資金政治研究会編集『逐条解説 政治資金規正法〔第2次改訂版〕』(ぎょうせい・2002年)88頁は、以上の定めにつき「いわば隠密裡に政治資金が授受されることを禁止して、もって政治活動の公明と公正を期そうとするものである」と解説しているのである。
③ 「政治団体」ではなく「公職の候補者」が政治資金を取扱える例外として、政治資金規正法は「公職の候補者の選挙運動に関する寄附」を認めている(第21条の2第1項)が、これについても、公職選挙法に基づき「公職の候補者」に選挙運動費用収支報告書を提出させている(第189条)。また、政治資金規正法は、政党が「公職の候補者の政治活動に関する寄附」を受けることを許容している(第21条の2第2項)が、この場合においても、政党の政治資金収支報告書には、当該寄附は「支出」欄に記載されなければならない。
④ 政治資金規正法は、このような例外以外で「公職の候補者」が政治資金を支出することを認めていない。そうでなければ、「公職の候補者」は国民の知らない状態のまま個人で政治資金を受け取り支出していまい、政治資金規正法は政治資金の透明化にとって実効性のない無意味な法律になってしまうからである。実際に「公職の候補者」が「政治団体」(政党を含む)に対し寄附または貸付をしているのは、合法的にそのカネを政治資金として支出したいからである。

(2)指定団体方式と保有金方式を廃止し資金管理団体を創設した1994年の改正政治資金規正法の立場
① 以上のことは、1980年(昭和55年)と1994年(平成6年)の改正政治資金規正法の各内容を確認し、比較することで、より明確になるので、以下説明する。
② 1980年(昭和55年)に、「公職の候補者」の政治資金についての“公私の峻別を図るために”政治資金規正法は改正された。それによると、「公職の候補者」は、できるだけ自らは政治資金を取り扱わないこととし、政治資金は、できるだけ政治団体に取り扱わせるようにし(指定団体方式。自治省選挙部編『政治資金規正法解説』地方財政協会・1988年、61頁)、「指定団体を指定しない場合」や「受けた寄附の一部を自らの手元で支出しようとする場合」には、「公職の候補者」が自ら政治資金を管理し、この場合には、「保有金」としてその者が直接その収支を報告しなければならないことになった(保有金制度。同上、62頁、76頁)。もっとも、政治活動に関する寄附のうち選挙運動に関するものは保有金制度から除外され、選挙運動に関するものは公職選挙法で別途収支報告する制度があった(同上、64頁)が、政党及び指定団体から公職の候補者が受けた寄附は、保有金に含まれず、収支報告の対象から除かれた(同上、76頁)。
③ 1994年(平成6年)には、「公職の候補者」の政治資金についての“公私の峻別をより一層徹底するために”政治資金規正法は改正された。それによると、「指定団体制度」と「保有金制度」は廃止され、それに代わって新たに「資金管理団体」の制度が創設され、「公職の候補者」は一の政治団体に限り「資金管理団体」を指定できるとともに、「公職の候補者」の政治活動に関する金銭等による寄付は原則として禁止された(第21条の2第1項。政治資金制度研究会編集「逐条解説 政治資金規正法 〔第2次改訂版]」ぎょうせい・2002年、31~32頁)。もっとも、政治活動に関する寄附のうち選挙運動に関するものはこれまでどおり許容される(第21条の2第1項カッコ書き)とともに公職選挙法で別途収支報告制度が維持され、また、「政党からの寄附」は「公職の候補者」が受けることはこれまでどおり許容され(第21条の2第2項)、収支報告の対象から除かれるという運用がなされている(その運用には異論があるが、その是非はここでは問わない)。
④ 以上のうち、政治資金規正法第19条第1項は「公職の候補者」が自己の資金管理団体を指定し、届出することについて定めているが、資金管理団体につき、「公職の候補者は、その者が代表者である政治団体のうちから一の政治団体をその者の為に政治資金の拠出を受けるべき政治団体」と定義している。つまり、「公職の候補者」が自己の政治資金を取り扱うときには、必ず、指定した資金団体が政治資金の拠出を受けるよう法的に義務づけているのである。
⑤ 以上の法律改正について政治資金制度研究会編集『逐条解説 政治資金規正法 〔第2次改訂版]〕(ぎょうせい・2002年)150~151頁は、法第19条の解説で次のように説明している。
「公職の候補者の政治資金の取り扱いついては、昭和55年の法改正により、公職の候補者の政治資金と私的経済との峻別の見地から、指定団体制度・保有金制度が定められたところであるが、平成6年の法改正において、『政治とカネ』とをめぐる問題を抜本的に解決し公職の候補者の公私の峻別のより一層の徹底を制度的に担保するため、指定団体制度・保有金制度を廃止して、公職の候補者の政治活動に関する寄附で金銭等によるものについては、選挙運動に関するもの及び政党のするものを除き、これを禁止する(法第21条の2参照)とともに、新たに資金管理団体制度が創設され、公職の候補者個人への資金については、その資金管理団体で取り扱うこととされたものである。」
  また、当時の青森地検八戸支部長(前刑事局付検事)の高橋秀雄氏は、「今回の政治資金規正法は、全体としては、政治家個人への不明朗な資金提供を全面的に禁止し、政党中心の政治資金の調達及び政治資金の流れの一掃の透明化をめざすもの」である、と簡潔に解説している(「法の焦点 政治資金規正法の改正について」法務総合研究所『研修』1994年4月号(550号)68~69頁)。
⑥ これらの専門的な解説によると、「保有金」制度が廃止され、「公職の候補者」のために政治資金を取り扱える資金管理団体が創設されたので、「公職の候補者」は、前述の2つの例外を除いて、政治資金を取り扱えなくなったのである。言い換えると、保有金制度が廃止された分、「公職の候補者」が個人で政治資金を取り扱うことが原則禁止されたのである。加えて、その代わり、「公職の候補者」が政党から受けた政治活動に関する寄附を自己の資金管理団体に寄附(特定寄附)した場合には寄附の量的制限が適用されず幾らでも寄附できることになり(政治資金規正法第21条の3第4項、旧第22条第2項〔現第22条第3項〕)、また、「公職の候補者」が自己の資金管理団体にする特定寄付以外の自己資金による寄附についても寄附の量的制限のうち年間150万円以下の個別制限は適用されず年間1000万円以下の総枠制限を受けるだけになった(同法第21条の3第3項、第22条第2項〔現第22条第3項〕)。
また、これまでの保有金制度が廃止され、それゆえ「公職の候補者」の政治資金収支報告制度が廃止されたことで、政治資金の透明化が後退したわけではなく、それは「公職の候補者」の資金管理団体によって実現することになった。言い換えれば、「公職の候補者」の政治資金収支報告制度が廃止された代わりに「公職の候補者」の資金管理団体の政治資金収支報告制度が創設されたからこそ、「公職の候補者」個人の政治資金の支出は原則禁止されたのである。
⑦ したがって、現行法のもとでは、「公職の候補者」が第三者からの“借入”を明文で禁止してはいないが、「公職の候補者」がそれをその者の為の政治資金として「拠出を受ける場合」には前述の例外(選挙運動に関する寄附)に該当しない限り、許容されないのである。

(3)法的整理
以上の内容を法的に整理すると次の通りとなる。
① 第三者が「公職の候補者」に対し選挙運動以外の政治活動に関し寄附をすることは政治資金規正法第21条の2第1項で禁止され、「公職の候補者」が当該寄附を受けることは同法第22条の2で禁止されている。
② 「公職の候補者」が第三者から選挙運動に関する寄附又は借入を受けた場合、選挙運動費用報告書に記載しないと公職選挙法第246条第5の2号に違反する(猪瀬直樹前東京都知事5000万円事件がその例)
③ 「公職の候補者」が第三者から選挙運動以外の公職の候補者の政治活動に関する借入を受けた場合、「その者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体である資金管理団体」の政治資金収支報告書に政治資金規正法第12条第1項1号リ「借入金については借入先及び当該借入先ごとの金額」を記載すべきところ借入金全額を記載せず(一部だけ記載がある場合)又は何も記載しない場合は政治資金規正法第25条第1項第3号(虚偽記載罪又は不記載罪)に該当する。
④ 政党の党首個人としての党の政治活動に関する支出目的で第三者から借入をした場合、その政党の政治資金収支報告書に、「政党党首個人からの借入金」としてその借入金の事実を記載しないと上記③同様に政治資金規正法第25条第1項第3号が成立する。
⑤ 仮に「公職の候補者」らが既存の政党又は既存の政治団体以外の政党又は政治団体の届出前に、「将来の政界再編」目的であれ、何らかの目的で、その「同志」が集まって、後者の政党又は政治団体の政治活動(選挙活動を含む)のために支出した場合、政治資金規正法第8条(同法第23条)に違反する。
⑥ 以上が「公職の候補者」の政治資金収支報告制度(保有金制度)が廃止された代わりに「公職の候補者」の資金管理団体を通じて支出する政治資金収支報告制度が1994年に創設された法意である。
⑦ 「公職の候補者」が複数の政治団体の代表をしている場合に、第三者から借入し、その借入事実をどの政治団体の政治資金収支報告書に記載するかは、まず「公職の候補者」が決めるべきことになるが、「公職の候補者」がいずれの政治団体にも記載していない場合は「借入目的」「借入時期」「借入金額」「実際の支出内容」などの客観的事情を総合考慮の上で、どの政治団体に記載すべきであったか(どの政治団体の虚偽記載罪又は不記載罪に該当するか)は捜査当局が捜査して最終的には裁判所が決定することになろう。

4 結論
真実は政党や政治団体の政治活動に費消目的で巨額の借入をしたにもかかわらず、「政治家個人口座を通じて他人から借入した場合は、政治家個人が借入したのであるから政治資金規正法上報告する必要がない」という弁明が許され、一切罪に問われないことになるようであれば、政治資金規正法の第1条「この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする」趣旨は全く生かされないことになる。
これに乗じて金権政治家の多くが巨額の借入を収支報告しなくなれば、政治資金の透明化を要求し国民の不断の監視を可能にしている政治資金規正法は、完全に骨抜きにされてしまい、議会制民主政治が健全に発展することは到底望めなくなるだろう。
政治資金規正法をザル法にしないためにも、検察官の不起訴処分に対して法と市民の目線の立場で「起訴相当」決議をしていただきたく審査請求をする次第である。

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