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不動産の価格はどのように決まるのか?――東京オリンピックと「期待」 ‐ 小松広明

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3.キャップ・レートにみる不動産投資家の意識構造

ここでは、不動産の収益性をあらわすリザーブ・キャップ・レート(買い手の最大支払い意思額に基づいたキャップ・レート)と物件取引における最適時期の認識に対して、どのような要因が影響を与えているのかを、アンケート調査の意識データをもとに統計手法(共分散構造分析)を用いて不動産投資家の意識構造を探ります。

分析の対象はこれまでと同様に、オフィスとして「丸の内・大手町地区のAクラスビル」を、また住宅として「城南地区の賃貸住宅ワンルーム」をそれぞれ取り上げます。

3.1 丸の内・大手町地区のAクラスビルに対する不動産投資家の意識構造

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図3-1丸の内・大手町のAクラスビルに対する不動産投資家の意識構造

図3-1で示された本モデルは、現況を十分に表現されていると言える極めて高い適合度を示しています(適合度指標は、CFI=1.00、RMSEA=0.00)。

リザーブ・キャップ・レートの水準に対してなにが影響を与えているのかをみてみると、「景況感改善」「収入上昇期待」「物件取得意欲」の3変数が関連付けられていることがわかります。「景況感改善」は、物価及び賃金の上昇期待に影響を与えています。物価の上昇期待に対するパス係数(影響の程度を表す指標。-1から1の値をとり、±1に近いほど強い影響度を示す)は+0.84と賃金の上昇期待のパス係数+0.53よりも高くなっていることから、投資家は、物価の上昇を強く意識していることがわかります。

続いて物件購入の最適時期をみてみると、「収入上昇期待」が影響を与えていることが見て取れます。当該パス係数は-0.60とマイナスの符号となりますが、これは、最適購入時期の変数が2014年時点を0年とする経過年数であるためです。つまり、「収入上昇期待」は、物件の購入最適時期を早期に促しているものと示唆されます。

この図で特に着目すべき点は、リザーブ・キャップ・レートが、「景況感改善」を基礎として「収入上昇期待」及び「物件取得意欲」をそれぞれ起点するパスが形成されている点です。このうち、リザーブ・キャップ・レートの水準に対しては、直接的に「物件取得意欲」が影響を与えており、当該パス係数は-0.69と比較的に強いことがわかります。当該係数がマイナスの符号となるのは、リザーブ・キャップ・レートのそれ自体の値を変数としているためです。「物件取得意欲」がリザーブ・キャップ・レートを低める傾向にあることを示唆しています。したがって、経済合理性が認められる関係にあるといえます。

「物件取得意欲」は、オリンピックの不動産市場に与える影響度の認識に対してもパス係数は+0.25となっており、少なからず影響を与えていることがわかります。

以上から、オフィスにおいては、「景況感改善」の認識が「収入上昇期待」に影響を与えており、その結果として物件の最適購入時期を早期化に促している状況にあります。その過程の中で「物件取得意欲」が、リザーブ・キャップ・レートを低めていることが不動産投資家の意識構造から見て取れます。

3.2 城南地区賃貸住宅ワンルームに対する不動産投資家の意識構造

続いて「城南地区賃金住宅ワンルーム」についてもみていきましょう。図3-2は、先ほどの図と同様、極めて高い適合度を示しています(適合度指標、CFI=1.00、RMSEA=0.00)。

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図3-2 城南地区賃貸住宅ワンルームに対する不動産投資家の意識構造

前述の丸の内・大手町Aクラスビルに対する投資家の意識構造と大きく異なるのは、リザーブ・キャップ・レートの水準に対して、「景況感改善」「収入上昇期待」「物件取得意欲」の3変数に加えて、「収益性悪化懸念」が影響を与えている点です。それぞれをみていきましょう。

「景況感改善」から「収入上昇期待」は、パス係数+0.86と強い影響を与えていることがわかります。「収入上昇期待」は、物件購入時期に対してパス係数-0.40の影響を与えており、オフィスビルと同様に、意識において早期購入を促していることがわかります。

着目すべき点は、「物件取得意欲」に対して、「収入上昇期待」と「収益悪化懸念」がいずれも強い影響を与えており、それぞれのパス係数は+0.90、-0.97と高いことです。相対的には「収益悪化懸念」による影響が強くなっています。このため、「物件取得意欲」からリザーブ・キャップ・レートの水準に与える影響の程度は+0.43とやや低く、かつ、当該符号条件はプラスとなっています。不動産投資家の共同住宅に対する見方が、積極的需要者層と消極的需要者層に大きく二分されていることがうかがわれます。これは、現時点における市況認識として、売り時と認識している投資家が買い時とする投資家の層を上回っていることからも、整合性する結果といえます。したがって、リザーブ・キャップ・レートの水準は、下限値に近づいているものと推察されます。今後のリザーブ・キャップ・レートの一層の低下は想定しづらい状況にあります。つまり、住宅の価格は、不動産投資家の意識において十分に高い水準にあるといえます。

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