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翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明。の巻 - 雨宮処凜

 大きな希望をもらった記者会見だった。

 それは「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」の会見。

 日本人人質事件を受け、今、この国には政権批判を自粛するような空気がメディアや社会を覆っている。

 例えば報道ステーションで「I am not ABE」と発言した古賀茂明氏が批判に晒され、テレビ局にも圧力がかかっているという。

 「いま政権を批判すればテロリストを利するだけ」「このような非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」

 そんな理由から、政権批判をする人を「非国民」呼ばわりするような声は少なくない。

 が、それはとっても恐ろしいことではないのか? 空気を読んで口をつぐむことによって、失われるものは甚大ではないのか? そして「非常時」に政権批判が許されないのであれば、もし日本が他国と交戦状態になった場合は?

 「戦争という非常時なのだから批判などするな」「こういう時は国民一丸となるべきなのだ」

 そのような理屈がまかり通るなら、それは70数年前の開戦時と一緒ではないのだろうか。

 そんな問題意識を持った人たちによって開催されたのが、この日の記者会見である。2月9日、参議院議員会館。その数日前、想田和弘さんから連絡を貰い、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」の賛同人となっていた私も出席。発言させて頂いた。

 会見では、10年以上前に自民党の選挙ポスターを茶化した風刺イラストを描いたことによって自民党から「通告書」が届いたというイラストレーターのマッド・アマノ氏、憲法学者の小林節氏、この声明を広く呼びかけたジャーナリストの今井一氏、そして渦中の古賀茂明氏、おなじみおしどりマコさん、またジャーナリストの大芝健太郎氏が出席。それぞれの思いを語ったのだった。

 まず、嬉しかったのは、この声明に賛同した言論人、報道人、表現者が1000人を超えているという事実を知ったことだった。サイトがオープンしたのは後藤健二さんが殺害されたとみられてからのこと。わずか一週間ちょっとで、それだけの言論人、報道人、表現者が「もの言えぬ空気」を作らないために、こうして賛同人として名を連ねたのである。その中には、今まで社会的な問題にはあえてコミットしてこなかったような有名人の名前も多くある。ある著名人は賛同にあたり、「今までそういうことはしないようにしていたけれど、今回ばかりは我慢できなくてとうとう名前を出して賛同することにした」と語ったという(賛同人一覧はこちら)。

 記者会見で古賀氏は、「報道の自由が失われる3段階」について、話した。第1段階は、「報道の自由への抑圧」。第2段階は、「報道機関自らが体制に迎合」。そして第3段階は「選挙による独裁政権の誕生」。古賀氏は、今は既に第2段階にいるのでは、と指摘した。 

 政権からの圧力は、いちいちあるわけではない。しかし、例えばテレビ番組が放送された後に官邸から「今のはなんなんだ」というような電話がかかってきたりすることはものすごく面倒なことで、もしいちいちこれをやられたら仕事にならないという。そんな中で、何が起きるか。現場は萎縮し、自粛する。他の報道機関とも牽制しあったりする。そうなると、政権は何も言わなくても勝手に自主規制するメディアが誕生する。

 記者会見では、今井氏によってそんなメディアの状況が明らかにされた。

 例えば、国会では野党議員によって人質事件の安倍首相の対応に非はなかったか、かなりの時間をかけて追及されている。民主党や維新の会や社民党など、多くの議員が厳しく追及している。が、それがニュース番組でどれほど流されているかというと、局によってはたった数十秒。中にはそもそも報道していない局もあった。一方で、「野党による政権の追及」をもっとも長く報道していたのが報道ステーション。長い日は、他の局が数十秒という中、8分という時間をとっていた。

 なぜ、このようなことが起こるのか。これは既にこの国の少なくないメディアが古賀氏の言う「第2段階」に突入していることを表しているのではないだろうか。

 世論調査では、今回の事件に対する政府の対応が「適切だった」とする人が読売の調査で55%、ANNで37%。JNNでは「評価する」が57%。また、事件後の内閣支持率は私の知る限り、どの世論調査でも上がっている。

 もし、野党による追及がちゃんと報道されていたら、このような数字になっていただろうか。そう思うと、やはりメディアの在り方に疑問を持たざるを得ない。

 しかし、この日の会見ではメディアの中にも心ある人々が、そして危機感を持つ人々が多くいることを知らされた。

 声明には、多くのテレビ局や新聞記者までもが名前を出して賛同人に名を連ねているという。その中には、NHKのプロデューサーもいればディレクターもいるという。数々の新聞記者たちも名前を出して賛同しているという。

 一方で、この会見の前々日には、シリアへの渡航を計画していたカメラマンに対し、外務省がパスポートの返納を命じたことが大きく報道された。カメラマンの男性は外務省の職員に「応じなければ逮捕する」という主旨のことまで言われたという。

 この日の会見では、ジャーナリストの志葉玲氏が「日本国憲法が交付されてから初めてのこと」と指摘。「非常時」を理由に個人の自由や権利が侵害されるという事態は既に始まっているのだ、と改めて気づかされたのだった。

 さて、「翼賛体制に抗する」こととしてもうひとつ、書いておきたいことがある。それは2月6日、山本太郎議員が「シリアにおける邦人へのテロ行為に対する非難決議」の採決の際、退席したこと。退席理由についてはブログに詳しいのだが、ここで山本議員は非常に重要な指摘をしている。非難決議に加えるべきこととして、「今回の事件の検証。イラク戦争の総括を含む」を上げているのだ。

 今後、政権はますます「イスラム国」の脅威を煽り、「自国民を守る」という建前で、様々な法整備を加速させていこうとするだろう。しかし、「イスラム国」がなぜあれほど巨大化したのか、12年前に始まったイラク戦争を支持した日本の責任はどう問われるべきなのか、そうしてこの12年間、この国は血みどろのイラクの惨状をなぜ無視・放置してきたのか、もっともっと検証されるべきなのだと思うのだ。

 とにかく、今、私たちが空気を読んで口をつぐんでしまうことは、あまりにも危険な未来を呼び寄せることに繋がる。

 萎縮せず、自粛せず、声を上げていかなければ。

 今まで生きてきて一番の危機感の中で、今、誓うように思っている。

***

「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」はこちら。

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