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「格差」と「不平等」-“ピケティ著『21世紀の資本』を深読み!”

先日、話題の本『21世紀の資本』(みすず書房、2014年12月)の著者トマ・ピケティ氏が来日した。各地で講演会や討論会、テレビ出演、記者会見等を精力的にこなした。NHK『クローズアップ現代』(2月2日放送)に出演した同氏は、「行き過ぎた不平等」をいかに改善するかを熱く語っていた。

この本がフランスで出版されたのは2013年9月で、2014年3月に英語版がアメリカのハーバード大学出版会から刊行された。今では世界中で150万部のベストセラーである。昨年12月に発売された日本語版は、主にこの英語版を翻訳したもので、経済書としては異例の売れ行きだという。

この本に最も頻繁に登場するキーワードは「格差」だ。この言葉は英語版の“inequality”の訳語だ。文脈にもよるが、“inequality”は「不平等」と訳されることが多く、「格差」とは少しニュアンスが違う。社会学的には、「格差」は客観的な“差異”を意味し、そこに価値判断は入らないが、「不平等」というと「望ましくないこと」や「よくないこと」のような価値観が読み取れる。因みにフランス語の原版では、“inégalités”という語が使われている。

 

ピケティ氏は同書の中で、『重要なのは、格差の大きさそのものではなく、格差が正当化されるかということなのだ。』(日本語版P.274)と述べている。つまり所得格差、資産格差、教育格差など様々な「格差」は、単なる所得や資産、教育における“差異”ではなく、行き過ぎれば是正されるべき「不平等」であり、それが生じる背景や要因を知ることが重要としているのだ。そして、同氏は資本主義が内包する「格差」を拡大するメカニズムを政策的にコントロールすることが必要であり、具体策としては、高い透明性を兼ね備えた国際協調に基づくグローバルな累進資本課税を提唱している。

また、この本の重要なメッセージのひとつは、経済格差が政策決定の政治的不平等を引き起こし、民主主義の脅威にならないかという点だ。そして経済格差が拡大しているという事実に対し、経済の専門家だけに任せるのではなく、多くの市民が主体的に議論に参加することの重要性を指摘している。

日本語版で使われた「格差」という言葉は、幸いにも広範な読者層を惹きつけた。その結果、日本でも13万部以上の発行に至っている。ピケティ氏のねらいは、長期にわたる膨大な経済データを示し、議論のプラットフォームを提供することだったのではないだろうか。そこで論ずるテーマは、経済書の範疇にとどまらず、「格差」という視点からの21世紀の社会国家の将来像というひとつの社会思想史にみえるのは、私の“深読み”だろうか。

  (参考) 研究員の眼『日本の新たな「格差」問題とは~衰退する「中間層」の不安』(2015年2月3日)
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