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2014年総選挙と今後の展望(その3)

〔以下の論攷は、東京土建『建設労働のひろば』No.93、2015年1月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

三、今後の展望とジレンマ―安倍首相の「表情が終始険しかった」のはなぜか



1 憲法をめぐる勢力関係の変化

総選挙が投開票された翌日、12月15日付の『産経新聞』に「衆院選は自民党が勝利を収めたが、安倍には忸怩(じくじ)たる思いが残る」「衆院選は自公で3分の2超の議席を得たが、憲法改正は遠のいた。任期4年で改憲勢力をどう立て直すのか。勝利とは裏腹に安倍の表情は終始険しかった」という記事が掲載されていた。なぜ安倍首相の「表情は終始険しかった」のだろうか。
それは憲法をめぐる国会内の勢力分野が大きく変わってしまったからだ。総選挙では、次世代の党の壊滅、維新の党の不振、みんなの党の消滅という形で「第三極」は存在感を大きく低下させた。

この結果、「いざという時の第三極頼み」という戦術が取りにくくなった。改憲発議については衆参両院で3分の2を確保しなければならないが、参院での3分の2は再来年の参院選で躍進しても自民党だけでは無理で、公明党が頼りにならない場合、「第三極」を当てにせざるを得ない。特に、次世代の党が大きな援軍だったが、それがほとんど姿を消してしまった。安倍首相としては、これほど大きな計算違いはなかっただろう。

それに、公明党が議席を増やした。今後の安保法制や日米ガイドラインの改定などでもできるだけ「限定」する方向で抵抗するとみられる。総選挙が終わってすぐに、安保法制の改定について集団的自衛権行使容認の範囲を「日本周辺の地域」に限る方針だとの報道があった(『毎日新聞』12月18日付)が、これは公明党の意向を踏まえた揺れだろう。

また、憲法についても公明党は9条を変える「改憲」ではなく、プライバシー権などの新たな条項を追加する「加憲」の立場だ。安倍首相の改憲戦略にとっては、「躓きの石」になるかもしれない。

 
2 アベノミクスの不透明な前途

投票率が下がったにもかかわらず自民・公明の両党ともに比例代表での得票を増やしている。しかし、それはアベノミクスを続ければデフレ不況から脱却して好循環が始まるという安倍首相の口車に乗せられ、景気回復への淡い期待を抱いた消極的な支持であり、第三極を見放して支持の行き場を失い寄せ集まった一種の「吹き溜まり」のようなものだ。

安倍首相は、今回の支持増大が「吹き溜まり」であり、別の風が吹けば飛び散ってしまうことを薄々感づいているのかもしれない。そこに熱狂はなく、醒めた計算と懐疑的な眼差しがあるだけなのだ。
「この道しかない」と言って有権者に無理強いしたアベノミクスの前途は不透明で、経済の先行き不安を感じているのは、安倍首相も同様だろう。しかも、消費増税の悪影響が思いのほか大きく、円安が必ずしも日本経済にプラスにはならず、かえって物価高を招いて消費不況を強めてしまうことが明らかになった。

今後もアベノミクスによって景気が回復し、好循環が始まる可能性は低いと見たからこそ、安倍首相は「今のうち解散」に打って出た。それにもかかわらず、1年半後の消費税10%への再引き上げを確約してしまったわけで、いずれそのツケがやってくるのではないかという心配も頭をよぎったことだろう。


3 直面する難題とジレンマ

これからの安倍首相は、いくつもの難題に直面しジレンマを抱えることになる。それがどれほど安倍政権への打撃となるかがはっきりしてくるのはこれからだ。

そのうちの一つは、沖縄の新基地建設をめぐるジレンマだ。辺野古での新基地の建設に反対だという民意は今回の総選挙でもはっきりと示された。名護市長選挙、市議選挙、沖縄県知事選挙、そして今回の総選挙と、今年に入ってからの全ての選挙で基地反対派が勝利したという事実には極めて重いものがある。
それにもかかわらず、安倍政権は新基地建設を強行しようとしており、政府と沖縄との対立はさらに強まると予想さる。その時、アメリカ政府はどう対応するだろうか。辺野古での新基地建設は無理だと諦める(その可能性は少なくない)ことになれば、安倍政権は窮地に陥るだろう。

もう一つは、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加をめぐるジレンマだ。中間選挙での共和党の勝利によってオバマ政権は今まで以上に強い態度で出てくる可能性があり、日本に譲歩することは考えられない。
かといって、この段階での交渉離脱は政権危機を招き、交渉が妥結したとすれば日本が屈服したことを意味する。例外なしでの関税撤廃やISDS条項の導入など日本の国内市場の全面的な開放がなされ、農業を始め、商業、建設、医療、保険、金融などの分野は壊滅的な打撃を受けるにちがいない。
地方創生を言いながら、地方の壊滅に向けての扉を開くことになる。さらに困難を増やすような政策展開は中央政府に抗して故郷を守ろうとする「保守」勢力との矛盾や対立を拡大し、自民党という政党の命取りになる可能性さえ生み出すことだろう。

三つめのジレンマは原発再稼働をめぐるものだ。福島第1原発の事故は未だ原因も不明で事故は収束していず、放射能漏れを遮断する凍土壁は失敗で、放射能漏れ自体もこれまで発表されていた以上の量に上る。脱原発を求める世論は多数だ。
このような中での再稼働の強行は世論との激突を招くだろう。とりわけ、原発の周辺30キロ以内でありながら発言権を認められない自治体の危惧と反発には強いものがある。

エネルギーを原発に頼る政策への復帰は、再生可能エネルギーの軽視と買い入れの停止などと結び付く。太陽光発電などの再生可能エネルギーを新しいビジネスチャンスととらえて取り組んで来た企業や自治体などの反発は大きく、再生可能エネルギーをテコとした循環型経済による地域の活性化を目指してきた動きも封じられる。このような方向での地方創生の芽を摘むことになるだろう。

さらに、四つめのジレンマは労働の規制緩和についてのものだ。通常国会には労働者派遣法の改正案が出る可能性が高く、ホワイトカラーエグザンプションの新版である「残業代ゼロ法案」の準備も進んでいる。これによって派遣労働が拡大され、労働時間が長くなれば、非正規雇用の拡大、雇用の劣化、過労死・過労自殺やメンタルヘルス不全が蔓延し、経験の蓄積、技能の継承、賃金・労働条件の改善、可処分所得の増大などは望めなくなる。消費不況と少子化は深刻化し、日本企業の国際競争力と経済の成長力は失われるにちがいない。

当然、女性の社会進出はさらに困難となり、デフレ不況からの脱却は不可能になるだろう。「この道しかない」と言って「成長戦略を力強く前に進め」た結果、自滅への道に分け入ってしまうことになり、これこそ最大のジレンマだと言わなければならない。 


むすび
安倍首相は、これ以上の内閣支持率の低下を避け、消費再増税の延期についての責任問題を回避して財務省の抵抗を排するために、総選挙に打って出たとみられている。しかし、その結果は必ずしも意図したようにはならず、多くの誤算を内にはらむものだった。
今回の総選挙の結果、15年に予定されている自民党の総裁選挙は何とかしのげそうだが、その前の統一地方選や16年の参院選の壁は越えられるのだろうか。「自民圧勝」の大宣伝にもかかわらず安倍首相の表情が「終始険しかった」のは、それが必ずしも容易ではないということに気が付いたからかもしれない。
この先、どんなに追い詰められても逃げることはできない。もう解散という「伝家の宝刀」を抜いて、使ってしまったのだから……。

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