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「ありとあらゆる手を尽くす」

先日のブログ(2015 2 6「政府の姿勢から見えるテロに対する危機感の低さ」)に非常に多くの賛否両論が届いたので、追加で思うところと、調べて分かったことを書かせて頂きます。

私は先週後半もスケジュールの合間を縫って、戦場ジャーナリスト、記者、外務省、中田考さんの顧問弁護士などとコンタクトをとりながら、今回の事件の検証を進めました。
(まず誤解が無いように書きますが、私は中田さんとは知り合いでもなく、肩をもっているわけでもありません。本人に関する情報は全て顧問弁護士を通じて入手しております。あくまでも客観的に検証をし、将来への備えをする為です。)

某TV番組の収録インタビューでもお話をさせて頂きましたが、重要なのは本当に「ありとあらゆる手段」を尽くしたと言えるのか。尽くせなかったとしたら、今後はどのような行動を取るべきかを検証することだと思います。
詳細はつまびらかに話せないのは分かりますが、失敗に終わった以上、一定程度の説明をし、野党と協力し合って改善を目指す責任が安倍政権にはあると思います。

そして、過去に類似の事例があれば、それも参考にしなければなりません。
私は今回、1999年に起きたキルギス日本人誘拐事件に着目しました。
4名の日本人鉱山技師が、イスラム国家の樹立を目指していた反政府系武装組織ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)によって拉致された事件です。
これは大変な交渉を経て人質全員の解放を実現した事件であり、当時の外務省職員もまだ数多く残っている為、その時の経験が今回の対応に色濃く影響した可能性があるからです。

テロリストとの交渉過程は詳細に明かされていませんし(勿論されるべきではありません)、身代金が実際支払われたかどうかも断定的には言えません(これについても勿論、政府は言及してはいけません)。よって、私が注目したのは、どのような人が交渉に当たり、どのような人から協力の申し出があったかでした。

見えてきたのは、キルギス事件では直接的な交渉ルートが開拓されていたということ。
当時、在パキスタン日本大使館専門調査員として2年間勤務し、国連アフガニスタン特別ミッションの政務官としてアフガニスタンに常駐した経験もある高橋博史さん(ウズベキスタン大使館員)等がいたため、武装勢力側や影響力の高い部族長との直接交渉ルートを開拓することができていたのです。そして、紆余曲折はありましたが、約2か月掛かって、人質は無事に解放されました。

最大のポイントだった直接交渉ルートの確立。
これは短期間で構築できるものではありません。今後は在イラクやヨルダン、トルコを始めとした中東の外交官等が腰を据えて、少なくとも部族長や宗教指導者とのコネクションを構築していく必要があります(ISILの内側に存在する対立軸とも何とか接点を作ってもらいたいところですが、日本のインテリジェンスにはハードルが高すぎるでしょう)。

また、当時の事件発生時も様々な人から協力の申し出があったようです。大事件が起こった際は功名心に駆られた自称「識者」が多く集まってくるのは避けられません。キルギスの場合は事件後も多くの情報が流布し、その火消しに政府も時間を費やしてきた跡がみられます。

そのような経験を経て、外務省には「テロ事件の時は、君子危うきに近寄らず」で、自称識者からの申し出は受け付けないという考えが根付いてしまったのかもしれません。結果的に人質解放となったので、それを成功事例として踏襲したくなるのも理解できます。多忙な中においては、特にグレーやブラックな経歴がついている人からの情報を最初から排除したくなる気持ちも分かります。
しかし、他に有力なパイプが構築できていないとしたら話は別です。
人の命が掛かっている状況下であれば「虎穴に入らずんば虎子を得ず」に方針を切り替え、一度は会って話を聞いてみるというスタンスが必要だったのではないでしょうか。

ところが、今回の件について様々な情報を収集するにつれ、違う動きがあったことも見えてきました。
外務省の中には必死に解決の糸口を探っていた職員がいたのでしょう。一度、中田氏への連絡を第三者経由で試みています(直接連絡をした証拠を残したくなかったのかもしれません)。

その時の依頼は、手紙をISILの幹部に中田氏から送ってもらうこと。
しかし、その内容があまりにも稚拙でした。
後藤さんと湯川さんの殺害予告動画が挙げられた直後、外務省は「邦人殺害予告事案に対する日本からのメッセージ」 という短い文書をウエブサイトに上げていますが、手紙はその英語訳とアラビア語訳でしかなかったのです。
しかも、手紙の出だしは「To whom it may concern」(ご関係者各位)と書かれていて、まるで平時のビジネスレターのようなイメージでした。
こんな内容ではISIL(中田氏はイスラム国と呼んでいます)の司令官に送れないと、その依頼を断ってしまったのです。

それが外務省の気分を害してしまったのかもしれません。それ以降は中田氏サイドからの協力の申し出はすべて無視されるようになってしまいました。
(後藤さんの奥様宛のメールに返信しないと判断したのは誰かという私の問いに対し菅官房長官は「私の下で」と正直に答えて頂きましたが、中田氏と接触することを禁止したのは誰の判断だったかは分かりません。)

しかし、繰り返しですが、「ありとあらゆる手を尽くす」と約束した以上は、政府は奥様宛にあったメールへの返信(これ以上の直接的な連絡先はありません)や、中田氏と一度ぐらい会って話をする(協力を要請しなかったとしても、情報を少しは入手できたかもしれません)ということを、やってみるべきだったのです。
中田氏に「交渉をしてもらう」ということではありません。
あくまでも日本政府とISILをつなぐパイプ役になってもらうということです。
特に今回は72時間という非常に短いタイムリミットが宣告されていたので、少しでも効果がありそうな手は同時並行的にすべて行うべきでした。

リスキーと思われることを実行する判断は、官僚にはできません。
その場合は政治判断が必要となります。しかし、今回はそのリスクをどの政治家も取らなかった。会わないリスク(そのまま人質が帰って来るか来ないかは成り行きに任せる)のほうが、会うリスク(失敗した場合、何を言われるか分からない)より政権批判に繋がらないと判断したのでしょう。
要は日本にありがちな「減点主義」的な発想です。
目立った行動を取らなければ、あとは国会で「仮定の話はしません」「機微にわたる話を開示するわけにはいきません」と言い続ければやり過ごすことができるのです。

私が委員会で聞いたことは特に国家機密上の問題になることではありませんし、今後のテロとの戦いにマイナスの影響を及ぼすものでもありません。
例えば「中田氏となぜ一度も話をしなかったか」という質問は、「中田氏と話をした内容を開示しろ」というものとは全く違います。あくまでも今後の政府のとるべき「姿勢」を考えるために聞いているにすぎないのです。

なぜ、そんな質問にも答えられないか。
それは、今回、政府が「何もできなかった」というよりは、「何もしなかった」からかもしれません(他国や部族長に協力要請はしていましたが)。
つまり、直接ISILと接触ができた可能性があるのに、その手段を避けたともいえます。
直接交渉をして、失敗してしまった場合は、ダイレクトにその誹りを受けることになってしまうからです。

それが徐々に明るみに出るのが嫌なので、何を聞かれても「答えられません」「ありとあらゆる手を尽くした」とリピートするしかないのです。

実際、目立った失点がなかった安倍政権は、人質事件への対応が評価され、支持率が5%も上昇しています。
また、危険な地域に行ってテロや事件に巻き込まれた場合は「自己責任」と答えている国民が83%に上るそうです。(両方とも読売新聞調べ)

私も自己責任は否めないと思います。そして、テロには屈してはならない、つまり身代金などは絶対に払ってはならないと思っています。
しかし、それを踏まえた上でも事件が起こってしまった以上は、国は国民の命を救うために本気で「ありとあらゆる手」(身代金以外の)を尽くす必要があります。そんな時に微塵でも「将来、野党や世論に追及されないように」「減点しないように」「支持率が下がらないように」「何もしないで嵐が過ぎるのを待つ」という考えが頭を巡っているようでは政治家失格だと思います。

人の命がかかっていたのです。
囚われの身になっている本人や、そのご家族の気持ちになってみて下さい。
自分の家族が囚われていたら、本当にメールを送らなかったでしょうか。本当に中田氏と一度も連絡をとらなかったでしょうか。ISILと直接的に連絡がとれるかもしれないチャンスを最初から排除したでしょうか。
どんな可能性にでも賭けてみたのではないかと思います。

日本人を狙ったテロ・人質事件の危険性が高まっていく中で、今後の日本政府がとるべき姿勢も引き続きこれで良いのか。我々国民が考えていく必要があります。

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