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女性アイドルグループからの「卒業」と「脱退」

元・ももいろクローバーZの早見あかりが自分とグループの関係について語っている(「脱退から4年、早見あかりが語るももクロとの関係性」)。彼女は「卒業」ではなく、「脱退」という言葉に固執したと伝えられるが、女性アイドルグループからの離脱を「卒業」と呼ぶことが定着して久しい中、「脱退」という言葉が使われていることが新鮮に思えた。

辞書によれば「卒業」は、
  1.学校の全教科または学科の課程を修了すること、
   2.ある状態・段階を通過すること、
   3.1つの事業を完了すること、とある。

アイドルグループから抜けるという行為は学校における修了とは違うし、また、必ずしも何かを達成したわけでなく、中途半端な状態で抜けることもあり、厳密にはこれら3つの意味のどれにも該当しないこともある。一方、「脱退」は「所属していた団体・会などから抜け出ること」である。どういう経緯があるにせよ、一般にグループから抜け出るという行為は、「脱退」という言葉で表せば事足りると思うが、女性アイドルグループの場合はなぜ「卒業」と呼ぶのか、以前から気になっていたので少し考えてみた。

女性アイドルグループからメンバーが脱退することを「卒業」と呼んだのは何が始まりだったかはハッキリとわからないが、おニャン子クラブではないかと推測する。おニャン子クラブが世に出た1985年から1年ほど、彼女たちと同世代の僕はフジテレビ『夕焼けニャンニャン』をリアルタイムでよく見ていたのだが、初期メンバーの河合その子や中島美春がグループを抜ける時に「おニャン子から卒業」と呼んでいたように記憶している。
そもそも素人の女子高生を多く含んだおニャン子クラブは女子高生たちの放課後のクラブ活動のような雰囲気が最大の売りだったわけで、その意味では、そこからの脱退を「卒業」と比喩的に呼ぶことは、グループのコンセプトにも合っていたのだろう。特に中島美春の場合は、自身が高校卒業とともにグループを辞めた時にメインボーカルを務めたおニャン子のシングルが『じゃあね』という曲だったこともあり、「卒業」でも違和感なく受け止められたのかもしれない。

おニャン子以降、大きなムーブメントになるような女性アイドルグループはなかなか出現しなかったが、20世紀の最後にモーニング娘が出てくる。モーニング娘は1997年の結成以降、メンバーの脱退・増員を繰り返し、現在に至っているが、初期にグループを抜けた数人に対しては「脱退」を使っていた。彼女たちを世に出したテレビ東京『ASAYAN』は毎週彼女たちの動きを詳細にリポートしていており、レコーディングの好不調とかメンバー間の諍いなどがドキュメントとして伝えられていたが、恐らく視聴者にとって最も衝撃が大きいニュースはメンバーの脱退で、誰かが急に辞めるかもしれないというドキドキ感が番組ではうまく仕掛けられていた。この場合、「脱退」という言葉の重さが演出的には効果がありそうだ。

しかし、モーニング娘からの「脱退」は徐々に「卒業」という言葉に置き換えられていくようになる。モーニング娘というグループが大きくなるにつれ、そこからの離脱は、何が起こるかわからない波乱のドラマの一幕としてよりも、一緒に頑張ってきた仲間たちに送られて旅立っていく儀式のように捉えられるようになったことの表れとも考えられる。Wikipediaによれば、「(1999年の)福田から(2000年の)市井までは脱退と公式に発表されてきたが、負のイメージを連想させない前向きな意味合いとして卒業という言い方を(2001年の)中澤の離脱時から使用するようになった」とのことである。
僕と同世代のプロデューサー・つんくの頭の中に「おニャン子クラブにおける卒業」がイメージとして存在していたのかは定かではないが、いずれにせよモーニング娘はある時期から、グループを離れることをイメージ戦略上、意図的に「卒業」と呼ぶようになり、何かしら問題を起こして辞めるか、辞めさせられるような場合を除いて、「脱退」という言葉は使わないようになったようだ。先のWikipediaには、「メンバー本人の都合または所属事務所との協議での了承を得た脱退(円満退社)は卒業、一方でメンバーの不祥事(スキャンダル)および何らかのトラブルから、所属事務所に損害または不利益を被らせた場合に責任をとる意味での脱退(解雇)は脱退という表現を使用していると解釈できる」とある。

この解釈は一見明快で、モーニング娘以降出現した他の女性アイドルグループにも適用可能なようにも思われるが、実はそれほど単純でもない。2012年に男性タレントとの熱愛が発覚した責任を取ってAKB48を離れた増田有華の場合、本人はブログで「AKB48を辞退することになった」と玉虫色に記しているが、先ほどのモーニング娘の「卒業or脱退」の解釈に基づけば、スキャンダル絡みでAKB48に損害または不利益を被せた責任を取ったとも考えられるので、実質的には「脱退」とも考えられる。
ところが、「増田有華」と「卒業」あるいは「脱退」というキーワードで検索してみると、卒業が60万7千件に対して脱退は15万2千件に過ぎない。彼女の最後のステージを伝えるORICONでは記事にこそ「脱退を発表した」とあるが、写真のキャプションは「AKB48を卒業する増田有華」とある。つまり、本人の意識やその実態はともかく、ファンやメディアの多くが彼女はAKBを「卒業した」と捉えていると考えられる。

女性グループからのメンバーの離脱は今や、本当に余程のこと(例えば、反社会的行為を犯したとか、本人の意に反して強制解雇されたとか)が周知のこととならない限り、「辞めたいという本人の固い意思を尊重して」とか「所属事務所との協議の結果、両者納得して」と公表さえすれば、全て卒業扱いが可能な様相である。逆に考えれば、不祥事やトラブル絡みで事務所に迷惑をかけたわけでもなく、本人の願いで辞めたのに「脱退」という言葉を使う元・ももクロの早見あかりは奇特な存在に思えるし、そして敢えてそれを認めたももクロと所属事務所もある意味寛大だ。

女性アイドルグループの場合、「脱退」が辞める本人のみならず、残されたグループのイメージにも負に作用しうると推測され、「卒業」という美麗字句を用いたいという心理はわからなくもないが、それでは男性アイドルグループはどうだろうか。元・SMAPの森且行や元・KAT-TUNの赤西仁はどちらも「脱退」が一般的である。彼らの場合、グループからの離脱が円満な形ではなかったというような話は耳にしたが、当事者ではないので真相はわからない。ただし、本人も残されたグループも事務所も、離脱に際してそこにあったかもしれない生々しい現実を「卒業」という巧みに飾った言葉でオブラートに包むようなことはしなかった事実は興味深い。

言葉の用法が時代とともに変化するのは当然だし、「卒業」もその範疇に入るとも考えられるが、社会環境が変わったというような理由ではなく、あくまで作為的に変えられた点には注意する必要がある。特に「卒業」はイメージ重視のメディアの世界では重宝がられる。先日、テリー伊藤がコメンテーターを務めた情報番組『スッキリ!!』を降板すると発表されたが、これも「卒業」である(「テリー伊藤、『スッキリ!!』を3月に卒業」)。
この場合、本人が「そろそろ卒業したい」と言い出したというよりは、辞意を受けて、番組側が「卒業」という言葉を公式発表に使ったのかもしれないが、こういった用法がメディア主導で広められ続けた結果、今や「卒業」は「何かを辞める時の使い勝手のいい言葉」になりつつある。例えば、「バイトを卒業する」とか「会社を卒業する」といった類だ。近年、日本は若者のみならず、中高年まで耳触りの良い、前向きで優しい言葉を多用するようになり、「ボエム化」が進んでいると指摘される。「誰かを支える」が「誰かに寄り添う」になり、「励まされる」が「勇気をもらう」なる。「卒業」の意味拡大もその一例なのかもしれない。

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