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なぜそんな危険なところへ行くの?

最近、人質問題が話題になっているので、昔のことを思い出しました。

僕はいまアメリカに住んでいるけれど、自分のキャリアの振り出しは中東でした。プラント建設に関係する仕事です。

大学生だった頃、イラン革命がおこりました。その混乱を衝いて、イラクのサダム・フセインがイランに攻め込みました。いわゆるイラン・イラク戦争です。

このときは三井物産グループが中心となって、IJPCという石油化学コンビナートをイランで建設中であり、革命の後も歯を食いしばって現地に残っていた日本人は、現場が爆撃の対象になるということで、プロジェクトを放棄、命からがら帰国したのです。

僕は、その顛末を新聞で読んで(ふうん、日本人の中には、こんな危険を冒してまで、仕事をしているひとたちも居るんだ……)と、深く印象付けられました。

その頃は若かったので、冒険を求める心が強く、激戦地となっているバスラの沼沢地帯からクルマで一日も走れば着いてしまうクウェートに石油精製プラントを建てるプロジェクトの話が持ち上がった時は、真っ先に志願したわけです。

もちろんクウェートは戦争当事国では無かったので、戦争こそありませんでしたが、それなりに危険な思いは幾度もしました。

なかでも思い出深いのは、僕を含めた建設作業員が寝泊まりしていた仮設キャンプのすぐ裏で、天然ガス・パイプラインが爆発した事件です。

僕は鳶(とび)職の職人さん達の世話役のような仕事をしていて、ビザの更新とか、食材の買い出しとか、兎に角、雑用的な仕事を全部引き受けていたわけです。

日本から到着する便は、大体、夜の二時頃に着くので、新しいメンバーが到着するたびに、毎週のようにクウェート空港までマイクロバスで迎えに行きました。パキスタン人の運転手、トフェールさんと一緒です。

その日もまるでヒッチコックの映画に出てくるような、一寸先も見えない濃い霧の立ち込める夜道を、新しく到着したメンバーを連れて、キャンプの近くまで帰ってきたとき、なんだか「ビューッ!」という、警笛のような、空気の擦れる音に気付きました。

(なんだろう?)

そう思ってマイクロバスの窓を開けて外を窺おうとした瞬間に、「ボーン」という爆音とともにガス・パイプラインから真っ赤な火柱が上がったのです。まるで原爆のキノコ雲みたいなカタチをした、赤い炎は、中学生のときカエルの解剖をしたとき見た、ハラワタを想起させました。

「逃げよう!」

トフェールさんが、そう言ったとき、(ハッ)と自分にかえったのです。

「ダメだ! キャンプには皆が未だぐっすり寝ている。早く行って、みんなをたたき起こさないと……トフェールさん、あの火柱の近くの道を、突っ切れ!」

そうやって危ない橋を渡り、向こう側のキャンプに着くと、手分けして仮設小屋のドアを「ドンドン」と叩いて回り、みんなを起こして安全な方へ逃がしたのです。

なにせ砂漠は暑いです。だから職人さんたちは、みんなパンツ一丁で寝ていました。兎に角、火の手が迫っているので、服を着る暇すらありません。皆、裸で、いのちからがら安全な処へ走ったわけです。

ところで鳶さんというのは、その道の人が多いので、背中に立派な刺青を入れている人が多いです。パキスタン人のトフェールさんは、みんなの見事な刺青を目撃して、目を白黒させていました。

やっとのことで全員を安全な処へ導き、点呼してひとりもキャンプに残して来なかったことを確認すると、なんだかホッとして、急に脱力しました。空は火柱のせいでオレンジ色に燻ぶっています。

皆がマイクロバスの中に入った時、「おい、へんなニオイがしないか?」と誰かが言いました。「てめえ、びっくらこいて脱糞したんと、ちゃうか?」そういう声もありました。

「いや……これはウンコの匂いとは、ちょっと違うな。それより……人間を焼くニオイだ」

その言葉で皆、ハッと気がつきました。「たいへんだ、おまえさんの頭髪が、火事になっている!」見ると赤い小さな塊が、幾つも髪の毛の中に埋まり込んでいて、それらがチリチリチリという音を立てながら、白い煙を出しているのです!

「アハハハハ!」

「そういうお前かて、頭が火事やでぇ!」

「ぐわわわわわぁ!」

皆、気ちがいのようになって頭髪を掻き毟り、異物を振り払いました。

結局、爆発で熱せられた大気が、竜巻のような上昇気流を作り、砂漠の砂が、この火柱のエレベーターに乗って空高く吹き上がり、真っ赤に燃えた砂が、我々の頭に降り注いだ、というわけです。

夜が明けると、建設現場の正門には、ずらっと戦車が並んでいました。これは石油化学プラントを、テロリストから守るための措置です。

結局、あの日の爆発がテロリストによるサボタージュだったのか、それとも単なる事故だったのかは我々には教えてもらえませんでした。

なぜこのような話をするかというと、中東に行く日本人には、僕のように中二病をこじらせたような冒険を求める「勘違い者」も居るけれど、大部分の日本人は社命を帯び、またはやりがいのある大きな仕事がしたくて、さらには家族を喰わせるために、地球の反対側まで行って仕事しているわけです。

だから人質事件の報道に接し、中東に沢山日本人が居ること知って(なんであんな危ないところへ行くんだ!)と勝手に憤っている人が居ますが、それは余りにも想像力が貧し過ぎです。

天然ガスや石油は、日本の輸入品目でトップになっている重要な生活必需品です。これが無ければ発電所もクルマも動かないし、夕ご飯の支度だって出来ないのです。それが出来るのは、上に紹介したような日本人たちが現地で頑張っているからです。

ついでに言えば中東では日本人は尊敬されています。アメリカ人やイギリス人の比じゃないです。日本人はきっちりとした、良い仕事をすることで定評があります。トヨタのピックアップ・トラックは酷使してもこわれないのでとても信頼されています。また日本人は、現地の政治や宗教に干渉しようとしたりしません。日本人が持ち込むのは、ジョニ黒とエロ本くらいのものです(=アラブ世界では、これらはご法度)

だから現地で頑張っている日本人に対して怪訝な目を向けるのではなく、彼らの尽力にリスペクトを払うべきだとは思いませんか?

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