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15年春闘の情勢と農協労働組合に求められるもの(その2)

〔以下の講演記録は、全農協連『労農のなかま』No.552、2015年1月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

Ⅱ 15年春闘の課題

(1)雇用の安定―規制緩和を許さず、新自由主義の復活を阻止する

 正規労働者は前年より10万人増えていると安倍さんは選挙演説で言っていましたが、それ以上に非正規労働者が44万人も増えています。⒉年前に比べると、正規は減少し非正規が増加した。正規から非正規への置き換えが進んでいるからです。

 雇用形態の多様化が雇用の切断を生み出すようであってはなりません。無期・直接雇用という原則を改めて確認し、確立していかなければならない。来年の通常国会に提出されるだろう労働者派遣法の「改正」を阻止することが重要です。

 また、雇用が切断(解雇)されても、生活を維持できるような雇用保険・失業手当が必要です。特にいまは、産業構造が変わりつつありますから、転職のための技術・職業教育が重要になっています。新たな技術に対応することで、再就職できるような支援を充実させなければなりません。

(2)賃金の画期的な引き上げ―当たり前に生活できる賃金の実現

 春闘の中心的な課題は賃金の引上げです。「政労使会議」で政府側が使用者側に2年連続で賃上げを要請し、これを経団連も容認しています。しかし、定期昇給・一時金・ベアは正規労働者のみで、非正規労働者や周辺的正社員にとってはほとんど関係ありません。

 パートなどの臨時職員にとっては時間給の引き上げが重要ですが、そのために最低賃金をもっと引き上げなければなりません。14年には16円アップしましたが、それでもまだ800円に届かない。これを早く1000円にまで引き上げる。

 企業における賃金引き上げは労使交渉によって決まり、政府が直接介入することはできません。しかし、最低賃金を引き上げることは政府が大きな影響力を行使できます。いまの政府はそのための努力が不十分です。

 もう一つ、政府が直接関与できる分野があります。国家公務員の賃金です。これを引き上げれば、それに伴って地方公務員の賃金も上がります。地方公務員の賃金が上がれば、地方の経済はずっとよくなります。 

 公務員賃金の引き上げは地域の賃金相場を形成する上でも重要です。その地域の世間相場を引き上げるためにも、公務員賃金の引き上げは重要です。

 ただし、そうなると中小企業は大変です。最低賃金が800円から1000円になったら、成り立たなくなる中小企業も多く出てきます。特別の援助措置や減税をやらなければなりません。

 ところがいま、大企業の法人税を25%ぐらいにまで引き下げて、不足する分の財源を中小企業から取ろうとしています。外形標準課税の導入です。当面見送られるようですが、いつまた復活するかわかりません。

 税金というものは、貧乏人からも取るか、金のあるところから取るか。この二つの方法しかありません。貧乏人からも取る税金の典型は消費税です。しかも、これは低所得者であるほど負担の割合が増えます。

 この間の円安・株高の恩恵を受けて、企業の内部留保は323兆7000億円にまで膨れ上がっています。1%の税金を取っても3兆円、2%取れば6兆円ですから、消費税を上げる必要はなくなります。

 年収1億円を超えると、税率が下がっていきます。金持ちになると税率が下がるなんて、こんなヘンな話はありません。かつてのように累進課税を強化すべきです。内部留保を賃上げにまわすだけでなく、税金として徴収し、それを低所得者に再分配しなければなりません。
 もともと税金には、富を再分配して均等化を図るという役割があります。それを実行するために、政府という強制機関があるのです。これ以上格差を拡大せず、それを是正するために、再分配を強める税制を考えるべきです。

(3)生きることを阻害しない労働時間の実現

 労働時間、時間外及び休日労働について規定している労働基準法36条の改正は、非常に重要な課題です。これによって長時間労働への法的規制を強化しなければなりません。また、不払い残業を一掃することも必要です。

 具体的には、残業時間の上限を過労死ラインと言われている月80時間以内に制限し、80時間以上の残業についての労使協定はすべて無効にしなければなりません。また、11時間のインターバル休息を取らなければならないように決めることです。インターバル休息は、EUで実施されている制度で、退勤11時間後でなければ出勤してはいけないというものです。

 過労死防止基本法が、臨時国会で成立しました。ただこれは、理念や目標を定めているだけです。したがって、その実効性を高めることが必要であり、そのために労働基準監督官の増員や権限の強化を図らなければなりません。

 労働者の権利や労働条件を守る法律は、日本にもちゃんとあります。しかし、それが守られていない、守らせるような体制が弱いということが、大問題なのです。ブラック企業が出てくるのはそのためです。

 安倍政権が行おうとしている労働の規制緩和は、日本社会全体をブラック企業化するようなものです。いわばブラック企業を合法化するということであり、このような規制改革が行われればブラック企業をなくすことはできなくなります。

 労働組合はこれらの労働の規制緩和に反対し阻止しなければなりません。同時に、すでに法律で決められている労働者保護の諸権利、たとえば年休をきちんと取るとか残業をしないで帰宅するというようなことにも、積極的に取り組んでいくことが大事です。

(4)労働と生活を下支えする社会保障の充実

 社会保障については、労働組合の課題としてこれまであまり取り組まれてきませんでした。しかし、今日では極めて重要な課題になっています。

 なぜなら、ライフスタイルに応じて必要となる生活のための費用がきちんと保障されなくなってきたからです。これらは年功序列賃金に組み込まれていました。しかし、業績・成果主義賃金などが導入され、業績が上がらなければ賃金は下がったり、フラットになったりしてしまいます。
 結婚し、家庭を持って子どもが生まれ、保育や教育の子育てがあり、やがて高齢化すると医療費がかかり親の介護も必要、老後にも備えなければならない……というように、ライフサイクルに応じて必要な経費が増えていきます。

 これを誰がどのように保障するのか、負担するのかが問題になります。それは政府や自治体が制度化し、国民に保障しなければなりません。そうしなければ生きてゆけない時代になってきました。

 ヨーロッパでは、そのような制度が充実していますが、日本では不十分です。そのため、年齢に対応しないフラットな賃金と社会保障の貧困が組み合わさってワーキングプアと未婚者が増加しているのです。最近は、少子化だけでなく結婚しない、結婚できない未婚化という問題が出てきました。特に非正規労働者の未婚率は高くなっています。

 さらに、一人では住居費が支払えないからということで、シェアハウスや「脱法ハウス」などに住むようになってきています。住宅の貧困です。そのうえ、若者のダブルワーク、トリプルワークも増えています。それを解決するためには社会保障政策の充実が不可欠であり、労働組合もこれに積極的に取り組まなければなりません。

(5)労働組合の組織化

 最後に、組織化の課題があります。仲間をふやし、数の力を強めるということです。労働組合とは、本来、労働者が団結して運動を行い、賃金を引き上げ、労働条件を改善し、労働者の権利を拡大するための組織です。

 ところが、いまの日本の社会では労働者は孤立し、分断されて仲間がいない状態におかれています。特に若い人たちは共に語り合える友人も少なく、信頼できる先輩など身近に相談できる人がいません。

 ですから、労働組合にとってまず大事なことは仲間づくりです。東日本大震災以降、「絆」の大切さが再認識されましたが、労働組合は血縁や地縁ではなくこころざし志にもとづいたつながりであり、その縁(えにし)を生かした「絆」が労働組合なのです。

 仲間を増やすことによって、その人たちに居場所を提供することが必要です。かりに十分に使用者とたたかうことができなくても、労働組合があるということに意味があります。仲間がいるということだけでも、今日では大切な財産なのです。

 愚痴を言い合ったり相談をしたり、仕事を教え合ったり悩みを打ち明けたり、支え合ったりする。そのような場が、あまりにも少なくなってきています。労働組合がそのような場になるといいでしょう。

 仲間を大切にし、もっともっと増やしていってほしいと思います。組合に入ってもらうことが、その人に迷惑になるのではないかなどと思ってはいけません。労働組合の組織化とは、分断され孤独な状況にある人々に救いの手を伸べることなのです。

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